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根菜のおいしさを引き出す!調理科学の研究者に聞く「焼きの極意」 【大根・にんじん編】

根菜のおいしさを引き出す!調理科学の研究者に聞く「焼きの極意」 【大根・にんじん編】

2024/12/05

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シンプルだからこそ奥深い調理法「焼く」。バーベキューやキャンプでは、野菜を焼くだけ、お肉を焼くだけでも十分ごちそうですが、家庭で素材を焼いて食べようと思うと火加減などが難しかったりします…。そこで、編集部は味の素社の研究者で調理科学者の川崎さんを訪ねました。

「焼く」という調理法で、食材の持ち味を最大限に引き出す方法を、食材の特徴や、調理科学の視点で解説しながら2回にわたって紹介中。第1回の記事では、水分が多く焼き加減が難しいきゃべつ、まいたけ、なすをおいしく焼く方法をご紹介しました。

第2回目となる今回は、冬に旬を迎える根菜から、大根とにんじんの焼き方をご紹介します。

インタビューした人

味の素社 研究者

川﨑 寛也さん

博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。

  1. おさらい:食材の表面で起こる「おいしさの化学反応」を知ろう
  2. 素材の個性を活かす、焼きの“極意”を知ろう!
  3. 「焼く」で変わる野菜の味わい。道具選びのポイント

01
おさらい:食材の表面で起こる「おいしさの化学反応」を知ろう

まずは、「焼く」という調理法を、調理科学で見たときのおさらいです。熱を通すことの意味、水分の蒸発、「メイラード反応」と呼ばれるアミノ酸と糖の反応など、食材には様々な変化が起こります。川崎さんは「焼く」とは食材の表面に”調味料”を作り出す過程と言います。焼くことにより食材の表面においしさの要素が凝縮されるのです。

より詳細な解説は、先日に公開した「焼きの極意」の【きゃべつ・まいたけ・なす編】をご覧ください!

それでは、川崎さんによる今回の「焼き」レッスンに入っていきましょう。大根とにんじんはどちらも硬く、焼き加減が難しいイメージがありますが……ポイントを抑えれば、グーンと良い仕上がりにできますよ。

02
素材の個性を活かす、焼きの“極意”を知ろう!

●大根の焼き方

川崎さん:大根の焼きの極意は、焼く前の下準備にあり。野菜の細胞は、「ペクチン」という成分などで構成される細胞壁に守られています。ペクチンには細胞壁を固くし、細胞同士を接着させる働きがあります。とくに大根のような根菜の表面は土の中にあるため硬くて火が通りにくいのです。しかし、ペクチンは熱に弱く、加熱すると分解されるので、焼く前に電子レンジにかける工程をはさむことでやわらかくなり、焼くのは表面に焼き色を付けるだけにすると短時間で調理が済みます。

<下準備>

1.大根はへたを切り落とし、3cm程度の厚さの輪切りにします。

川崎さん:大根は、葉先に近い上部が甘く、下部ほど辛味があるという特徴があります。焼き野菜に特にオススメなのは上部側ですね。

2.大根の皮を厚めにむきます。

川崎さん:皮を厚めにむくのは「維管束(いかんそく)」を取り除くため。維管束は水分や養分を運ぶ役割を持つ組織で、大根の場合は皮の内側を走っています。皮を薄くむくと維管束が残ってしまい、食感を損なう原因となるため、皮は厚めにむくことをオススメします。

3.火の通りをよくし、焼き目をきれいに見せるため、両面に浅く切れ目を入れます。約5mm幅で格子状に入れていきましょう。

4.水で濡らしたキッチンペーパーに大根を包み、さらにラップで包みます。電子レンジ(600W)で4分を目安に加熱します。

川崎さん:大根に竹串がスッと入るやわらかさになるくらいに加熱しましょう。焼いた時に火が通りやすくなるうえに、焼き時間の時短にもなります。

<焼き方>

1.冷たい状態のフライパンにオリーブオイルを大さじ1程度入れ、大根を置きます。

川崎さん:水分が多い大根は、油ハネ防止のためフライパンは冷たい状態からスタートするといいでしょう。

2.中火にし、大根のフライパン側の断面が常に油が触れるように焼いていきます。

川崎さん:大根は、すでに細胞壁が壊れているので、細胞の中の成分であるアミノ酸や糖が出やすいため、焦げやすくなっていますので、じっくり焼いていきます。トングなどを使って、断面に油をしっかり含ませて焼くと、きれいに焼けますよ。

3.ほんのり焼き目がついたら火を中弱火に弱め、さらに焼き色がつくように焼いていきます。しっかり焼き目がついたら裏返し、同様に焼いていきましょう。

川崎さん:季節によっては、大根は真ん中がへこみやすく、周りにばかり焼き色がついてしまいます。全体的にきれいな焼き目をつけるため、中央部分をヘラなどで押しつけながら焼くのもポイントです。

4.全体にしっかり焦げ目がついたら焼き上がり!器に盛り、仕上げにお好みの量の塩をふりかけます。

★編集部が食べてみた!

外はこんがり香ばしく、中はとろけるようにやわらか。生の大根にある辛みはなく、自然な甘みが感じられます。実は大根には昆布と同じうま味成分(グルタミン酸)が豊富に含まれているのだそう。最後に振る塩が全体の味を引き締めて、野菜とは思えないほど深い味わいに。おでんや大根おろしとも違う、新しい楽しみ方を発見できました。

●にんじんの焼き方

川崎さん:にんじんの焼きの極意は、焦げすぎないようにしながらもしっかりと焼くこと。にんじんは糖が多いので、メイラード反応が起きやすいんです。あっという間に焦げてしまうのですが、焦げとおいしさの焼き加減、この違いの見極めが大事です。

<下準備>

1.にんじんは皮をむき、へたと先端を切り落とします。

2.水で濡らしたキッチンペーパーににんじんを包み、さらにラップで包みます。電子レンジ(600W)で4分を目安に、竹串がスッと入るやわらかさになるよう加熱しましょう。

3.にんじんがやわらかくなったら、縦半分に切ります。

<焼き方>

1.冷たい状態のフライパンにオリーブオイルを大さじ1程度入れ、にんじんの断面を下にして置きます。

川崎さん:焦げやすいにんじんは、フライパンを温める前に油を引くのがポイント。また、にんじんを置く際は、油がにんじんとフライパンの間全体に回るようにします。

2.中火から中弱火にして、7分程度じっくりと焼いていきます。

川崎さん:時々、焼き面を見て、色が茶色に変わっていなければ、まだ焼きが甘い状態です。ほんのりと焦げ目がついたら、メイラード反応が起き、焼けてきたサインです。

3.にんじんを裏返して、皮側も同様に焼きましょう。皮側もおいしそうな焼き目がついたら焼き上がり!器に盛り、仕上げにお好みの量の塩をふりかけます。

★編集部が食べてみた!

表面はカリッと香ばしく、中はしっとりほくほく。いつもの炒め物や煮物とは違って、まるでスイートポテトのような深い味わいに!もはやスイーツといっても過言ではないので、バターやはちみつをかけて食べてもおいしそうです。にんじんが苦手なお子さんも、これならパクパク食べてくれるかもしれません。

03
「焼く」で変わる野菜の味わい。道具選びのポイント

──焼き方のポイントを色々教えていただきましたが、他にも意識するとよい点はありますか?

川崎さん:フライパンの選び方は、意識するとよいかもしれません。メイラード反応をしっかり起こすには、厚手のフライパンがオススメです。薄いフライパンやアルミのフライパンは、食材を置くとその部分の温度がどんどん下がってしまうため、常に食材を動かして高温の場所を探す必要があります。一方、蓄熱性の高い鉄のフライパンやステンレスの分厚いフライパンなら温度が安定します。とくに野菜をたくさん焼くときは、厚手のフライパンがオススメです。

今回は、にんじんと大根という冬の根菜を中心に、その魅力を最大限に引き出す焼き方をご紹介しました。調理科学の視点をもって、食材の特徴や工程の意味を理解することで、シンプルでもおいしい一品を作ることができます。この冬は「焼きの極意」を活かして、野菜の新たな魅力を発見してみてはいかがでしょうか。

【関連記事はこちら】調理科学から見た、 シンプルで奥深い「焼きの極意」 【キャベツ・まいたけ・ナス編】

  • 執筆/大西 マリコ 撮影/川島 彩水 編集/長谷川 賢人
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