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3.11から10年ー「共につくり食べる」楽しさがつなぐ地域の絆

3.11から10年ー「共につくり食べる」楽しさがつなぐ地域の絆

2021/03/11

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本日2021年3月11日、東日本大震災からちょうど10年が経ちました。

食や栄養を通じて社会課題の解決を目指す公益財団法人味の素ファンデーション(TAF)は、被災地のコミュニティづくりや食を通じて生活の改善に貢献しようと、「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」を東北3県の被災地域で行ってきました。
(2011年10月から2016年度末までは味の素グループにて、2017年度以降は事業継承をしたTAFにて実施)

今回、「AJINOMOTO PARK」編集部では、震災からちょうど10年を迎えるにあたって、「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」に携わってきたおふたりにインタビューを実施。プロジェクトがスタートしてからの約10年を振り返って、被災地で改めて認識した「いっしょにつくっていっしょに食べること」の大切さをうかがいました。

インタビューした人

公益財団法人味の素ファンデーション シニアアドバイザー

山田 幹夫さん

1980年味の素株式会社入社。業務用営業、インドネシア出向、人事総務業務などを経験した後、本社CSR部~公益財団法人味の素ファンデーションで、本業務に従事する。5支社制覇+海外勤務で引っ越し14回、ようやく仙台市で落ち着く。好きなことは「うまい料理を食する」「うまい酒をたしなむ」「読書(特に歴史もの)」。

インタビューした人

公益財団法人味の素ファンデーション 栄養士

三浦 優佳さん

委託給食会社、ダイエット施設での食事指導など、栄養士業務を経て現在に至る。“楽しいことは実践しやすい”をモットーに、食・栄養の大切さを伝えようと奮闘中。災害時の栄養・食支援や減災活動のお役に立てるよう、日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)に加入。好きな食べ物は「ホヤ」。

  1. 移動式キッチンで、共につくり共に食べる場を
  2. 「もう一度、調理の楽しさを見つけてほしい」という想い
  3. 料理から自然に生まれるコミュニケーションが地域のつながりに
  4. 減災のためにも、バランスよく食べることを伝えていきたい

01
移動式キッチンで、共につくり共に食べる場を

――はじめに、「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」の活動内容について教えてください。

山田さん:プロジェクトの主な活動として、健康や栄養についての講話や移動式キッチンを使って参加型の料理教室「健康・栄養セミナー」を実施してきました。地域のさまざまなパートナー*1さんと協働しながら、いっしょに学び、つくって食べて、語らう場を提供しています。

(*1:行政、社会福祉協議会、NPO、企業など地域に根差して被災者支援を担ってきた方々のこと)

プロジェクトは今も続けていますが、財団からスタッフを派遣する活動は2020年3月をもって終了しました。4月からは地域のパートナーさんたちが自主的に開催するセミナーにレシピを提供したり、スタッフ向けの安全衛生研修などを実施したりしてサポートしています。

――おふたりはどのような想いでプロジェクトに関わられたのでしょうか?

山田さん:定年退職まで社会貢献になるような仕事ができればと、はじめて異動希望を出し、それが叶うかたちで2014年の7月に着任しました。

三浦さん:私は2015年4月末に栄養士としてこのプロジェクトに着任しました。岩手県釜石市出身ということもあり、地元東北に役立つことが何かできないかとずっと想っていたところ、岩手県栄養士会でこのプロジェクトの栄養士募集を見つけて応募しました。

02
「もう一度、調理の楽しさを見つけてほしい」という想い

――「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」も10年目となりましたが、そもそもこのプロジェクトはどのような経緯で始まったのですか?

山田さん:東日本大震災の被災状況の酷さを目の当たりにして、「味の素グループとして被災地のために何かできないか」と特命を受け派遣された担当者が、地域で被災者支援を担っていた社会福祉協議会の方から「津波で壊れてしまったコミュニティ再生のための場をつくって欲しい」と相談されたことがキッカケでした。

そんな中、担当者が思い出したのが移動式キッチンでした。もともと、事業活動の中で料理離れをしている若い女性を対象とした料理教室のためにつくられたものでしたが、これを何らかの形で被災者支援に活用できないかと考えたんです。

そして、パートナーさんにいろいろ相談しながら調理設備が十分にない仮設住宅に住む方々に向けて料理教室を開くことになったんです。

三浦さん:仮設住宅のキッチンはとても狭いため、調理意欲をなくされてしまうケースが多くて。カップ麺や出来合いのものを食べている方が少なくなかったそうです。

そういった方たちに、もう一度調理する楽しさを思い出していただきたいということで、「いっしょにつくっていっしょに食べる」というテーマが生まれたと聞いています。

仮説住宅の狭いキッチン環境を想定し、給湯室でレシピづくりする三浦さん

03
料理から自然に生まれるコミュニケーションが地域のつながりに

――取組みを通して、地元の方や地域コミュニティに見られた変化はありましたか?

山田さん:料理教室は1回にだいたい15~20人程度が参加し、4~5人の班に分かれて料理をするので、まったくの初対面であってもいっしょに料理をつくりながら自然にコミュニケーションが生まれていきます。そのうちに、顔しか知らなかったような方同士でもいろいろな話をするようになっていく姿が見られ、コミュニティ形成の一つの助けにはなったのかなと感じています。

また、地域コミュニティには、こういった集まりの場になかなか出たがらない方もいらっしゃるのですが、食は誰しも関心があるテーマです。地域が主体者になるよう、パートナーさんに主催者になっていただき、住民さんに広く声をかけていただいたり、参加者の住民さんから新しい方に声掛けをして連れてきていただいたりして、参加者の輪が広がっていきました。

各地の社会福祉協議会の支援員さんがこの料理教室という場を活かし、被災でご家族を亡くされて単身になってしまい、日々の食事や健康面でお困りごとのある男性に集まっていただけるようにしてくださったりもしました。これは「男の料理教室」となり、後に部活動のように続くことになります。

――料理教室でのコミュニケーションを活性化するために、工夫されていたことはありますか?

山田さん:私は料理教室の講師を務めていました。特に資格ももっていないのに、「これを切ってください」「あまり先走らないでください」と一から十までレクチャーするので、できるだけ押しつけにならないよう、「私のようにメタボになってはいけません」などユーモアを交えておもしろおかしく進めることを心がけていましたね。

三浦さん:山田さんのレクチャーは好評だったみたいです。今はコロナ禍で料理教室が開催できないので、紙に印刷してお配りしているレシピにハガキをつけてみなさんからの声を募集したのですが、「調理指導がわかりやすく楽しかった」「またぜひやってほしい」という声が多く寄せられていました。

山田さん:それはうれしいですね。

三浦さん:私は、現地で料理教室に参加するよりも東京でレシピ開発をしていることが多かったです。たとえば、みんなでいっしょに食材をコロコロ丸める調理工程を取り入れるなど、「いっしょにつくる」ことを通してコミュニケーションが活性化しやすいようにと考えていました。

参加者の方の顔を思い浮かべながら、「こういうつくり方もあるんだね」「季節を感じる食材だね」といった会話が生まれたらいいな・・と、その想いをレシピと山田さんなど現地のメンバーに託していた感じです(笑)。

健康栄養講話の内容も私が考えていたのですが、栄養士の説教みたいにならないよう、参加した方に楽しんで帰ってもらえるように心がけていましたね。レシピづくりも、栄養ばかり重視するのではなく、楽しい、また来たいと思ってもらえる時間をつくることにこだわっていました。

料理教室で人気が高かったメニューのひとつ「枝豆と塩昆布の焼きいなり」

――楽しみながら体験できると、食や栄養への関心も高まっていきそうですね。

山田さん:そうですね。楽しくないと続かないと思います。被災から間もない頃はとにかく楽しんでいただくことを最優先に考え、その後復旧から復興へ、仮設住宅から災害公営住宅へ・・・とステージや場所が進化するのに合わせて、パートナーさんとも相談しながら、何年もかけてだんだん栄養の要素が強くなってきた感じです。

三浦さん:プロジェクトでは男性の方が参加しやすいよう、男性だけの料理教室も開催しているのですが、その参加者の方からは、「参加するたびに減塩や栄養について言われるから、カップ麺を控えるようになったんだよ」という言葉が聞かれて、長く続けること、その中で繰り返し伝えることが大事なんだなと感じました。

そして、話し手が専門職である栄養士や調理士でないことが、もしかしたら身近に感じていただけた理由なのかもしれませんね。

04
減災のためにも、バランスよく食べることを伝えていきたい

――改めて、これまでの活動を振り返っていかがでしたか?

山田さん:私自身は6年間料理教室をやってきましたが、たくさんの笑顔に出会い、行くたびに感謝され、「また来てね」と言っていただけるので、私自身もとても励まされました。料理教室では楽しくやることを心がけていましたが、私もとても楽しく、やりがいがありましたね。

三浦さん:私も、自分自身が料理教室に参加してすごく励まされたという気持ちが大きいです。自分を支援者だと思ったことは一度もなくて、少しでも地域の人の気持ちに寄り添えたらという想いでやってきたので、ほんの少しの時間でも楽しんで、「また来てね」と言ってもらえるということはすごくありがたいことだなと感じていました。

また、現在大学の先生にお願いをして、これまでのプロジェクトの評価をしていただいていますが、「参加型の料理教室は、参加者の食と栄養についての感度を高め、地域コミュニティ再生の一助となった」という結果が出てきており、それはパートナーさん、参加して下さったみなさん、みんなの成果だなと感じています。

三浦さん:参加者の方とお話しする中ですごく印象に残っているのは、「(震災のことを)忘れられるのが怖い」という言葉。それを聞いて、忘れないということも一つの応援の形なんだなと思いました。

何年経っても心の復興はされないと思うので、その気持ちにはずっと寄り添わせていただきながら、次の災害に備えて減災の啓発も行っていかなければいけないと考えています。食の分野では、普段から栄養バランスよく食べて健康な心と体をつくるということが、誰にでもできる減災の一つ。

日ごろから栄養バランスの良い食事に気を遣っていただけるよう、これからの活動でもみなさんにお伝えしていきたいと思っています。

被災地の栄養改善やコミュニティ再生のサポートに尽力してきた「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」。現在までに実施回数は3,700回を超え、参加者の方々の数も、のべ54,000人以上に達しています。

震災から10年が経過した今、参加型の料理教室は現地の協働パートナーの方々が主体となって実施され、新しいコミュニケーションや笑顔の輪が生まれています。プロジェクトで撒かれた種がどんなふうに展開していくのか、見守っていきたいですね。

*現地の協働パートナーの方々が主体となって実施されている料理教室の様子は、以下からご覧になれます。

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