江戸のイワシ飯から古代ローマのパンまで。すいじば Genさんの食をめぐる知的冒険
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おいしそうな料理を発信する人たちは、普段どんな食生活を送っているのでしょうか。新連載「I EAT FOR」は、人気料理クリエイターたちの"食べる理由"をひもとくインタビュー企画。
2回目は、人気料理チャンネル〈すいじば SUIJIBA〉を運営するGenさんのご自宅へ。文献から江戸や古代ローマの料理を甦らせ、有名企業のレシピを力技で再現する……食への探究心に迫ります。動画とあわせてお楽しみください!

インタビューした人
料理動画クリエイター・Genさん
YouTubeチャンネル〈すいじば SUIJIBA〉を運営。企業のレシピの再現、江戸時代の食卓や歴史料理、食の雑学をテーマにした動画などを投稿。緻密なリサーチと試行錯誤、淡々とした語り口の奥ににじむ静かな狂気で人気を集めている。
動画はこちら
江戸や古代ローマの料理を文献から再現
——Genさんの運営する〈すいじば SUIJIBA〉の人気企画といえば、江戸時代の料理を再現するシリーズですね。時代背景まで、かなり丁寧に調べ込んでいますよね。

Genさん「食の背景に、当時の人々の生活や、おいしいものを食べたいという工夫が見えてくるのも楽しいんですよね。料理は、日常的な行為ながら、追求するほど深みにハマる、底なし沼的な喜びがありますね。
それに、昔の文献の中に、現代人がほぼ誰も知らないであろう料理が見つかることがあって、それを実際に自分で作って食べることができるのは醍醐味です」
——中でも印象に残っているレシピはありますか?

Genさん「やはり『イワシ飯』ですかね。江戸時代後期の米飯料理書『名飯部類』に出てくる料理なんですけど、土鍋で炊いた米に穴を掘って、生のイワシを突っ込むという料理です」

——ちなみに、イワシ飯のお味はどうなんでしょう?

Genさん「なぜ消えていったのかがよくわかる味、といいますか、非常に刺激的なお味でしたね。しかし、知的好奇心は非常に満たされる料理でした」
——古代ローマのレシピも再現していましたね。

Genさん「古代ローマのパンですね。小麦粉と水を置いて、空気中の酵母で発酵させる作り方で、若干臭いパンになるんですけど、当時の人がどう作って、どう食べていたのかに近づける感じが面白かったです。おいしさだけを追うと、たどり着けない場所ですね」
——人気の企業レシピを力技で再現する企画も人気です。

Genさん「体への負担が大きすぎて、封印したシリーズですね。同じものを何ヶ月もかけて何十回も作っては食べ続けるので、大変なんですよ。某フライドチキンの再現では、揚げ物をひたすら食べ続けて如実に太りました。若さによる気合いが消えかけている今となっては、不可能な企画かもしれません」
——キッチンには手作りの味噌もありました。フタを開けた瞬間、かなり強烈な香りがしましたが……。

Genさん「江戸時代の方法で仕込んだ味噌ですね。当時はヒノキの樽で保存していたんですけど、ヒノキの割り箸を入れて香りを再現しています」
——味はおいしいんでしょうか?

Genさん「現代の味噌よりだいぶ塩分量が多いですが、味は、普通に味噌ですね。常温保存なので主張の強い香りがしますけれど、おいしいですよ。
もともとは動画にするつもりで仕込んだんですが、映像的に地味すぎてお蔵入りになりました。なので、今は常備の調味料として、江戸の味噌が家にある状態ですね」

こだわりの道具と希少な料理本
——道具や器にもこだわりが詰まっていそうですね。

Genさん「歴史ものの料理では、なるべく当時使われていた食器を使いたいので、江戸時代の古い器が多いですね。絵も手描きですし、形もいびつだったり、欠けやすかったりするのも、愛着が湧いてきます。当時どんな人が使っていたのか、思いを馳せるのもたまらないですね。
あとはタコスをよく作るので、トルティーヤプレスはサイズ違いで3つあります。トルティーヤを伸ばす以外の用途が皆無で、日本の一般家庭には全くもって不要ですが、ロマンあふれる道具です」
——ひときわ年季の入った中華鍋は、何ですか?

Genさん「これは18歳くらいから使ってますね。ホームセンターで800円くらいで買った中華鍋ですけど、使いやすくて。調理器具は値段に関わらず自分の手に馴染むものを長く使うのがいいかもしれないですね」

——書斎には江戸時代の料理資料も多いですね。

Genさん「頻繁に見るのは19冊組の『日本料理秘伝集成』(同朋舎出版)ですね。これで江戸時代の料理本の翻訳は、だいたい網羅しているので、こちらを見ながら当時の文献と照らし合わせていきます。
ほかにも『婦人倶楽部』(講談社)という雑誌では、戦前の食の好みが見えますし、『守貞謾稿(もりさだまんこう)』では、江戸後期の生活風俗がイラストつきで見られます。そういう料理の背景にある生活が見えるのはおもしろいですね」

——古い料理本で、おすすめのものはありますか?

Genさん「外せないのは『料理物語』でしょうか。江戸時代初期の料理本で、日本の料理本の歴史を考えるうえで欠かせない一冊です。食材として、カワウソやサンショウウオ、ケシの花などが出てくるのも、当時の食への探究心が見えてたまらないです。
ただ、現代の食事で使うには難しい部分もあって、たとえば当時は醤油も一般的ではないですし、基本的に砂糖も今のようには使えないんですよ」
——醤油も砂糖もなしで和食を作るのは、今の感覚だと難しそうです。

Genさん「ただ、その不自由さがおもしろいところでもあるんですけどね。いかに限られた食材でおいしいものを作るか、という当時の人たちの創意工夫が勉強になるというか。
ちなみに、その『料理物語』の翻刻本は絶版になっている希少なものです。古書店では5万円以上の値段がついていることもありますね」
——5万円の本!

Genさん「もっと手に入りやすいものだと、江戸後期に出版された『豆腐百珍』は、豆腐料理だけで100品紹介する料理本で、この時代になると調味料がかなり出そろってくるので、今の味覚にも近いですし、江戸料理を真似するにはおすすめです」

山を買って竪穴式住居を作りたい
——〈すいじば SUIJIBA〉で、これからやってみたい企画はありますか?

Genさん「古代シリーズだとまだ古代ローマしかやっていないので、エジプト、メソポタミア、ギリシャ、ウルクとか、そこら辺もやりたいです。
あとは、最近、長野県の山を見ていまして。山に土地を手に入れて、そこで竪穴式住居を作ることを始めたい、というのがありますね」
——えっと、山に竪穴式住居……料理の話ですよね?

Genさん「はい、料理の話ですね。縄文人シリーズをやりたくて、縄文の料理を作るなら、住居や土器から作ってみたいんですよね。その界隈では、黒曜石から矢じりを作る方もいらっしゃるので、そういう方々に教わりながら」
——どの企画も、かなりの時間と手間がかかりそうですが、モチベーションは何なのでしょうか?

Genさん「完全に趣味の延長なんですよね。野心的に壮大なことを目指すとかはなくて、好きなことをずっと続けている感覚なんです。だから一生続けられると思っています。
夜通し作業に没頭することが多いですし、制作中は、基本的に家の周りから出ません。世の中との接点は狭いですが、それによって創造性を底上げしようとしている部分はあるかもしれません」

料理から見える歴史と風土
——ちなみに、Genさんの普段の食事はどんなものが多いんですか?

Genさん「プライベートではわりと素朴なものを作ることが多いですね。制作中は、常人の作らない料理を作ることが多い反面、普段の食事はちゃんとしたいんです。
江戸レシピもそうですが、時代を超えて残ってきたものに意味があると思っていて。なので、わりと正統派のレシピが好きなんですよね。よく食べるのは、武蔵野うどんですね」
——武蔵野うどん、というのは……?

Genさん「私が生まれ育った武蔵国(現在の東京・埼玉と神奈川東部あたりを含む地域)が誇る傑作料理ですね。関西の方が見たら気絶するくらい濃い色の豚肉のつけ汁で食べる、無骨なうどんです。
もともと埼玉や東京のあたりは、米の生産にあまり向いていない土地で、江戸時代から小麦の生産が盛んだったんです。そこに関東風の甘辛い味付けが合わさって、醤油ベースの豚肉うどんになりました。
『ほんだし®』を使うことが多いのですが、手軽に作れて度肝抜かれるくらいおいしいです」


——うどんの背景に、ローカルの風土が見えるんですね……!

Genさん「何にでも必ず理由があるというか。そこを知るとおもしろいんですよね。ちなみに、私は武蔵野うどんを広める会を作りたいくらい、この料理を愛しています」
——最後に、連載テーマである「I EAT FOR」について聞かせてください。Genさんは、何のために食べていますか?

Genさん「世界を知りたいから食べる、という感覚が近いかもしれません。普段食べているうどんにも、土地の歴史がありますし。昔の料理を再現すれば、当時の人の感覚や生活に近づける気がします。
それに複雑な調理ができるのは、人間固有の能力だと思うので、人として生まれた特権を享受していきたいとも思いますね」

Genさんの「武蔵野うどん」のつくり方
材料&調理手順
材料(4人分)
| 豚バラ肉 | 400g |
|---|---|
| 長ねぎ | 2本 |
| 水 | 800ml |
| 酒 | 大さじ2 |
| みりん | 大さじ2 |
| 砂糖 | 大さじ2 |
| 濃口醤油 | 大さじ6 |
| 「ほんだし®」 | 小さじ3 |
| 「AJINOMOTO 濃口ごま油」 | 5〜6滴 |
| うどん(乾麺または生麺) | 4人前(乾麺なら400g、生麺なら800g程度) |
つくり方
- 1
豚バラ肉は5mm強の厚さに切る。長ねぎは斜め切り、または4〜5cmの長さに切る。(※澄んだ味に仕上げたい場合は、煮込む前に豚肉を別鍋の熱湯でサッと下茹でしておく。)
- 2
鍋に水、酒、みりんを入れて中火にかけ、しっかりと煮立ててアルコールを飛ばす。
- 3
(2)の鍋に「ほんだし®」、砂糖、濃口醤油を加える。再び沸騰したら(1)の豚バラ肉と長ねぎを加え、アクを取りながら具材に火が通るまで5分ほど煮込む。仕上げに「AJINOMOTO 濃口ごま油」を垂らす。
- 4
別の鍋でたっぷりの湯を沸かし、うどんを袋の表示通りに茹でる。茹で上がったら冷水でしめて水気を切り、皿に盛る。(3)の温かい肉汁を別のどんぶりに注いで完成。
※Genさんの武蔵野うどんの動画はこちらから