肉マニア直伝

【肉マニア直伝】数百枚のステーキを焼いた研究者が教える家庭で作れる「究極のステーキ」

FOOD
2026.08.25
【肉マニア直伝】数百枚のステーキを焼いた研究者が教える
家庭で作れる「究極のステーキ」
ステーキの画像

肉を焼くというシンプルな料理ながら、家で焼くとなると難しいステーキ。スーパーで手に入るお肉でも、お店のようなやわらかくてジューシーなステーキを、自宅で簡単に再現できたら……。そんな夢のようなレシピを教えてくれたのは、味の素社の食品研究所で「指折りの肉好き」として知られる木場隆介さんです。

「おいしい食感」を研究する食感制御グループでお肉をおいしくする技術を開発・研究し続けてきた木場さんだからこそ知っている、「家庭でお肉をおいしくする裏側」を連続企画でお届けします!

後編の今回は、スーパーでも手に入りやすい輸入肩ロース肉を主役に、家庭でおいしいステーキを作れるレシピを教えてもらいました。

前編の「フライドチキン」のレシピはこちら

役割:インタビューした人 所属:食品研究所 食感制御グループ 名前:木場隆介さんさん

インタビューした人

食品研究所 食感制御グループ

木場隆介さん

2012年入社。食感、味、香りのおいしさ設計技術開発を担当。硬い肉のスジをやわらかくする発明、しっとりジューシーなお肉にする発明、唐揚げのできたて風味を維持する発明、肉を使わずに肉らしい風味を付与する発明など、数々のおいしいお肉の特許技術を取得。自称ミートマスターとして、日々“おいしさ” によってもたらされる幸せの科学を探求中。

ステーキのおいしさは食感と味と香りで決まる

厚切りの肉を焼き上げた、一見シンプルな料理に思える「ステーキ」。しかし、シンプルだからこそ、奥深い料理なのだといいます。

木場さん「食感と味と香り。この3つのバランスがステーキの重要な要素だと思っています。食感で言うと、歯切れの良さ、やわらかさ、ジューシーさ。そこに肉が持つうま味、焼いたときのメイラード反応による香ばしく甘い香り、牛の脂の香りが重なって、あのステーキらしい味わいが生まれます。これらの要素を補うことができれば、お手頃な輸入牛肩ロース肉でも和牛のようなおいしさに近づけることができます」

木場さんの画像

ステーキを柔らかくするために木場さんが取り入れたのは、なんとまいたけ。まいたけにはたんぱく質を分解してお肉を柔らかくする酵素が豊富に含まれている といいます。

木場さんの画像
一回の実験で十枚、年間数百枚ものステーキを食べてきたという木場さん。今回紹介するのも、使う素材や配合、下準備の時間など、すべて試行錯誤を繰り返してたどり着いた究極のレシピです

木場さん「入社して2年目のミッションが、硬くて噛み切りにくい肉の筋を柔らかくする技術開発でした。食材のなかには、たんぱく質を分解して柔らかくしてくれる酵素を持つものがあるので、効果の高い酵素を求めていろいろな食材で実験しました。結果、とても効果が高い酵素をみつけましたが、ご家庭ではなかなか手に入りづらい素材なので、
今回は、近い種類の酵素を持つ食材の中で、ご家庭で手に入りやすく、短時間で丁度良いやわらかさにしてくれるまいたけを選びました。 そこからおいしいステーキになるよう研究を重ねて、たどり着いたのが今回のレシピです」

ここからは実際につくってもらいながら、気をつけたいポイントとこだわりを紹介していきます。

ポイント①まいたけペーストでお肉の筋を柔らかく

まいたけの画像

手順1:まいたけは根元を切り、細かくほぐしてミキサーに入れ、同量の水を加えてなめらかなペースト状になるまで撹拌する。

まず最初に、肉に塗るまいたけペーストを作っていきます。

まいたけは鮮度のいいものを選ぶのがポイント。端が少し溶けていたり黒ずんだりしているものは酵素が弱まっているので、しゃきっとして明るい色のものがいいのだとか。

まいたけが入っているミキサーに水を入れる様子

木場さん「まいたけをミキサーにかけてペースト状にし、水と1:1の割合で混ぜ合わせます。水が少なすぎると肉に均一に塗れず、多すぎると表面から流れてしまいます。この配合も、数え切れないほど試した末に辿り着いた黄金比です」

まいたけペーストの画像
まいたけペーストは使う直前に作るのがベスト。「水に溶かした瞬間から酵素が働きはじめ、時間が経つと劣化していきます。余ったペーストはソースにして火を通すか、当日中に使い切りましょう」と木場さん

ミキサーがなければハンドチョッパーや包丁でのみじん切りでもOKです。細かく刻むほどまいたけが持つ酵素の働きが高まるため、みじん切りの場合は、肉に漬ける時間を延ばして調整するとよいでしょう。

肉の筋切りをしている様子
木場さん「肉の繊維は、60度前後を超えるとぎゅっと縮んで硬くなるんです。筋を切っておくことで、焼き縮みを防ぎます。」

手順2:牛肉は脂身と赤身の境目にあるかたい筋に包丁の先で数ヶ所、切り目を入れる。

まいたけペーストを塗るその前に、行いたいのが筋切りです。

木場さん「脂身と赤身の境目にある白い筋に、包丁の刃先でさっと切り込みを入れます。まいたけの酵素が強力とはいえ、大きな筋は 数十分の漬け込みだけでは完全に分解しきれないため、この下処理が必要です」

まいたけペーストを塗る木場さん

手順3:牛肉の両面にまいたけペーストをすき間なく塗り、ラップでぴったり包み、涼しい場所で30分置く。(夏場は冷蔵庫で1.5時間置く)

筋切りが終わった肉にまいたけペーストを塗っていきます。

木場さん「ヘラでまんべんなく広げてあげるイメージで、力は入れないでください。塗り込むというより、丁寧に、優しく、均一に広げていきます」

肉にラップをしている様子

まいたけペーストを両面にまんべんなく塗ったら、ラップをして涼しい場所で30分置きます。冷蔵庫に入れる場合は、1.5時間ほど置いてください。

木場さん「時間が長くなると、その分酵素が働いて肉がやわらかくなりすぎてしまうため、タイマーなどでしっかり時間管理をしてください。」

肉についたペーストを拭き取っている様子

手順4:ラップを取り、牛肉の表面のまいたけペーストをきれいに拭き取る。

木場さん「このとき肉の臭みも一緒に取れます。ペーストはそのまま捨てずに取り分けておくと、焼いた後の肉汁と合わせて和風ステーキソースにできます」

ポイント②塩を揉み込んでうま味を引き出す

手順5:牛肉の両面に塩を均等にふって軽くもみ込む。

次は、塩を揉み込みます。塩は肉の重量の1%が目安です(300gの肉なら3g)。

塩を肉にかける様子
「にがりが入っていてまろやかで肉に馴染みやすいので、塩は『瀬戸のほんじお®』がおすすめ」とのこと

塩を指でつまんでふりかけたら、優しく揉み込んでいきます。木場さんいわく「肩こりを優しくほぐすイメージ」だそう。

肉を揉む様子
塩がさらにたんぱく質の構造を変え、肉の保水性が増します。それにより、噛んだ瞬間のジューシーさを生み出すのだそう

木場さん「肉は結局筋肉なんですよ。だから、強く叩くのではなく、親指で赤身を中心にそっと押して、優しくマッサージしてあげる感覚で、繊維をほぐしてあげてください。脂身と赤身の間の筋を指でさわってみると、まいたけの酵素によって柔らかくなっていることがわかると思います。 こうやって手で直にさわることで気づくことは多いので、ぜひ素手で行ってほしいですね」

肉を揉む木場さん

ポイント③オリーブオイルでフタをする

肉にオリーブオイルが塗られている様子

手順6:上から薄く両面にオリーブオイルを塗り、冷蔵庫で15分置く。

木場さん「乳液を顔に塗るイメージで、油の層でフタをします。オリーブオイルを塗ることで中の水分を逃がさず、 焼いている間もジューシーさを保ちつづけてくれます」

ポイント④最初は弱火でじっくり

手順7:フライパンを弱火にかけ、牛肉を入れて両面じっくりと火を通す。

下処理が完了したら、いよいよ焼きはじめます。ここで最も重要なのが、弱火から火入れすること。

木場さん「肉の繊維は60度を超えたあたりからぎゅっと縮み始めます。最初から強火で焼くと、外側だけ一気に縮んで肉汁がバーッと出てしまう。そうすると中の水分が失われて、パサついた仕上がりになるんです。なので、最初は必ず弱火から始めます」

肉が入ったフライパンとコンロに火をつける木場さん

肉をフライパンに置いてから火をつけ、弱火でじっくりと表面を焼き固め、白っぽく色づいてきたら裏返します。火加減は、ご家庭のコンロの最も弱い火力が目安。「こんなに弱くていいの?」と感じるくらいで大丈夫です。

肉を焼いている様子

木場さん「よく耳を澄ますと、最初はシューっという小さな音がしてくるんです。油がじわっと温まってきている証拠で、肉の繊維が縮まずにゆっくり火が入っている状態です」

弱火で両面が白く色づいたら、仕上げの工程へ。

肉をアルミホイルで包んでいる様子

手順8:アルミホイルに包んで5分置く。

アルミホイルで包んで5分休ませます。余熱で中までじんわり火が通り、カットした時に肉汁が逃げにくくなります。

肉を焼いている様子
木場さん「まいたけペーストを拭いたときに取り分けておき、フライパンに残った肉汁、酒、みりん、醤油を各大さじ1、砂糖大さじ½と合わせて加熱すると、和風ステーキソースになりますよ」

手順9:フライパンに牛脂を入れて強火でしっかり熱し、牛肉を加えて表面を強火で香ばしく焼く。

肉を休ませている間にフライパンに牛脂を入れ、強火にかけます。ここでは煙が上がるくらいまで一気に温度を上げ、肉を戻して両面に焼き目をつけます。

木場さん「この時オリーブオイルをひいて焼くと香りが強くなりすぎてしまい肉らしさが薄れるので、牛脂で肉の香りを補うのがポイント。脂身の少ない安い輸入牛肩ロース肉を使うときに、特に重要です」

香ばしく甘い香りが食欲そそる!やわらかくてジューシーなステーキが完成!

焼けた肉を切っている様子
仕上げに少し斜めに切り分けると、断面が大きく見えて食欲をそそる仕上がりになるそう

完成したら、まずはなにもつけずにそのまま味わってみましょう

木場さん「切り分けたステーキは、まずそのまま食べてみてください。続いてわさびや柚子胡椒、和風ステーキソースで味変を楽しむのもオススメです。

このステーキの香りを嗅ぎながら、キッチンでハイボールを飲むのが最高なんですよね。焼きたての香りを楽しみながら食べる。それが、自分で作る醍醐味だと思っています」

実際に試食してみると、まず口の中で噛んだ瞬間の柔らかさに驚きます。お手頃な牛肉とは思えないほど、すっと繊維がほぐれ、肉汁がじゅわっと広がっていくのがわかりました。

出来上がったステーキ

まいたけと塩とオリーブオイル、牛脂。たった4つで、いつものステーキがぐっとおいしくなります。ぜひ、キッチンに漂う香りを楽しみながら、作ってみてくださいね。

材料&調理手順

材料(2〜3人分)

輸入牛肩ロース肉 300g(1〜2枚)
塩 3g(肉の重量の1%)
牛脂 1個
オリーブオイル 大さじ2
〈まいたけペースト〉
まいたけ 30g(肉の重量の10%)
水 30g(肉の重量の10%)

つくり方

  1. 1

    まいたけは根元を切り、細かくほぐしてミキサーに入れ、水を加えてなめらかなペースト状になるまで撹拌する。

  2. 2

    牛肉は脂身と赤身の境目にあるかたい筋に包丁の先で数ヶ所、切り目を入れる。

  3. 3

    牛肉の両面に(1)のまいたけペーストをすき間なく塗り、ラップでぴったり包み、涼しい場所で30分置く。(夏場は冷蔵庫で1.5時間置く)

  4. 4

    ラップを取り、牛肉の表面のまいたけペーストをキッチンペーパーなどできれいに拭き取る。

  5. 5

    牛肉の両面に塩を均等にふって軽くもみ込む。

  6. 6

    上から薄く両面にオリーブオイルを塗り、冷蔵庫で15分置く。

  7. 7

    フライパンを弱火にかけ、牛肉を入れて焦げずに色づく程度まで両面じっくりと火を通す。

  8. 8

    アルミホイルに包んで5分置く。

  9. 9

    フライパンに牛脂を入れて強火でしっかり熱し、牛肉を加えて表面を強火で香ばしく焼く。

  • 執筆
    ひらいめぐみ
  • 撮影
    須古恵
  • 編集
    花沢亜衣