「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」……など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?
連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。
第12回目は「肉じゃが」です。今回はフライパンを使って、短時間でもしっかり味がしみこむ肉じゃがの作り方を、味の素社の研究者・川﨑さんに教えていただきます。
(はがれない&パサつかないピーマンの肉詰め、塩だけで素材のうま味を引き出すポトフの作るコツなどを解説してきたこれまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!)
インタビューした人
味の素社 研究者
川﨑 寛也さん
博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。
- 肉じゃがの主役はじゃがいも!
- ポイント1:じゃがいもはレンジ加熱して、後入れ
- ポイント2:肉は砂糖でやわらかく、よく焼きでうま味を引き出す
- ポイント3:中火で、フツフツと煮詰める
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肉じゃがの主役はじゃがいも!
川﨑さん「肉じゃがはじゃがいもをおいしく食べる料理です。実は主役はじゃがいもで、肉はうま味のもとになる『だし』の役割をしています。
じゃがいもをおいしく仕上げるポイントは2つあります。1つは、肉を焼いて香ばしさとうま味を引き出すこと。もう1つは、そのうま味をじゃがいもにしっかりとしみこませることです。
この『肉のうま味で野菜を煮る』という考え方は、以前連載で紹介した『ポトフ』と同じです。調味料にみりんとしょうゆを使うことで、日本の家庭料理らしい甘辛い味に仕上がります」
調理の考え方が同じでも、調味料が変わるとまったくちがう味わいになるんですね。
使う食材は、肉・じゃがいも・玉ねぎの3つだけ。今回は牛肉を使いますが、豚肉や鶏肉でもおいしく作れます。まずは基本の作り方を覚えていただき、にんじんやしらたきなど、お好きな具材を加えてアレンジしてみてくださいね!
ではここから、実演しながら調理のポイントを川﨑さんが解説します。詳しい肉じゃがの作り方は記事の最後で紹介しています。
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ポイント1:じゃがいもはレンジ加熱して、後入れ
まずは、じゃがいもの皮をむき、3cm程度のひと口大にカットし、電子レンジで加熱します。

川﨑さん「じゃがいもと肉では火の通り方に差があります。じゃがいもはやわらかくなるまで時間がかかる一方、肉はすぐに火が入ってしまいます。はじめから一緒に煮てしまうと、じゃがいもに火が通る頃には肉がかたくなってしまうんです。
そこでじゃがいもはあらかじめ電子レンジで加熱し、後入れします。じゃがいもに火を通しておくことで煮込む時間を短くできるので、肉の食感を損なうことはありません。やわらかくなったじゃがいもは味を吸収しやすくなっているため、短時間でもしっかり味がしみます」
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ポイント2:肉は砂糖でやわらかく、よく焼きでうま味を引き出す
続いて、フライパンに油を入れます。火をつける前に、牛肉を広げながら加え、砂糖をまぶして、よくなじませておきます。

川﨑さん「肉に砂糖をもみこむと、水分を保ちやすくなり、焼いてもパサつかずにやわらかく仕上がります。これは砂糖が肉の繊維の間に入り込んで保水性を高めてくれるからです。
この工程は火をつける前に行います。加熱後だと肉の表面が焼けて固まってしまい、砂糖が入りこみづらくなるためです」
砂糖がなじんだら、中火で肉の片面だけにしっかり焼き目をつけます。

川﨑さん「ここで起きているのは、この連載ではおなじみの『メイラード反応』です。しっかり焼き色をつけると香ばしい香りが生まれ、煮込んだときのコクになります。肉は焼きすぎると固くなるので、片面だけ焼いて軽く火を通すくらいで十分です」
以前の「ポトフ回」でも、手羽先をこんがり焼いて、スープに深みを出していました。焼いた肉を使った煮込み料理では、この香ばしさをつくるひと手間が共通のコツなんですね。
川﨑さん「肉の香ばしさに加えて、砂糖もコクをつくります。砂糖は加熱し色づく『カラメル化反応』が起こり、香ばしさと甘みが生まれて味わいを豊かにしてくれます」
焼いている間は肉をできるだけ触らないこと。動かすと、フライパンの表面の温度が下がって、きれいな焼き目がつきにくくなります。
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ポイント3:中火で、フツフツと煮詰める

肉に焼き目がついたら、加熱したじゃがいもと切った玉ねぎを加え、だし・しょうゆ・みりんを加えます。
川﨑さん「ここでは混ぜる必要はありません。混ぜると、じゃがいもと玉ねぎが油でコーティングされ、味がしみこみにくくなります。また、加熱したじゃがいもは崩れやすいので、できるだけ動かさないようにしましょう」
調味料を加えたら、落とし蓋をして煮詰めます。


川﨑さん「煮詰めることで煮汁のうま味が濃縮され、そのうま味がじゃがいもにもしみるため、しっかり煮詰めましょう。フライパンは広く浅い形状なので、鍋よりも水分が早く蒸発して煮詰まりやすいです。なので、短時間でも味をしみこませることができます。弱火だと水分が飛ばずに煮詰まらないので、中火でフツフツと煮立たせましょう」
ところで、味はどうやって具材の中にしみこんでいくのでしょうか。
川﨑さん「調味料に含まれる分子が具材の中へ少しずつ移動していくことで、味がしみこんでいきます。分子は、濃度の濃いほうから薄いほうへと移動する性質があり、また温度が高いほど移動が速くなります。いちばん味が入りやすいのは『加熱している間』、つまりこの煮詰めているタイミングです」
「冷めると味がしみる」ともよく聞きます。そのメカニズムについても教えてください!
川﨑さん「味が入っていくのは、実は冷めるからではなく、時間によるものです。火を止めたあとも分子の移動はゆっくり続くので、時間が経つほど味がしみこんでいくというわけです」
仕組みを知ると、どうすればおいしくなるかがよくわかりますね!

煮汁を見ながら煮込みます。ここで気になるのがアクですが、今回はとらなくてもよいそう!
川﨑さん「アクには大きく2種類あります。ひとつは、みなさんがアクと聞いてイメージする茶色いアク。これは生肉を煮たときに、血液成分が溶け出したものです。生臭さの原因になるので、本来なら取り除きます。ただ今回は、肉を焼いて表面を固めているので、血液成分が外に出にくく、茶色いアクはほとんど出てきません。
もうひとつは煮込み途中に浮いてくる白いアク。肉のうま味や油が混ざったもので、煮汁のコクになるため、とらずにそのまま煮込んでください」

煮汁が半分ほど煮詰まったら、味をきめます。
川﨑さん「味付けで失敗しないコツは、最後に味をきめることです。煮込んでいる間に味の濃さがどんどん変わるので、仕上げの段階で調整すると味がブレません。味付けのタイミングは、煮汁が半分になる頃が目安。
甘みを足したいときはみりんを、塩味を足したいときはしょうゆを使い、お好みの味に仕上げてください。加えたあとは軽く煮詰めて味をしみこませます。もし味が濃くなってしまった場合は、水を加えて、一度沸騰させてから煮詰めてください」


器に盛って、完成です!
まずは主役のじゃがいもをひと口。短時間で煮込んだとは思えないほど、ほくほくのじゃがいもに、甘辛くてうま味のある煮汁がしっかりしみこんでいます。肉もふわっとやわらかいです。
フライパンひとつで、コツを押さえれば失敗なくおいしく作れる肉じゃが。ぜひみなさんも試してみてくださいね。
材料&調理手順
材料(2人分)
- 牛薄切り肉
- 160g
- じゃがいも
- 大2個(350g)
- 玉ねぎ
- 1個
- 砂糖
- 小さじ2
- サラダ油
- 少々
- A:だし汁
(または水320mlと「ほんだし®」 小さじ1を混ぜ合わせたもの) - 320ml
- A:みりん
- 40ml
- A:しょうゆ
- 大さじ3
- じゃがいも・玉ねぎは皮をむき、ひと口大のくし切りにする。じゃがいもは6〜8等分、玉ねぎは8等分に切る。牛肉は食べやすい大きさに切る。
- じゃがいもを耐熱皿に入れ、ラップをかけて電子レンジ(600W)で5分、竹串などがすっと通るようになるまで加熱する。
- 深めのフライパンにサラダ油を入れ、牛肉を広げて加え、砂糖をふってなじませる。中火にかけて炒め、肉の片面に焼き目をしっかりつける。
- じゃがいもと玉ねぎを加え、Aを加え、落とし蓋をして10分ほど中火で煮詰める。
- 汁気が半分ほどになったら火を止め、味見をする。みりんやしょうゆなどで好みの味に調整し、再度火にかけて少し煮詰めたら完成。
