おいしいか、おいしくないか、で言えば「まぁ、おいしい」くらいの感想だけれど、なんだか“味が足らない気がする”……キッチンで、うーん、と困ってしまうことがあります。
そんなとき、料理人の東山広樹さんが書いた『スーパーの食材で究極の家庭料理』(大和書房)の一文が目に留まりました。
「『なんだか料理の味が決まらないな……』という時は、酢を少量加えるだけで味が一気にまとまることがよくあります。」
いったいどうして、そうなるの?料理を科学的な考察や分析から考える「調理科学」にも詳しい東山さんを訪ねました。さらに、作りおきやお正月のおせちにもぴったりなお酢レシピと、東山さん流の「オススメしたいお酢」についても教わりました。
インタビューした人
超料理マニアな料理人
東山 広樹さん
1986年生まれ、埼玉県出身。東京農業大学醸造科学科卒業。人材派遣会社での勤務を経て、食の総合出版社「柴田書店」へ転職し、幼少の頃からの趣味である料理についての学びを深める日々を送る。料理を学ぶほど「料理人になりたい!」という夢が諦めきれなくなり、汁なし担々麺専門店「タンタンタイガー」を創業。現在は株式会社マジでうまい代表取締役。「超料理マニアな料理人」として会員制レストランを主宰、飲食業のレシピ開発などを行っている。SNSで発信する料理やグルメの投稿も大きな反響を呼んでいる。近著に『マニアック家中華』(ダイヤモンド社)。
- 味が決まらないときには「酢」を使ってみよう!の理由
- おいしいお酢レシピ「しょうがとごぼうのうま味たっぷりガリ」
- “酢マスター”への一歩!料理によって「お酢」を使いわけ
01
味が決まらないときには「酢」を使ってみよう!の理由
料理の味が決まらないときに酢を使うとよい理由を、「ぼやけた味にキレを与えてまとめてくれるからです」と、まずはイメージで伝えてくれました。では、“キレ”とは?
東山さん「酢は“味の成分”がとても多く、濃さのある調味料です。調理科学の観点で言うと、溶液の濃度を表す単位の『モル濃度』を測っても非常に高い。そのため、甘味や酸味、うま味がぼやけている料理に酢を加えることで、料理全体の濃度が上がり、感じる味も充実します。それで『味が濃くなった』『料理の輪郭がはっきりした』と思えるんですね」
つまり、「味のまとまり」とは料理全体の成分や濃度を整えること、と表現できるのでしょう。ただ、そんなふうに濃さがある酢だけに、料理へ与えるインパクトも大きいもの。「お酢は味見をしながら、まずは数滴単位で使ってみて」と東山さんからアドバイスをもらいました。
02
おいしいお酢レシピ「しょうがとごぼうのうま味たっぷりガリ」
お酢は”ぼんやり料理”の救世主でありながら、さまざまな健康効果も期待できるスグレモノ。でも……よくあるお悩みでは「ひと瓶なかなか使い切れない」という声も。
そこで今回、東山さんがレシピを教えてくれたのは、しょうがとごぼうをたっぷり使った「ガリ」です。
しょうがの甘酢漬けとしてお馴染みの「ガリ」も、ごぼうを加えると力強く複雑な味わいに。「食事はもちろん、おつまみにも、おせち料理にもぴったりですよ!」と東山さん。しょうがのサクサク食感に、ごぼうのコリコリ食感という取り合わせも楽しい一品です。
しょうがとごぼうのうま味たっぷりガリ
材料&調理手順
材料(2人分)
- しょうが
- 200g
- ごぼう
- 200g
- 「アジシオ®」
- 小さじ1
- ◇漬酢※
- 水
- 200ml
- 酢
- 200ml
- 「ほんだし®」
- 小さじ1(3g)
- 砂糖(※てんさい糖がオススメ)
- 大さじ2(18g)
※漬酢は調味料の比率が同じであれば、仕込む材料の量によって分量を調整できます。水と酢を同量合わせたものに対し、「ほんだし®」が0.75%、てんさい糖が4.5%の量になるようにしましょう。
※てんさい糖はまろやかな甘みが特徴。ほかの砂糖を使う場合は、分量を「大さじ3(27g)」に変更するのがオススメです。
- 漬酢を作る。まずは鍋に「酢以外」を入れる。火にかけて沸騰させ、よく混ぜて調味料を溶かす。
- (1)の粗熱を取り、酢を加える。
- ごぼうはよく洗い、スライサーで薄切り、または包丁でささがきにして5分ほど水にさらす。しょうがは皮つきのまま、ごぼうと同じくらいの厚さの薄切りにする。
- 別の鍋に、しょうがとごぼうの全体がしっかり浸かるくらいのお湯(分量外)を沸かす。しょうがとごぼうを加えて強火にかけ、再び沸騰したら、さらに2分ゆでる。
- (4)をザルにあげ、熱いうちに「アジシオ®」を加えて和え、粗熱を取る。
- (5)を軽く絞り、漬酢に半日以上漬けて、できあがり(※冷蔵で保存できます。保存する場合は清潔な保存容器を使用してください)。
東山さん「てんさい糖は甘味がまろやか。よい意味での雑味もあり、味に厚みが出ます。今回のようなシンプルな料理ほど砂糖の種類による影響は大きいので、ぜひ試してみてください」
東山さん「酢は沸かしてしまうと酸が揮発するので、調味液が手で触れても熱くないほどの温度に冷めてから加えるのがポイントです!粗熱の取り方は時間があればそのまま置いてもよいですし、水をはったボウルに鍋ごとつけると、より早く冷ませます」
東山さん「たくさん作るならスライサーが便利です。市販品のガリに近い厚みになりますね。包丁で切るのと食感の違いも出るので、それも楽しんでみてください。ガリは新しょうがで作るイメージがあるかもしれませんが、スーパーでよく見る古根しょうがのほうが下処理もラクですし、こちらのほうが作りやすいと思います」
東山さん「強火にするのは早く再沸騰させたいからです。野菜の細胞壁をつなげる役割を持つ成分のペクチンは、50〜70℃に加熱すると固まる性質があります。今回のレシピでは、その温度帯をなるべく早く通過させ、高温でさっとゆでることで、ペクチンをそれほど硬化させずに柔らかな食感を保つのが狙いです」
東山さん「ゆで汁は、しょうがやごぼうの香りとうま味が溶けているので、だしとしても鮮烈な風味があります。野菜と豚肉、みそを加えて豚汁にしたりすると、おいしいですよ!」
東山さん「塩をふって軽く絞ることで野菜の水分が抜け、スポンジ状の空洞ができます。この空洞に漬酢が浸透して、味が入りやすくなるんです。このガリは、作りたては酸味が立っていて、それはそれでおいしいのですが、一晩寝かせると全体が調和してよりおいしくなりますね」
さっそくいただいてみると……しょうがの爽やかな香りに、ごぼうの力強いうま味、それらを甘酢がまろやかに包んでいて、ついつい箸がのびます。たしかにお酒にも合いそう!種類は選びませんが、この心地よい酸味なら、まずは日本酒が筆頭でしょうか。
東山さん「漬酢に『ほんだし®』を入れるのも隠れポイント。アクの強いごぼうと、『ほんだし®』のかつお節由来の薫香が、相乗効果になるんですよね。ふつうのガリはもっとやさしい風味かと思いますが、『アジシオ®』と『ほんだし®』でバシッと味が決まって、ガリだけどパンチがある、ちょっとほかにはない一品にまとまりました!」
さらに、しょうがは古来より厄除けの効果があるとされ、ごぼうは地中に深く根を張ることから「根気がつく」「家の土台がしっかりする」などのいわれがあります。共に縁起がよい食材とされており、お正月のおせちに入れるのにも、ぴったりです!さっぱりとした味わいが、よい箸休めになりますよ。
03
“酢マスター”への一歩!料理によって「お酢」を使いわけ
手に入りやすい穀物酢のほかにも、今回のレシピでも使った米酢など、酢にも種類があります。そこで、東山さんが「よく使う」という酢を教えてもらいました。
まず米酢は、特に飯尾醸造の「富士酢」がオススメなのだとか。酸味がとがってなく、うま味が強いので、料理の味をまとめてくれます。
東山さん「じつは僕自身、元々あまりお酢が得意ではなかったんです。でも、このお酢に出会ってから、酢のうま味や複雑なおいしさに目覚めて、今では色々なお酢を試しています」
それから、酢ではありませんが「生のレモン汁」も、酸味が柔らかく、ほどよい甘みがあって重宝するそう。また、中国黒酢は酸味が穏やかで、甘みとうま味が強く、炒め物など加熱する料理に。白ワインビネガーは最も酸っぱく、しっかり酸を立たせたいときによく合います。
使いわけの基本は料理ジャンルに合わせればOK。和食なら米酢、中華料理なら中国黒酢、イタリアンやフレンチならば白ワインビネガーといった選び方です。アルコールと水から作られるタイのお酢は香りを邪魔しないので、ハーブを多く使うエスニック料理と相性抜群。
東山さん「その料理のジャンルでよく用いられてきたお酢は、やっぱり定番になるだけの理由があるんですよね。味わいからして、料理との整合性が取りやすいのだと思います。生産地や原材料なども相性の参考になるはずです」
それぞれの特徴を知ったうえで、目指したい味や効かせたい酸味の度合いによって酢を使いわけられれば、料理のレパートリーが広がり、本格さもアップするはず!なんだか味が決まらないときこそ、お酢のことを思い出して、気軽に試してみてください。