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くさみなし、ふっくら仕上がる! おさえておきたい 「煮魚」のきほん

くさみなし、ふっくら仕上がる! おさえておきたい 「煮魚」のきほん

2025/09/11

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「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」……など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?

連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。

第8回目は「煮魚」。今回は「さばのしょうが煮」を作りながら、くさみのない、ふっくらおいしい煮魚に仕上げるコツを、味の素社の研究者・川﨑さんに教えていただきます!

(はがれない&ぱさつかないピーマンの肉詰め、色鮮やかなおひたしを作るコツなどを解説してきたこれまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!)

インタビューした人

味の素社 研究者

川﨑 寛也さん

博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。

  1. 気になるくさみは、よく洗って、よく拭くのが大切
  2. ポイント1:煮汁の比率は「4:4:1:1」+砂糖が目安
  3. ポイント2:鍋は大きすぎないものを選ぶ
  4. ポイント3:落としぶたはひと回り小さく
  5. ポイント4:煮立てるときはブクブクと
  6. ポイント5:煮汁を回しかけ、ふっくら仕上げ

01
気になるくさみは、よく洗って、よく拭くのが大切

川﨑さん「みなさんから『煮魚で味が染み込みません』というお悩みをよくいただきますが、実は染み込まなくてもいいんです。煮魚とは、魚のうま味が溶け込んだ煮汁に、魚の身をつけていただく料理なんですよ」

ただ、魚にくさみがあると煮汁も身も台無しになってしまいます。そうならないためには、魚の下処理が大切です。

川﨑さん「下処理にはさまざまな方法があります。表面に塩を軽くふり、出てきた水分をぬぐう、塩水で洗う、湯をかけて『霜降り』にする、なども効果的ですが、手軽なのは水洗い。血合いなどをよく洗い、しっかり拭き取れば、十分おいしくいただけます」

中骨のきわに血合いがあるので、流水でよく洗う。切り身の場合は、身が張り、皮の色艶の良さが鮮度を見極めるポイント。ドリップが多いものは、鮮度が落ちている可能性が高い。鮮度が落ちた魚のときは、表面に塩をふる、濃度1%程度の塩水で洗う、「霜降り」などの下処理をするとよい

川﨑さん「魚のくさみには、主に2つの原因があります。一つは、魚が酵素や菌に分解されることで発生する、トリメチルアミンという物質によるもの。もう一つは、血合いや内臓に多く含まれる脂質が酸化することで起こるにおいです。

トリメチルアミンは水に溶けやすい性質があるため、水で洗うだけでにおいを軽減できるんです。血合いや内臓をきれいに取り除けば、脂質酸化によるにおいも防げます。さばは特に血合いが多い魚なので、中骨のまわりなどを入念に洗い流すのがポイントです」

水分を拭き取るのは、煮汁が薄まるのを防ぐ目的も。今回のレシピは、ほかの魚でもおいしく作れる。ただし、カレイなどのぬめりが多い魚は、湯をかける「霜降り」をするのがオススメ

下処理ができたところで、ここからは実演しながら調理時のコツをみていきます。今回使う材料はこちらです。

材料(2人分)
さば
2切れ(1切れ100g程度)
-煮汁-
160ml
160ml
こい口しょうゆ
40ml
みりん
40ml
砂糖
15g
しょうが(薄切り)
15g

02
ポイント1:煮汁の比率は「4:4:1:1」+砂糖が目安

酒は料理酒ではなく、どんなものでもいいので清酒を使うのがオススメ。料理酒には塩が含まれているので、煮詰めるとしょっぱくなる

煮汁の比率は「酒:水:こい口しょうゆ:みりん=4:4:1:1」が基本。これにお好みで砂糖を加えます。今回の場合は、酒・水は160ml、こい口しょうゆ・みりんは40ml、砂糖は15gです。

調味料を計量しながら鍋に入れていきましょう。順番は気にしなくて大丈夫です。

川﨑さん「もちろん、この配合はお好みに合わせて調整していただいて構いません。甘みを加える場合はみりんと砂糖どちらも使えますが、甘さの質が違います。みりんはすっきり、砂糖はコクのある甘さが出せます」

03
ポイント2:鍋は大きすぎないものを選ぶ

調味料を合わせたら、下処理したさばを加えます。

川﨑さん「煮魚の醍醐味は、魚のうま味が溶け込んだ煮汁です。このうま味を最大限にいかすためには、煮汁の量が大切です。多いとうま味が薄まり、少ないと味がきつく感じます」

ベストなバランスは、さばを入れたときに「身の1/4程度が煮汁から出る量」。そのためには、鍋の大きさも肝心です。

皮目は上に。下にすると、鍋と接触してはがれやすくなる。骨つきのさばを選ぶと、煮崩れしにくい

川﨑さん「魚が煮汁に沈まず、並べたときに余白が少ない大きさの鍋を選びましょう。すると、煮汁の対流が起きやすくなり、魚全体にまんべんなく味が行き渡ります。

手持ちの鍋や使う魚によって、必要な煮汁の量は変わります。だからこそ、先ほどの煮汁の基本比率を覚えておくと便利です」

鍋の空いているスペースに、ごぼうやねぎ、大根などを入れて一緒に煮込んでもよいそうです!ただし、火の通りが悪くなることもあるので、詰め込みすぎにはご注意を。

04
ポイント3:落としぶたはひと回り小さく

薄切りにしたしょうがを鍋に加えたら落としぶたをし、火にかけます。

川﨑さん「しょうがは、皮をむかずにそのまま使います。皮の方が香りが強いからです。ただし、皮に黒い部分があればその箇所だけ取り除きましょう。しょうがのように香りの強い食材には、魚のくさみを覆い隠す『マスキング効果』が期待できます」

落としぶたがなければ、アルミホイルで代用できる。作り方は、まずアルミホイルを鍋の大きさからひと回り小さく切る。次に、端を内側に折り込みながら円形に整え、中央に穴を空ければ完成

川﨑さん「落としぶたは、鍋よりひと回り小さいサイズを選んでください。蒸気の逃げ道を作ることで適度に煮詰まり、さらに煮汁の循環もよくなるため、ムラなく魚に火が入ります」

05
ポイント4:煮立てるときはブクブクと

写真の火加減は強火で、鍋底全体に炎が勢いよく当たっている状態。中火は、鍋底に炎の先端が軽くあたるくらい

火にかけたら、中は触らずに15分ほど煮ます。火加減は、沸騰するまでは「強火」、沸騰したら「中火」にします。

沸騰後、中火で火にかけている様子。煮汁はブクブクと煮立たせてOK!酒に含まれるアルコール成分が蒸発することで、くさみの元であるトリメチルアミンを同時に飛ばす効果もある
左:理想的な煮立ちの具合。勢いよく泡がたっている、右:煮立ちが弱い

川﨑さん「煮魚は焼き魚と違い、ひっくり返す必要はありません。しっかり煮立てることで、皮の部分にまで味が行き渡ります。また煮汁が濃縮されて、身とのからみもよくなりますよ」

06
ポイント5:煮汁を回しかけ、ふっくら仕上げ

15分経ったら、落としぶたを取ります。ここで味見をし、好みの濃さになるまで煮詰めましょう。

川﨑さん「煮汁を魚の皮目に回しかけながら煮詰めます。これは表面が乾燥してパサつくのを防ぎ、ふっくら仕上げるためです。

もし味が薄く、煮汁が多く残っている場合、調味料は足さず、煮詰めて濃縮させます。逆に、味が濃い場合は、水を加えて再び沸騰させてから、煮詰めましょう」

完成です!

勢いよく煮立たせたのに、皮は破れておらずツヤがあります。

箸をいれると、「味は染みこませなくていい」という川﨑さんの言葉通り、身は白っぽく煮汁が染みていないことがわかります。たっぷりと煮汁をつけて口に運ぶと、ふっくらとした身のうま味を、甘辛い煮汁が引き立てます。

魚が食べたいとき、焼き魚一択という方も多いかもしれません。けれど、コツを押さえれば煮魚も意外と簡単!洗い物が少なくて済むのもうれしいポイントです。この機会に、煮魚を魚料理のレパートリーに加えてみませんか?

  • 執筆/佐々木 まゆ 撮影/佐々木 孝憲 編集/長谷川 賢人
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