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炒め物の鍵は「コーティング」「さわらない」「最後の調味料」。あおらない炒め物の作り方を調理科学で解説!

炒め物の鍵は「コーティング」「さわらない」「最後の調味料」。あおらない炒め物の作り方を調理科学で解説

2025/06/05

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「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」…など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?

連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。

第5回目は「野菜炒め」です。特に葉物野菜の炒め物は、シンプルで手軽そうなのに、どうもおいしくシャキッと仕上がらない…そんな悩みも多いのではないでしょうか?

「中華料理では炒め物を“ホットサラダ”と表現することもあるんですよ」と話すのは、味の素社の研究者・川﨑さん。つまり、炒めるよりも「和える」という心がけが大切というわけです。

今回も川﨑さんに、調理科学の視点から野菜炒めのコツを聞きました。家庭ですぐに実践できる葉物野菜の炒め物のポイントや、応用編として肉野菜炒めも紹介します。

(ジューシーなハンバーグ、パサつかない鶏むね肉のコツなどを解説してきた、これまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!

インタビューした人

味の素社 研究者

川﨑 寛也さん

博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。

  1. なぜしなしなに?野菜炒めの科学的なメカニズム
  2. あおらなくてもOK!シャキシャキ食感を作る3つの大きなポイント
  3. 【下準備】洗ったら、水気をよく切る
  4. 【加熱調理】茎の表面がツヤっとするまで油と和える
  5. 【加熱調理】炒めるときは、野菜をさわりすぎない
  6. 【味付け】調味料は空いたスペースにイン!
  7. 【下準備】材料の大きさを揃えよう
  8. 【下準備】肉は事前に「4つの材料」でコーティング
  9. 【加熱料理】「二度炒め」で食材ごとの火入れ具合を調整

01
なぜしなしなに?野菜炒めの科学的なメカニズム

自宅で葉物野菜を炒めても、お店で食べるようにシャキッと、みずみずしく仕上がらない…という方は多いのではないでしょうか。まずは「シナシナ」になってしまう原因を教えてください!

川﨑さん「野菜の細胞は細胞壁と細胞膜に守られ、内部に水分を含んでいます。ですが、加熱すると細胞壁が弱くなり、閉じ込められていた水分が流れ出てしまう。つまり、水分の喪失が『シナシナ感』の正体です。特に葉物野菜は、細胞壁が薄く、水分含有量も多いのが特徴。加熱することで、すぐに水分を放出してしまうんです」

野菜の種類によっても水分量や細胞壁の強さが違う。にんじんや大根などの根菜は、細胞壁が厚く、硬いため形を保ちやすい。一方で、チンゲン菜や小松菜などの葉物野菜、キャベツやズッキーニなどは加熱すると細胞壁からすぐに水分が出て、シナシナになりやすい

加熱以外も、野菜がしんなりしてしまう原因があります。

川﨑さん「塩、しょうゆなど、塩分を含んだ調味料は野菜から水分を引き出してしまうんです。これは『浸透圧』という現象によるものです。塩分に触れた野菜の細胞は、内側と外側の塩分濃度を均一にしようと、水分を放出します。水分をできるだけ出さず、シャキっと仕上げるためには、調味料を入れるタイミングと入れ方が重要です」

(「浸透圧」については、以前の「レシピのスキマ」鶏むね肉の回で詳しく解説しています!)

02
あおらなくてもOK!シャキシャキ食感を作る
3つの大きなポイント

では、どのような工夫をすれば、炒め物をおいしく仕上げられるのでしょうか。

川﨑さん「強火で手早く、というのがよく知られていると思いますが、それに加えて鍋をあおることにより、加熱ムラがなく、余分な水分が効率よく蒸発してシャキッとします。とはいえ『あおり』には技術が欠かせませんから、今回はあおらなくても、水分をコントロールしながらシャキッと仕上がる方法を紹介しますね」

「あおらない」でおいしく作るためのポイントは3つ!

1つ目は『油で野菜をコーティング』。野菜と調味料が直接触れないようにして、水分の流出をできる限り防ぎます。

2つ目は『さわらず動かさない』。「炒める」と聞くと、つい混ぜたくなりますが、動かしすぎないことが重要。野菜を片面ずつ返して加熱するようにすると、細胞壁が壊れるのを抑えながら、水分と風味を閉じ込められます。

3つ目は『調味料は食材に直接かけない』。調味料は仕上げの直前、なおかつフライパンの隅に空きスペースを作って入れましょう。野菜にできるだけ塩分が触れないようにすることで、浸透圧の影響が減り、歯ごたえがよくなります。

それでは、以下からは実践編!

今回は、チンゲン菜の炒め物のうち最もシンプルな、清炒(チンチャオ)を使って、「下準備」「加熱調理」「味付け」の3段階に分けて解説。応用編として肉野菜炒めのコツも紹介します。

※清炒とは中国料理の一つで、少ない調味料で仕上げるシンプルな炒め物のこと。

それぞれのレシピはこの記事の最後にまとめています!

03
【下準備】洗ったら、水気をよく切る

チンゲン菜は葉と茎に分ける。葉物野菜は加熱すると縮むため、一口大よりも少し大きめに切る。5cmくらいにすると食べ応えがあり、オススメ
水をためたボウルのなかで、茎がバラバラにならない程度に軽く広げながら、根元の土を取り除く

チンゲン菜やほうれん草、小松菜などの葉物野菜は根元に土がはいりこんでいる場合が多いので、まずは洗います。洗ったらザルに上げて、水気は必ず切ること。

川﨑さん「余分な水分があると、フライパンの温度が下がって加熱時間が長くなり、シナシナ感の原因になります」

洗ったチンゲン菜は、ザルにあげて、水気を切る

04
【加熱調理】茎の表面がツヤっとするまで油と和える

フライパンに油とにんにくを入れて弱火で熱し、香りを油に移す。にんにくは包丁の腹でつぶしてからみじん切りにすると、細胞が壊れて香りが出やすくなる

にんにくの香りが油に移ったら、火を切り、茎だけを加えます。

川﨑さん「まずは茎に油をまんべんなくからめていきます。大事なのは、野菜の表面全体にツヤがでるまで油をなじませること。このコーティングが、水気が出るのを防いでくれます」

茎の部分に適度に火を通してから葉を加えることで、全体がほどよい食感に。茎は葉に比べて表面積が小さく、厚みがあるため熱が伝わりにくく、水分も出にくい。

05
【加熱調理】炒めるときは、野菜をさわりすぎない

油をまとってツヤが出てきたら、再び火をつけ、中火にします。フライパンに接している面にまんべんなく火を通すイメージ。片面ずつ30秒ほど加熱します。このとき焼き色が付くほど強く加熱しないようにするのもポイントです。

茎の両面が加熱できたら、葉を加えます。葉は火が通りやすいので、全体を混ぜるように、トングなどで返しながら30秒ほど加熱します。

川﨑さん「この手順と方法なら、細胞壁が壊れない程度に熱を均一に通せて、水分が逃げるのをできるだけ防げます」

06
【味付け】調味料は空いたスペースにイン!

味付けで大切なのは、野菜と調味料ができるだけ触れないようにすること。今回は、水に「丸鶏がらスープ™」を溶かしたものを加えています。

川﨑さん「チンゲン菜をフライパンの端へ寄せ、空いたところに調味料を流し入れましょう。調味料を入れたら、煮立たせます。水分が飛んで風味成分が濃縮されるので、少量でもきちんと味がつきます」

煮立たせるときは、フライパンの位置を調整し、調味料部分になるべく火が当たるようにする

チンゲン菜と煮立たせた調味料を合わせる際も、トングなどで全体を返しながら加熱します。

川﨑さん「高温の水分(調味料)と混ぜることで、一気に食材に火が通ります。素早く全体を和えるイメージで、手早く仕上げるといいでしょう」

最後に塩を加える。このときもフライパンの空いているところに塩を入れてから、全体を混ぜる

お皿に盛って、完成です!

早速試食してみると、一口食べてびっくり…!茎はもちろん、葉までシャキシャキとした食感です。味付けは「丸鶏がらスープ™」と塩だけというシンプルさなのに、チンゲン菜の甘みとうま味が際立ち、歯切れのよい食感と一緒に楽しめました。

次は応用編として肉野菜炒めのコツをご紹介します。今回は、にら、もやし、にんじん、豚こま切れ肉を組み合わせた、ボリューム満点の炒め物です。

基本的には先ほどの野菜炒めのポイントと同じですが、肉や異なる野菜を加える際におさえておきたい追加のコツをご紹介します。

07
【下準備】材料の大きさを揃えよう

もやしは一つひとつのひげ根をとると、舌触りがよくなるそう。少し手間がかかるので、今回はレシピから省いていますが、ぜひお試しを!

まずは、それぞれの材料の長さをそろえるように切ります。今回は、もやしの長さに合わせて、にんじん、にら、豚こま切れ肉も約5cmの長さに。

川﨑さん「均一に火を通すためには、すべての食材を、同じ大きさに切りそろえることが大切です。見た目もうつくしく仕上がりますよ」

08
【下準備】肉は事前に「4つの材料」でコーティング

肉をやわらかくジューシーに仕上げるために、水・塩・片栗粉・油の順番でその都度、よく混ぜながら加えます。

左:片栗粉を加える。右:油を入れる。塊になってた肉が、混ぜるとだんだんバラけやすくなった

加える4つの材料にはそれぞれ意味があります。

川﨑さん「肉に水を加えると、肉が水を吸収し膨らみます。これにより、肉汁が増してやわらかい食感を生みます。料理店では酒を使うのが普通ですが、水でも同様の効果があります。塩は、肉の保水力を高めてくれます。片栗粉は加熱するとデンプンが糊化(こか)し、のり状になり、肉の表面をコーティング。調理中に水分が逃げるのを防いでくれます。最後に少量の油を加えて、肉の間に油を入れることで、肉同士のくっつきをおさえてくれるんです」

中華料理では肉を調理する際、この手順が基本なんだとか!青椒肉絲の肉などもこの方法で下処理をするのもオススメだそうです。

(肉に塩を加えるメリットについては「レシピのスキマ」ハンバーグの回で、片栗粉の糊化については水溶き片栗粉の回でも詳しく説明しています)

09
【加熱料理】「二度炒め」で食材ごとの火入れ具合を調整

肉の表面が茶色くなったら、にんじんを入れる。このとき中弱火でゆっくり火を通すことがポイント。タンパク質は加熱温度が60℃に達するまでの時間がゆっくりであるほど、やわらかく仕上がる

食材の下準備ができたら、まずは豚肉を炒め、さらににんじんを加えます。

川﨑さん「材料によって、最適な調理時間は異なります。肉やにんじんは火が通りにくい一方、もやしやにらは細胞壁が薄くやわらかいため、短時間で火が通ります。食材の特性によって火の通りに差がある場合は、『二度炒め』をすると均一に仕上がりますよ」

肉とにんじんに軽く火が通ったら一度皿に取り出し、のちほど戻し入れます。

このあとの手順は、チンゲン菜の炒め物と同じ。おさらいしながら、作りすすめましょう!

肉は赤い部分がなくなり、にんじんは少し歯ごたえが残っている状態が、一度取り出す目安。このあとに予熱や再加熱でさらに火を通すため

豚肉とにんじんを焼いたフライパンに油とにんにくを入れ、油ににんにくの香りを移します。火を止めてからもやしと油を和えて全体をコーティングし、ツヤが出たのを確認したら、再度中火で30秒ほど炒めます。

ほとんどが水分でできているもやしは、細胞壁が壊れやすく、あっという間に水分が出てきてしまう。そのため短時間で返しながら焼く

もやしから水分が出てしまわないように、フライパンの空いたところに調味料を入れ、煮立たせてから全体を混ぜます。チンゲン菜の炒め物同様に、一気に火が通るので手早く混ぜ合わせましょう。

ここでお皿に取り出した、肉とにんじんを戻します。

軽く混ぜたら、にらを加えて、全体を混ぜます。

川﨑さん「にらは加熱しすぎると風味と食感がなくなってしまいます。一番最後に加えましょう。仕上げにごま油を回しかけると、香りがたっておいしくなります」

最後にフライパンに残った水分を確認すると、加えた調味料より少し多いくらいです。この量からみても食材から水分があまり出ていないことがわかります。

完成です!

彩り豊かで見た目からも食欲をそそります。食べてみると、肉はふんわりやわらかくて、ジューシーな味わいが口いっぱいに広がります。野菜の食感も絶妙で、一体感のある仕上がりになっていました!

シンプルな料理だからこそ、調理科学のポイントを押さえることで、見た目も食感も味もぐっとおいしくなります。

明日の夕食に、ぜひこの「あおらない」炒め物、チャレンジしてみてください!

チンゲン菜の清炒(チンチャオ)

材料&調理手順

材料(2人分)
チンゲン菜
2株(200g)
にんにくのみじん切り
1/2かけ分
A:水
50ml
A:「丸鶏がらスープ」
小さじ1/2
少々
サラダ油
大さじ1・1/2
  1. チンゲン菜は葉と茎に分ける。根元の固い部分は薄く切り落とす。茎は縦半分に切り、それぞれをさらに半分に切って4等分にする。葉と茎それぞれよく水で洗い、ざるに上げて水を切っておく。
  2. フライパンに油とにんにくを入れ、火をつけ、焦げないように炒める。香りが出てきたら火を止める。
  3. (1)の茎の部分を加え、油でコーティングするように全体を混ぜる。
  4. 再度火をつけ、中弱火で両面をそれぞれ30秒ずつ加熱したら、葉を加えて30秒ほど炒め合わせる。
  5. フライパンの空いているところに混ぜ合わせたAを加え、煮立ったら、全体をサッと混ぜる。
  6. 味をみて、塩で味をととのえる。

肉野菜炒め

材料&調理手順

材料(2人分)
にら
1/4束
もやし
1袋
にんじん
5cm
豚こま切れ肉
100g
にんにくのみじん切り
1/2かけ分
A:水
大さじ1
A:「味の素KK中華あじ」
小さじ1/2
A:しょうゆ
小さじ1
A:塩
少々
A:オイスターソース
小さじ1
B:水
大さじ1
B:塩
ひとつまみ
B :片栗粉
小さじ1
B:サラダ油
小さじ1
サラダ油
大さじ2
ごま油・仕上げ用
小さじ1
  1. にらは5cm長さに切る。にんじんも5cm長さの薄切りにする。
  2. 豚肉は、5cmの長さに切る。ボウルに豚こま切れ肉を入れ、Bの水を吸わせた後、Bの塩・片栗粉・サラダ油を順番に入れ、その都度よく混ぜる。
  3. フライパンに油大さじ1を入れ、中弱火で(1)の豚肉を加熱する。(2)のにんじんを加えて炒め、皿に取り出す。
  4. フライパンに大さじ1の油とにんにくを入れ、火をつけ、焦げないように炒める。香りが出てきたら火を止める。
  5. もやしを加え、油でコーティングするように、全体を混ぜる。
  6. 再度火をつけ、30秒ほど炒め、(3)を戻し入れて炒め合わせる。
  7. 混ぜ合わせたAを加え、煮立ったら、(1)のにらを加えてさらに混ぜる。仕上げにごま油を回しかける。
  • 執筆/佐々木 まゆ 撮影/佐々木 孝憲 編集/長谷川 賢人
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