【スープがある時間】巡る記憶 上書きされる記憶<エッセイスト・大平一枝さん>

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2026.10.15
【スープがある時間】
巡る記憶 上書きされる記憶
<エッセイスト・大平一枝さん>

おいしさのピークを迎えた時期に収穫されたとうもろこしを惜しみなく使った濃厚なポタージュ「クノール®贅沢野菜®」<北海道スイートコーン>今夏採れたてヌーヴォーコーン。 

 日々の営みとその中でのささやかな喜びを見つけてきたエッセイストの大平一枝さんは、このポタージュをどのように暮らしに取り入れたのでしょうか。実際にお試しいただき、その感想をエッセイに綴ってくださいました。 

役割:インタビューした人 名前:大平一枝さん さん

インタビューした人

大平一枝さん

1964年生まれ、長野県出身。編集プロダクションを経て、独立。市井の生活者を描くルポルタージュ、失くしたくないもの・コト・価値観をテーマにしたエッセイを執筆。著書に『東京の台所』(毎日新聞出版)、『注文に時間がかかるカフェ 』(ポプラ社)、『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』(平凡社)、『人生フルーツサンド』(大和書房)、『ある日、逗子へアジフライを食べに』(幻冬舎)ほか。この夏、娘が巣立ち、夫と2人暮らしに。最近、「クノール®贅沢野菜®」を初めて体験し、執筆の合間の16時に飲むのが楽しみに。 

小さな多幸感とスープの記憶

ちょっとした入院を経て、家に戻った。まだ台所に立つのはしんどそうだ。 

ちょうど届いていた、黄金色のとうもろこしの写真の箱を開封する。小袋を取り出す。ひとつずつに、ぎっしりと手応えがある。留守中、料理を頑張っていた夫が、目を輝かせながら後ろの「つくり方」を読む。 

「150mlの熱湯を注いだらすぐ15秒ほどかき混ぜること。あっと、いいや俺がやる」 

常に目分量でいい加減な私に、任せられないと思ったらしい。 

カップに「クノール®贅沢野菜®」の粉を入れている様子

受け皿とお椀が揃った、藍色のあれ。食器棚の奥を覗き、器屋で衝動買いした古伊万里風の染め付けを探す。 

ふだん、受け皿まで出すのが面倒で、もっぱらこの器には、ヨーグルトをいれるだけだった。本当は、受け皿の青い文様が素敵なのだ。 

濃厚、贅沢、ポタージュ。病院食の献立にはなかった言葉たちに、食の感覚を刺激され、ちゃんとした器で食べたいと思ったのである。 

 夫が慎重に匙で混ぜるごとに、艷やかな黄金色のスープが緩やかにまとまり、器の中で重たげに揺れる。ひとさじ口に運ぶ。生の甘いとうもろこしの味がした。夏のそれを、一粒残らず溶かし込んだような、濃密な甘さ。 

新しい出会い。驚き。安らぎ。小さなご褒美時間。ああ、私は私の暮らしに戻ってきたのだとしみじみ実感した。 

 毎日は飲まない。ちょっとゆっくりしたいな、あるいは、今日は頑張りどころだという、とっておきの日にいただく。器は必ず、あの藍色の揃いで。

カップにスープが入っている

やがて気づいた。湯を注ぐ間(ま)。15秒混ぜる間。いや、今日はあれをいただこうと決めた瞬間から、小さな多幸感が続く。日常のご褒美とは、たぶんそういうものだ。 

退院から1週間後の朝。娘が引っ越しの荷物を車に積んでいた。結婚したのだ。
期待と、連日の準備による少しの疲労がにじんだ顔を見て、思わず私はあの箱に手を伸ばした。 

保存袋に、スプーンふたつとスープ4袋。​​ガスはまだ開通していないが、ウォーターサーバーのお湯は使えるという。しばらくは料理まで気がまわらないだろう。おまけに、ふたりともこれまで実家暮らしで、自炊の経験がない。 

慌ただしい引っ越しの合間、ひとときの休息になればと思った。私自身、退院した日に飲んでほっとしたのを思い出したからだ。 

そして、流れゆく日々のなかで、手を休めること、おいしくて温かなものをゆっくり味わうこと、簡単なものでもふたりで食卓を囲めば、満ちるものがきっとある。そんなことが伝わればいいと、願いをスープに託した。 

笑顔の大平さん

 しばらくして、娘に小さな差し入れのことを尋ねた。 

「まだ食材もなにもなかった頃、温かくて、ちゃんとおいしくて、ほっとして。ここでなにか食べて、あったまって、寝て、起きて、ふたりで暮らしを作っていくんだなあって思ったよ」 

もうここに彼女はいないけれど、幼い頃からいつもそばにあったスープの記憶が、またひとつ上書きされた。 

※コメントは大平さん個人の感想です。感じ方には個人差があります。 

  • 撮影/
    太田太朗
  • 編集/
    花沢亜衣