ごはんがすすむおかずの定番、「しょうが焼き」。いざ作ってみると「肉がかたい」「パサパサになってしまう」という経験をした人も多いのではないでしょうか。
レシピには書ききれないコツを調理科学で解き明かすのが、連載「レシピのスキマ」。今回はやわらかいしょうが焼きの作り方を、味の素社の研究者・川﨑さんが解説します。
(パサつかないハンバーグ、パリもちジューシーな餃子を作るコツなどを解説してきたこれまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!)

インタビューした人
味の素社 研究者
川﨑 寛也さん
博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。味の素社から発売の『料理のしくみがわかる本』では、調理科学・レシピ監修をしている。
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基本のたれは<しょうゆ2:砂糖1:水1:しょうが1>
まずはたれから作っていきます。基本の材料は、しょうゆ大さじ2、砂糖大さじ1、しょうがのすりおろし15g(約大さじ1)、水大さじ1。しっかりと混ぜ合わせておきましょう。


川﨑さん「たれの味に迷ったときは、『砂糖をしょうゆの半量に』するのがオススメです。しょうゆのうま味と塩味を引き立てながら、砂糖の甘味によって塩味が抑えられ、ちょうどよい甘辛さになります。『水』を加えるのは、たれが肉にまとわりやすくなるのと、加熱時の温度上昇がゆるやかになり、たれが焦げにくくなるためです」


川﨑さん「しょうがは皮ごとすりおろして問題ありません。香り成分が皮の付近に多く含まれるため、皮ごとすりおろすことで細胞が壊れ、香りがぐっと立ちます。たれに肉を漬け込むレシピもありますが、今回は焼くときにたれをかけます。じつは最近の研究で、たれに漬け込んで焼くよりも、焼いた肉にかけるほうが、やわらかくなることがわかったんです」
野菜を切る時は繊維の方向を意識
今回のしょうが焼きは、一緒に玉ねぎを入れて炒め、付け合わせにせん切りのキャベツを添えます。


川﨑さん「玉ねぎもキャベツも切り方で食感が変わります。繊維に沿って切ると細胞の形が保たれ、シャキッとした歯ごたえに。反対に繊維を断つように切ると細胞が壊れ、やわらかい食感になります。
玉ねぎはやわらかい肉とのコントラストを楽しむため、繊維に沿って切り、食感を残します。一方のキャベツは、ふわふわとした食感に仕上げたいので繊維を断つ向きでせん切りにします」

キャベツを切る時は、軸(中央の太い葉脈)を切り取り、手のひらでつぶすと、よりやわらかい食感になります。
さらに、切ったあとに氷水にさらすのもポイント。水分を含んでハリが出るので、ふわっとしながらもみずみずしい食感に仕上がります。

肉に小麦粉をまぶしてしっとりと

やわらかく仕上げるためには肉の選び方も大切です。しょうが焼き用肉として売られているもので問題ありませんが、豚肩ロースが特にオススメです。

川﨑さん「肩ロースは赤身の中に脂肪が細かく入り込んでいるので、加熱してもかたくなりにくいんです。ロースでも作れますが、ロースは脂身が少ないので、肉をたたいてやわらかくしてから焼くとよいです」
次に大切なのが、焼く直前に小麦粉を「薄く」まぶすことです。

川﨑さん「小麦粉は、肉のジューシーさ・香ばしさ・味の一体感を、底上げしてくれます。小麦粉をまぶす目的は、肉のうま味や水分を逃がさないこと。小麦粉に含まれるでんぷんが加熱によって肉の表面に薄い膜を作り、肉汁が流れ出るのを抑えてくれるんです。
肉に含まれるアミノ酸と糖は加熱によって『メイラード反応』を起こし、香ばしい風味とカリッとした食感を生みます。豚肉はもともと焼き色がつきにくいのですが、小麦粉をまぶすことで表面の余分な水分が抑えられ、こんがりと焼けやすくなります」
さらに、でんぷんは加熱によって「糊化(こか)」し、たれに適度なとろみがつくので、たれと肉に一体感が出ます。

川﨑さん「焼く直前にまぶすのは、時間が経つと、肉の水分で小麦粉がベタつくためです。つけすぎると食感が悪くなるので、肉のピンク色がほんのりぼやける程度に薄くつけてください。ついた粉が多ければ、はたいて落とします。
片栗粉でも代用できますが、どろっとした食感になります。これは片栗粉がほぼでんぷんだけでできていて、糊化したときに強く粘りが出るためです」
(片栗粉の糊化についてはこちらの記事で詳しく説明しています)
強火で焼き色をつけ、余熱でじんわり火を通す
熱したフライパンに油大さじ1を入れ、重ならないように肉を並べたら、その上に玉ねぎをのせ、強火で焼きます。


川﨑さん「焼く工程で大切なのは、短時間で焼き色をつけることです。肉は長時間焼くとかたくなります。焼き色をつけて香ばしさを出しつつ、やわらかく仕上げるには、強火でさっと加熱するのがポイントです。また、玉ねぎを肉の上にのせるのは、玉ねぎに火を入れすぎず、シャキッとした食感を残すためです」

肉の片面に焼き色がついたら、玉ねぎが下になるように全体を返し、火を止めます。すぐにフタをし、コンロの上にそのまま1分置いておきましょう。

川﨑さん「ここからは余熱でゆっくり火を入れます。肉のたんぱく質は、65℃を超えると水分が一気に抜けてかたくなります。火を止め、余熱でじんわり加熱することで、中心までゆっくり火を通し、肉をやわらかく仕上げます」
たれが煮立ったら、すぐに火を止める

1分経ったら調味料を入れます。再度強火にかけ、たれと具材をからめながら加熱し、たれが煮立ったらすぐに火を止めます。

川﨑さん「ポイントは『すぐに火を止めること』。肉の加熱しすぎと、たれが焦げるのを防ぎ、熱に弱いしょうがの香りも残せます。一瞬で煮立つので、手際よく調理しましょう」

水気を切ったキャベツと焼いた肉を器に盛って完成です!余熱でじんわり火を通した肉はやわらかく、肉汁があふれてジューシー。甘辛いたれが肉にしっかりとからみ、ごはんがすすみます。
2人分や3人分作りたいときは、人数に合わせて材料を2倍、3倍に。このとき、注意したいのが焼き方です。肉が重ならないように焼くとなると、フライパンの大きさによっては入りきらないことがあります。そんなときは、並べられる分だけを焼き、焼き色がついた肉から一旦取り出しましょう。すべての肉に焼き色がついたらフライパンに戻し、あとは同じ手順で仕上げます。
<おまけの科学>厚切り肉もやわらかジューシー。「ポークジンジャー」の作り方
ここからはおまけの一皿をご紹介。豚肉としょうがを使って作る「ポークジンジャー」のレシピです。しょうが焼きとの大きな違いは、肉の厚さ。豚肩ロースの厚切り肉は「かたくなりそう」「難しそう」と思われがちですが、厚切りならではのコツをおさえれば、やわらかくジューシーなポークジンジャーが、家庭のフライパンで作れます。
ポイント1:筋切りとたたきで、やわらかさの下準備
まずは肉の下準備から。薄切り肉では必要ありませんが、今回は厚切りをムラなく焼き上げるために「筋切り」をします。

切り込みを入れるのは、筋が通っている脂身と赤身の境目。フチ部分(写真右)だけでなく、中央部分(写真左)にも入れていきます。


川﨑さん「包丁の先で2~3cm、少し間隔を空けて数か所、両面に切り目を入れます。貫通はしないように、途中まで切り込みを入れ、表と裏で別の位置に切り込みを入れましょう。筋を断ち切ることで、そり返りを防げて、均一に火が入ります」


次に、包丁の背で肉の両面をたたきます。

川﨑さん「肉がかたくなるのは、加熱で肉の筋線維が縮むから。あらかじめたたいて筋線維を壊しておくことで、縮みにくくなりやわらかくなります。目安は、元の厚さの1/2〜2/3程度になるまで。薄すぎないか心配になるかもしれませんが、潰すようにしてしっかりたたきましょう」


川﨑さん「たたき終えたら、肉を端から中央に寄せ、厚みを戻すイメージで形を整えます。こうすることで厚切りならではの食べ応えが保て、火の通りも均一になります。しょうが焼きと同じように、小麦粉を薄くはたいてください」
ポイント2:脂身から焼いて、こんがりきつね色に
肉を焼くときは、肉を立てて脂身の厚い部分から。焼くときは油はひかず、肉から出る脂で中火で焼き、焼き色をしっかりつけます。


川﨑さん「脂身から焼くのは、脂が出やすいだけでなく、赤身に比べて火が通りにくいからです。厚切りの肉は強火で焼くと、表面がこんがり焼けても、中は生のままということも。中火でじっくり火を通すのがコツです」


川﨑さん「両面をきつね色になるまで焼きます。表面をカリッと焼き固めることで、メイラード反応による香ばしさを出し、肉汁が流れるのをおさえます」
ポイント3:フタ+弱火でゆっくりと火入れ
たれ(しょうゆ、砂糖、みりん、酒、おろし玉ねぎ、しょうが、にんにく)を、肉の上にかけるように加えます。


川﨑さん「みりんや酒に含まれる糖やアミノ酸が加わることで、味わいがまろやかに。すりおろした玉ねぎ・しょうが・にんにくは風味が出るだけでなく、含まれる酵素が肉をやわらかくしてくれます。
酵素は高温になると働かなくなってしまうので、できるだけたれがフライパンに触れないように、肉の上にかけるようにしましょう」


川﨑さん「フタをして、弱火で5分煮るように焼きます。しょうが焼きと同じで、高温にせず中心までゆっくり火を通すのが、やわらかく仕上げるコツ。弱火なら温度が上がりすぎず、玉ねぎ・しょうが・にんにくの酵素も働いてくれます」

フタを取り、たれを煮詰めながら、肉とたれをからませます。肉全体にたれが行き渡ったら、加熱しすぎないように火を止めてください。

器に盛って完成です!

力を入れなくてもナイフですっと切れるほどやわらかく、口の中でほろりとほどけました。
肉の厚さが違っても、「高温にしすぎず、じんわり火を通す」というコツは同じ。厚さに合わせたひと工夫で、やわらかくジューシーなしょうが焼きとポークジンジャーを作ってみてください!
材料&調理手順
しょうが焼き
材料(1人分)
| 豚肩ロース肉(しょうが焼き用・3mm厚さ程度) | 150g |
|---|---|
| 小麦粉 | 大さじ1 |
| 玉ねぎ | 1/4個 |
| A:しょうゆ | 大さじ2 |
| A:砂糖 | 大さじ1(しょうゆの半量) |
| A:しょうが(すりおろし) | 大さじ1(15g) |
| A:水 | 大さじ1 |
| サラダ油 | 大さじ1 |
| キャベツ | 適量 |
つくり方
- 2
Aは混ぜ合わせておく。
- 3
豚肉に小麦粉をまんべんなく薄くまぶす。
- 4
熱したフライパンに油を入れ、(3)の豚肉を重ならないように並べたら、(1)の玉ねぎをのせて強火で焼く。片面に焼き色がついたら玉ねぎが下になるように全体を返して火を止め、すぐにフタをして、そのまま1分置く。
- 5
フライパンのフタを取り、(2)を加えて強火にかけ、煮立ったらすぐに火を止め、豚肉と玉ねぎにたれをからめる。
- 6
器に盛り、(1)のキャベツを添える。
※ロース肉を使う場合は、肉をたたいてから小麦粉をまぶすとやわらかく仕上がる。水分が抜けてかたくなりやすいため、工程4は中火に落として加熱する。
材料&調理手順
ポークジンジャー
材料(1人分)
| 豚肩ロース肉(2cm厚さ) | 200〜300g |
|---|---|
| 小麦粉 | 大さじ1 |
| A:玉ねぎ(すりおろし) | 1/8個分 |
| A:しょうが(すりおろし) | 1かけ分 |
| A:にんにく(すりおろし) | 1/2かけ分 |
| A:酒 | 大さじ3 |
| A:しょうゆ | 大さじ3 |
| A:砂糖 | 大さじ1・1/2 |
| A:みりん | 大さじ1 |
つくり方
- 1
Aは混ぜ合わせておく。
- 2
豚肉はフチと中央の脂身と赤身の境目に、包丁の先で2〜3cmの切り目を数か所入れる。途中で切り離さないように注意しながら、表裏で位置をずらして両面に切り込みを入れる。
- 3
包丁の背で豚肉の両面をたたく。豚肉を中央に寄せ、厚みを戻すように形を整えたら、小麦粉を薄くまぶす。
- 4
フッ素樹脂加工のフライパンに油はひかず、(4)の豚肉を脂身の厚い部分から中火で焼く。焼き目がついたら裏返し、両面をきつね色になるまで焼く。余分な脂が出たらキッチンペーパーで拭き取る。
- 5
(1)を豚肉の上にかけるように加え、フタをして弱火で5分蒸す。
- 6
フタを取り、たれを煮詰めてとろみをつける。豚肉を返してたれをからませたら火を止め、器に盛る。

