クリスマスや忘年会など、にぎやかな食卓が増える季節。ちょっと贅沢なローストビーフは、食卓をぱっと彩ってくれるので、一年を締めくくるシーンにもぴったりです。せっかくなら手作りしたいけれど、“自分で作るのは大変そう”と思う方も多いのでは?
そこで、以前「究極の唐揚げ」のレシピを教えてくれた、味の素社でも屈指の肉マニアとして知られる木場さんに、家庭で簡単に作れる「究極のローストビーフ」の作り方を教えてもらうことに。木場さんは味の素社の「おいしい食感」を研究する食感制御グループに所属。業務で得た知見を生かしながら研究を重ね、肉料理の常識を変える「究極のローストビーフ」の作り方にたどり着いたのです。特別な材料や調理機器を使わずフライパン1つでできるレシピを、実演を交えてお届けします。
インタビューした人
味の素社食品研究所食感制御グループ
木場隆介さん
2012年入社。食感、味、香りのおいしさ設計技術開発を担当。硬い肉のスジをやわらかくする発明、しっとりジューシーなお肉にする発明、唐揚げのできたて風味を維持する発明、肉を使わずに肉らしい風味を付与する発明など、数々のおいしいお肉の特許技術を取得。自称ミートマスターとして、日々“おいしさ” によってもたらされる幸せの科学を探求中。
- 理想のローストビーフは “外は香ばしく、中はしっとりジューシー”
- 【ポイント①】最初の火入れは低温でゆっくり!
- 【ポイント②】たれで炭火のような香ばしさをプラス!
- 「究極のローストビーフ」の作り方
- たれをくるっと巻くのが木場さん流!
01
理想のローストビーフは
“外は香ばしく、中はしっとりジューシー”

ローストビーフは、牛肉を大きな塊のまま天火(オーブンの上火)で焼いた料理。表面は褐色、内側は鮮やかなロゼ色に仕上がっているのが特徴です。

木場さん「ローストビーフはシンプルだからこそ、すごく奥深い料理なんです。日本人が普段食べ慣れているような焼肉やステーキには、脂が入っている部位のお肉が多く、多少高温で焼いても柔らかく仕上がるのですが、ローストビーフは赤身が主役になるので、火を入れすぎると固くパサパサしてしまいやすい。だからこそ、外は香ばしく焼き上がっていて、中は肉汁を逃さずしっとりジューシーに仕上がっているのが究極のローストビーフだと考えています。どうやったらそれを叶えられるか研究を重ねて導き出したのがこのレシピです」
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【ポイント①】最初の火入れは低温でゆっくり!
「究極のローストビーフ」を作るために重要なポイントを、木場さんが2つ教えてくれました。まず1つめは、肉汁を逃さないようにするための「火入れ」です。

木場さん「肉汁を逃さないようにするために一番大事なのは、『低温、長時間』。意外に思うかもしれませんが、表面に火入れする際は、極力 “弱火” にするのがポイントです。最初、じっくりと弱火で表面に火を通すことで、ドリップがほとんど出ず、しっとりとした食感に仕上がります」

耳を澄ませて微かにシューッと小さく音が聞こえるくらいがちょうどいい火加減。「最初に高温でジューッと焼き上げた方が、内側に肉汁を閉じ込められるんじゃないか」と思ってしまいがちですが、むしろその逆なのだとか。
木場さん「肉は、約60℃で筋繊維が縮みはじめます。ただし、食中毒の原因となる細菌を確実に死滅させ、安全に食べられる状態にするため、63℃以上で調理することが必要です。つまり、63℃をいかに長時間キープするかが、肉汁を外に出さないためにとても大切なんです。油を入れて熱したフライパンはすぐに180℃、200℃まで上がります。この超高温に肉を入れてしまうと、一気に筋繊維が縮んで肉汁が外へ出てしまう、というわけです。
『低温、長時間』はフレンチの技法のひとつでもあり、以前訪れたレストランの厨房でも、実践されていました。『最初は弱火』に気をつければ、誰でも失敗なく作ることができますよ」
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【ポイント②】たれで炭火のような香ばしさをプラス!
2つめのポイントは、炭火のような香ばしさを加えること。木場さんは味の素社のある商品からヒントを得て、香ばしさを引き出す方法を編み出しました。
木場さん「炭火で焼いたローストビーフはすごくおいしいですが、手間がかかりすぎるし、ご家庭ではなかなか難しいですよね。なにか良い方法はないかと考えていたとき、味の素社で燻煙をつけた商品を作っていたことを思い出しました。そこで「肉自体に香りをつけなくても、たれで工夫できるのでは」と閃いたんです。

木場さん「炭火で焼いたような香りってなんだろう、と考えた先に辿り着いたのが、苦くない焦げ風味、温泉のような硫黄臭のボイル香です。これらはアミノ酸の熱分解やメイラード反応、糖のカラメル化反応などで生成された成分が合わさったものです。中華料理のように、強火で焦げる一歩手前まで火入れすることで、焦げ感ある香ばしい香りが引き出されます。今回は、アミノ酸や糖が豊富なしょうゆやにんにく、三温糖を使うことで、調味料で炭火のような香ばしさを再現していきます」
これらの内容を踏まえて、調理のポイントを解説していただきます!
04
「究極のローストビーフ」の作り方

手順1:牛モモ肉ブロックに調味料を擦り込む

冷蔵庫から出した牛モモ肉ブロックに塩、おろしにんにく、黒こしょうを手で擦り込みます。
木場さん「牛肉を選ぶときのポイントは、赤くて発色の良いもので、かつ直方体だといいですね。また、あまりにも大きすぎると中まで火を通すのが難しくなるので、350gから400g前後がおすすめです」

木場さん「下味をつけるときは、ぜひ手袋をつけずに素手で擦り込んでください。素手で揉み込んでいくことで、手の体温が肉に伝わりじんわりと温度が上がることで焼くときの火の通りが良くなります」
手順2:30分室温で放置後、表面の水分をキッチンペーパーで拭き取る

木場さん「下味をつけて置いておくと、表面に水分が少し出てきます。肉くさみのもとなので軽く拭き取ります。表面についているこしょうがとれないように、軽くぽんぽんと拭き取るとよいでしょう」
手順3:常温のフライパンに牛モモ肉を入れる

フライパンにオリーブオイルを垂らし、火をつける前に牛モモ肉を入れ、油を塗り拡げます。通常、油を熱してから肉を焼きますが、常温のフライパンの上に置くのがポイントです。
手順4:弱火のまま焦がさないように全体を色付けする

弱火で着火し、弱火のまま焦がさないように全体を色付けしていきます。
木場さん「さきほどお話したとおり、60℃以上で肉の筋繊維が縮んでしまうので、いきなり焦げ目がつくほどの高温度で焼いてしまうと一気に肉が縮んでしまいます。最初はあくまでも表面に色をつける程度で火入れします。小さくシューッと音が出るくらいがちょうどいい火加減の目安です」
手順5:一度、肉を引上げ、牛脂を入れる

牛脂を入れて、強めの中火にします。
木場さん「ご家庭で手に入りやすいのはアメリカ産かオーストラリア産の牛肉だと思いますので、香り付けのために牛脂を加えていきます。上質な国産の牛肉であればなくても大丈夫です」
手順6:再び肉を入れて、全体に焼色をしっかりつける

木場さん「今度はしっかり焼き目をつけていきます。ここで火加減を弱めにしてしまうと、中まで火が通らなくなってしまうので、焦げ目がつくまで焼いてください。フライパンの中心で焼くと、加熱ムラが防げますよ」
手順7:保温して30分放置する

ゆっくりと予熱で火を入れていくため、ラップ、アルミホイル、タオルの順で包み、保温しながら30分置いておきます。
手順8:熱したフライパンでにんにく、玉ねぎを炒めてたれをつくる。

保温している間にたれをつくります。フライパンを熱し、煙が出る手前(180〜200℃)で、オリーブオイルを入れ、おろしにんにくを投入。30秒ほどでうっすら焦げ目が出てくるので、玉ねぎを加えて強火のまま2〜3分加熱します。
手順9:中火にして調味料を煮詰める

火を中火に落とし、しょうゆ・みりん・オイスターソース・清酒・三温糖を加え、鍋底をこそぎながら強めの中火で1〜2分煮詰めます。泡が大きくなり、粘度が出て焦げる直前で火を止めます。
木場さん「システインを含むにんにくを糖分と炒めることで、温泉のような硫黄臭をほのかに感じるボイル肉の香りが、しょうゆや三温糖からはメイラード反応や熱分解によって、焦げ感ある香ばしい香りが出て、これらが合わさることで炭火のような香ばしい風味が生まれます。オイスターソースを入れることで、味の複雑さやコク、飲み込んだ後に鼻から抜ける戻り香が豊かになります」
手順10:バターを溶かし乳化させたら、調味する

バターを溶かし込み、軽く混ぜて乳化させたら、「味の素®」・黒こしょう・肉汁を加えて味をととのえます。
手順11:ローストビーフを1-2mmに薄くカットする

木場さん「分厚くスライスしてしまうと食べるときに噛みきれなくなってしまうので、1mm〜2mmの厚さがベスト。もしお持ちであれば、刃渡りの長い牛刀を使うと薄くスライスしやすいです」
手順12:お皿に盛りつける。

ベビーリーフと一緒に花のように盛りつけたら完成です。
05
たれをくるっと巻くのが木場さん流!

木場さんはローストビーフにたれをのせて、くるっと巻いて食べるのがお気に入りなのだとか。
木場さん「しっとりした食感のローストビーフから、中にくるめた香ばしいソースが口の中に広がっていく感じが、この料理でしか味わえないおいしさだなと思います。味変でわさびをちょっと足すのもおすすめですよ」
塊肉のままであれば、3日ほど冷蔵庫で保存が可能。薄くカットできなかったものは、ローストビーフ丼にアレンジすることでおいしく食べられます。

納得のいく「究極のローストビーフ」のレシピに辿り着いた木場さんですが、まだまだ道半ばだと言います。
木場さん「今の段階である程度のレベルまでは到達していると思うんですが、まだまだ改良の余地がありそうなので、これからも追求していきたいですね。普段、外でごはんを食べて感動したときに、『簡単に再現したい』が起点になっているんです。おいしいものに出会うと、『なぜこんなにおいしいんだろう?』『自分でも作ってみたい』と思うんですよね。そのおいしさの解明が、とにかく楽しいです。どの料理にも終わりはないので、これからも肉への探求はずっと続いていくだろうなと思います」
ひとつひとつのポイントを押さえれば、実は簡単に作れるローストビーフ。「クノール®︎贅沢野菜®︎」などちょっとリッチなスープやパンと一緒に食べれば、それだけで華やかな食卓に。
クリスマスやお正月、ホームパーティなど、特別な日の食卓に、ぜひ挑戦してみてください!
材料&調理手順
材料(分量2〜3人分)
- 牛もも肉ブロック
- 350g
- <肉の調味用>
- 塩
- 肉重量の1%(3.5g)
- 国産にんにく
- 1片
- 黒こしょう
- 適量
- エキストラバージンオリーブオイル
- 大さじ1
- 牛脂
- 2個
- <たれ>
- 玉ねぎ
- 60g(中~大玉の1/4個くらい)
- 国産にんにく
- 1片
- 無塩バター
- 15g
- 三温糖
- 小さじ1
- しょうゆ
- 大さじ2
- オイスターソース
- 小さじ2
- 清酒
- 大さじ2
- みりん
- 大さじ2
- うま味調味料「味の素®」
- 5ふり
- 黒こしょう
- 適量
- <盛り付け用>
- ベビーリーフ
- 適量
- パセリ
- 適量
- わさび
- 適量
作り方
1. 冷蔵庫から出した牛もも肉ブロックに塩、おろしにんにく、黒こしょうを手で擦り込む。
2. 30分間、室温で放置後、表面の水分をキッチンペーパーで拭き取る。
3. フライパンにエキストラバージンオリーブオイルを垂らし、常温のまま牛もも肉を油を入れて塗り拡げる。
4. 弱火で着火し、シューッという音がしたら、弱火のまま焦がさないように表面全体を色付けする。
5. 肉を一度引上げ、牛脂を入れて、強めの中火にする。
6. 肉全体に焼き色をしっかりつける。
7. フライパンから取り出し、肉をラップ、アルミホイル、タオルで包んで30分放置する。肉汁はとっておく。
8. フライパンを煙が出る手前(180〜200℃)まで熱する。
9. エキストラバージンオリーブオイルを入れ、おろしにんにくを投入し、30秒ほどしてうっすら焦げ目が出てきたら、玉ねぎを加えて強火のまま2〜3分加熱する。
10. 中火にし、しょうゆ・みりん・オイスターソース・清酒・三温糖を加える。
11. 鍋底をこそぎながら強めの中火で1〜2分煮詰める。泡が大きくなり、粘度が出て焦げる直前で火を止める。
12. フライパンにバターを溶かし込み、軽く混ぜながら乳化させる。
13. うま味調味料「味の素®」・黒こしょう・肉汁を加える。
14. ローストビーフを1-2mmに薄くカットする。
15. ベビーリーフを添え、パセリをかけて、たれを添えたら完成。
