OPEN MENU

MENU

減塩

食塩の摂りすぎによって起こる高血圧は生活習慣病の代表です。食生活を見直し、おいしく減塩するコツをご紹介します。
【基本編】知っておきたい減塩

日本人が食塩を摂りすぎる理由

世界的に見ても、日本人は食塩摂取量が多いことで知られています。「日本人の食事摂取基準(2015)」の1日あたり食塩摂取量の目標値(男性8.0g/未満、女性7.0g/未満)に対し、成人の1日平均食塩摂取量は男性10.8g/日、女性9.2g/日※1ですから、食塩を摂りすぎているのが現状です。

これでも以前に比べ食塩摂取量は減っていますが、日本高血圧学会が定めた目標値※2は1日6g(小さじ1杯分程度)未満、WHO(世界保健機関)が定めている目標値は5g未満となっており、世界基準に比べると、日本人は約2倍もの食塩を摂取していることになります。

※1:平成28年国民健康・栄養調査
※2:高血圧治療ガイドライン2014

日本人が食塩を摂り過ぎる理由のひとつとして、伝統的な食習慣として醤油やみそ等の調味料を使った料理や漬物、海産物加工品等、食塩が多い加工食品でご飯をおいしく食べてきたことがその背景にあります。ただ、保存技術が発達した現代では、調味料や保存食品の食塩含有量は減少傾向にあり、減塩食品の選択肢も広がってきました。しかし、惣菜等を含む加工された食品や料理、外食をとる機会が増えたことが、まだ日本人は食塩摂取量を減らすことができない一因になっていると考えられます。

塩分コントロールが難しい今どきの食生活

食塩は、調味料から約4割、加工された食品から約4割と、おおむね8割はこの2つから摂取しています。調味料に由来する食塩は、献立と調理の工夫で減らすことができますが、パンやチーズなど加工された食品の食塩を減らすのはむずかしいのが現状です。

塩分コントロールがむずかしい今時の食生活

一汁三菜(ご飯+汁物+主菜+副菜2品)の伝統的な日本人の食事形態は、栄養バランスに優れた和食の基本ですが、調味料の使い方や素材の持ち味を活かす調理法により、食塩をコントロールすることが比較的容易です。ところが、その主食をパンにすると、無塩のご飯と違いパンで食塩を摂取することになります。また、パンにつけるバターやチーズ、ハム・ソーセージ等の加工品に含まれる食塩からの摂取量が増えてしまいます。
また、加工された食品には保存と味付けのために食塩が使われていますが、そのまま食べることが多いので、意識しないと食塩摂取量が多くなりがちです。一方、食塩(ナトリウム)の排出作用がある野菜等に含まれるカリウムは水溶性のため調理の過程で減少し、ナトリウム量に比べ摂取されるカリウム量は少なくなりがちです。日本人のカリウム摂取量は食事摂取基準の目標量より少なく、WHOのガイドラインより1日当たり約1000㎎も少ないことから、Na/K比※3が高くなっており、高血圧のリスクを高めていると言えるのです。

※3:ナトリウム(Na)とカリウム(K)の比率(ナトカリ比)

食塩の摂取過剰は、高血圧をはじめさまざまな悪影響が

食塩を摂りすぎると血液量が増えて、血圧が上がりやすくなります。それは、血液中のナトリウム濃度が上がると、通常の濃度に戻すために血管内に水分を送り込むためです。また、加齢により血管が細くなることでも高血圧になりがちです。血圧が高い状態が続くと、血液を体に循環させるために心臓に負担がかかり、動脈硬化が始まり、心血管疾患、脳血管疾患などが起こりやすくなります。最近では、若いうちから高血圧の傾向にある人は特に、認知症のリスクを高めることも分かってきました。腎臓は塩分を排泄する臓器ですが、塩分摂取が多すぎると腎臓の負担となり、機能が低下する腎不全のリスクも上がります。

食塩の摂取過剰は、高血圧をはじめさまざまな悪影響が

この他食塩の過剰摂取は、メタボリックシンドロームなどのさまざまな生活習慣病の引き金となり、ナトリウムの蓄積が細胞壁を損傷することから、胃がん等の悪性新生物を発生させる一因になることもわかっています。同じような食生活をしていても、遺伝的に血圧が上がりやすい人もいれば、ほとんど影響のない人もいますので、遺伝的に高血圧リスクをもっている人は、血圧のチェックは必須ですが、リスクのない人でも食塩の過剰摂取には気をつける必要があります。食塩摂取を控えることは健康維持に欠かせず、寿命の長さ(長命)ではなく、本来の長寿=健康寿命の延伸にとって重要なことなのです。

適度に汗をかく運動で、ナトリウムの排出を

ナトリウムの排出をサポートするには、適度に汗をかく運動を習慣化することも大切です。何か特別なスポーツをするということではなく、早歩きやウォーキング、掃除などの家事でも、「汗ばむ」程度を目安にしてください。運動をすると、汗を出し、腎臓からナトリウムを排出させるホルモンが増えて、血圧が下がることがわかっています。

ウォーキング等の有酸素運動は、血液循環を改善し、血管が柔らかくなり、血圧が下がりやすくなります。また、有酸素運動には、体脂肪を燃やす減量効果があります。太っている人ほど塩分を体内に貯めやすく、痩せている人ほど食塩の過剰摂取が高血圧に影響しにくいという報告もありますから、太っている人は適度な有酸素運動で減量しましょう。なお、体重過多の人がいきなり走ると膝などへの負担も大きいので、まずはウォーキングから始めましょう。さらに有酸素運動にはストレス解消効果もあります。

適度に汗をかく運動で、ナトリウムの排出を

そもそも、高血圧の発症原因としては、遺伝以外では、食塩の摂り過ぎを筆頭に、肥満・運動不足・飲酒・喫煙・ストレスが挙げられます。要は、生活習慣によるものなのです。食生活も生活習慣のひとつですが、さまざまな疾患の引き金になる高血圧は、それ以外の生活習慣の影響も受けて発症します。減塩を意識した食生活だけでなく、その他の生活習慣も併せて見直し、健康的な日々を過ごしましょう。

教えてくれた先生
早渕 仁美 先生
奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科特任教授
公立大学法人福岡女子大学名誉教授
早渕 仁美 先生