さっとゆでるだけで作れる「冷しゃぶ」。さっぱりと食べたいときにうれしい一品です。ただ、火加減が難しく、パサついてかたくなってしまうことも。じつは、ちょっとした火入れのコツさえおさえれば、しっとりとやわらかい冷しゃぶに仕上がるんです。
今回は、その火入れのコツを、調理科学の視点から解き明かします。解説は、味の素社の研究者・川﨑さんです。
(パサつかないハンバーグ、外はパリッと中はじゅわっな餃子を作るコツなどを解説してきたこれまでの「レシピのスキマ」はこちらから読めます!)

インタビューした人
味の素社 研究者
川﨑 寛也さん
博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。味の素社から発売の『料理のしくみがわかる本』では、調理科学・レシピ監修をしている。
お湯は「沸騰させない」が鉄則!
冷しゃぶ作りで一番のポイントは「沸騰したお湯でゆでないこと」です。豚肉150gをゆでる場合、沸騰した湯1Lに対し、水500mLを加えてお湯の温度を70℃程度まで下げます。
※豚肉、湯、水の分量が変わると、温度が下がりすぎて加熱不十分になる可能性があります。食中毒予防のため、レシピの分量と時間を守って加熱し、十分に火が通っていることを確認してください。

川﨑さん「冷しゃぶの理想は、冷めてもしっとりとやわらかいこと。そのカギを握るのが、火入れの温度です。高すぎない温度でゆで、あえて冷水で冷やさないことで、しっとりとした口当たりに仕上げます。
今回は、しゃぶしゃぶ用の豚バラ薄切り肉を使いますが、薄切りのもも肉やロースでも同じ手順で作れます。薄いほど短時間で火が通るのでかたくなりにくく、脂身が多い方がしっとりとやわらかくなります」



川﨑さん「肉には食感を左右する2つのたんぱく質、ミオシンとアクチンがあり、それぞれ変性する温度が違います。ミオシンは50〜55℃で変性して、しなやかな弾力を生み、アクチンは66〜70℃以上になると収縮し、水分やうま味を逃して肉をパサつかせます。ミオシンを変性させて食感を出しつつ、アクチンの収縮をなるべく抑えるため、温度を下げてからゆでているんです」
肉をすべて鍋に入れたら弱火にかけ、ゆっくりと加熱します。


川﨑さん「肉を鍋に入れる時は一枚ずつでなくても大丈夫です。高温だと肉同士がくっつきやすくなりますが、この温度だと軽く揺らすだけでほぐれていきます。肉がほぐれたあとも、ときどき揺らしてお湯を対流させ、肉の周りの温度を均一に保ちます。
お湯の温度が下がらないよう、弱火のままゆでてください。高温で短時間の加熱だと肉がかたくなりますが、火の入り方がゆっくりになると、やわらかく仕上がります」
(ゆっくり火入れの効果についてはしっとりゆで鶏編でも解説しています)
ゆでるときに、酒を加えたり、アクを取ったりすることもありますが、いずれもしなくて問題ありません。酒の目的は、主に臭み消しです。アルコール成分でたんぱく質がわずかにほぐれ、やわらかくなる効果もありますが、今回のレシピはやわらかく仕上がるので、酒を加えなくても大丈夫です。

アクは高温でゆでるとかたまりになって浮いてきて、そのままにすると味にも影響します。今回のように弱火で調理する場合は、お湯が少し白っぽくなるだけなので取らなくても構いません。

肉の色がピンクから白に変わりかけたら鍋から取り出します。少なくとも肉の中心温度が70℃の状態で3分間以上は加熱してください。ほんのりとしたピンク色が残っていると「中まで火が通っていないのでは?」と不安になるかもしれませんが、必ずしも生焼けではないとのこと。

川﨑さん「ローストポークをイメージするとわかりやすいかもしれません。断面はロゼ色ですよね。あのピンク色は、血の色ではなく、肉に含まれるミオグロビンという色素たんぱく質が、低い温度でじっくり火入れされたことで残る色なんです。火が通ったかどうかは色ではなく、肉の中心温度と加熱時間で決まります。
中心温度70℃で3分間以上加熱し、中まで火が入っていれば食べられます。とはいえ、温度計がないご家庭も多いと思います。判断がつかない場合は、完全に白くなるまでゆでてください」
冷ますときは「常温」で、冷水にはつけない


川﨑さん「肉がゆだったら、冷水にはとらず、ザルに上げておきます。冷水につけると、肉が水分を吸って水っぽくなり、脂身もかたまってべたついてしまうんです。冷蔵庫も冷えて脂がかたまるので、常温がオススメ。あえて冷やさないことで、脂がしっとりと馴染みます」
これで、ふわふわとやわらかい冷しゃぶの完成です!
中華風のタレが決め手!「雲白肉」の作り方
冷しゃぶのタレといえば、ポン酢やごまだれが定番。どちらもおいしいですが、たまには違う味も楽しみたいもの……。そこで今回は、中華の前菜「雲白肉(ウンパイロウ)」風のタレを紹介します。
「雲白肉」は、ゆでた豚肉をスライスし、香味だれで食べる四川料理です。にんにくとしょうがを効かせたパンチのある味わいで、暑い日でも箸が進みますよ。付け合わせには、シャキシャキと冷たいきゅうりを添えて、食感のアクセントと爽やかさをプラスします。

まず、きゅうりの下ごしらえ。半分に切ったきゅうりを、ピーラーで薄くスライスし、氷水にさらします。


川﨑さん「冷水にさらすと、細胞のなかに水が入り込んで膨らみ、パリッとした食感になります」

続いて、タレを作ります。調味料(レシピは記事末尾を参照)を混ぜ合わせ、最後に風味付けのごま油を加えて、もう一度混ぜます。

冷しゃぶと水気をきったきゅうりを器に盛ったら、タレをかけます。

川﨑さん「タレはきゅうりを避けて、肉にかけてください。塩分を含むタレが直接かかると、浸透圧できゅうりの水分が抜けてしんなりしてしまいます」

完成です!ピリ辛がお好きな方は、肉にラー油をたらすのもオススメ。見た目も爽やかで、パンチのあるソースが食欲をそそります。お好みの味で、冷しゃぶを楽しんでくださいね!
材料&調理手順
材料(2人分)
| <冷しゃぶ> | |
|---|---|
| 豚バラ薄切り肉(しゃぶしゃぶ用) | 150g |
| <雲白肉風仕立て> | |
| きゅうり | 1本 |
| A:ねぎのみじん切り | 5cm分 |
| A:にんにくのすりおろし | 小さじ1強 |
| A:しょうがのすりおろし | 小さじ1強 |
| A:しょうゆ | 大さじ2 |
| A:ごま油 | 大さじ2 |
| A:豆板醤 | 小さじ1・1/2 |
| A:こしょう | 少々 |
| A:砂糖 | 少々 |
| ラー油・好みで | 適量 |
<冷しゃぶ>
つくり方
- 1
鍋に水1リットルを入れて火にかけ、沸騰したら、火を止めて水500mlを加え、湯温を下げる。
- 2
豚肉を全量入れたら弱火にかけ、加熱を続ける。鍋を軽く揺らし、豚肉をほぐす。
- 3
3分間以上加熱し、豚肉の色がピンクから白に変わりかけたら、取り出してザルに上げ、常温で冷ます。
*豚肉は肉の中心温度70℃を3分間以上保ってください。豚肉、湯、水の分量が変わると、温度が下がりすぎて加熱不十分になる可能性があります。食中毒予防のため、レシピの分量と時間を守って加熱し、十分に火が通っていることを確認してください。
<雲白肉風仕立て>
つくり方
- 1
きゅうりは両端を切り落とし、長さを半分に切る。外側からピーラーで薄切りにし、短冊状になったら、氷水(分量外)にさらし、水気をきる。
- 2
ボウルにAを入れて混ぜ合わせる。
- 3
器に(1)のきゅうり、冷しゃぶを盛り、(2)を回しかけ、好みでラー油をたらす。

