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作って食べて、生きていく。馬田草織さんに聞く、自分で自分の機嫌をとる方法

作って食べて、生きていく。馬田草織さんに聞く、自分で自分の機嫌をとる方法

2024/10/10

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人生の荒波に翻弄されながらも、生きていくために料理を作り、食べる。文筆家でポルトガル料理研究家の馬田草織さんに、忙しい毎日でも心地よく、自分らしく暮らすためのヒントを伺いました。

「作って食べるということは、自分で自分の機嫌を取ることでもあると思います」。
仕事でてんてこまいな日も、子育てに追われる日も、うまくいかなくて落ち込んだ日も、自分のために自分の好きなものを作り、疲れた自分をなぐさめてあげる。

馬田さんの”ままならない生活”のなかから生まれたレシピには、毎日をちょっと楽しくご機嫌にしてくれるエッセンスが詰まっていました。

インタビューした人

馬田 草織さん

文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。出版社で雑誌編集を経て独立。ポルトガルの食や文化に魅了され、家庭料理からレストラン、ワイナリーなど幅広く取材している。ポルトガル料理とワインを楽しむ教室「ポルトガル食堂」を主宰。最新刊は『ホルモン大航海時代』(TAC出版)『塾前じゃないごはん』(オレンジページ)。一児の母。https://www.instagram.com/badasaori/

  1. どうせならおもしろがりたい。自分で自分の機嫌を取るための料理
  2. ルールにとらわれず自由に。ままならない生活から生まれるレシピ
  3. 食卓を囲んで会話を楽しむ。ポルトガルの食文化の魅力に触れて
  4. 小さな“おもしろいこと”を集めて、自分を飽きさせない

01
どうせならおもしろがりたい。
自分で自分の機嫌を取るための料理

──仕事に子育てにと目まぐるしい毎日でも料理を楽しんでいる様子の馬田さんですが、自炊を面倒に感じることもありますか?

馬田さん:日々の暮らしを支える料理は、たいていはとっかかるまで面倒だなと思ってます(笑)。料理をすることは好きだけれど、毎日朝昼晩となると話は別。それよりも、ワインを飲みながらつまみを食べつつ、好きなドラマを見ていたい(笑)。

──それでも、作って食べようと思う原動力はなんでしょう?

馬田さん:食べたくないものに、自分の食べる機会を乗っ取られるのが嫌なんです。おいしいものばかり食べる必要はないけれど、好みじゃないものを惰性で食べたくはない。

人は疲れていたり、元気がなかったり、ネガティブになったときこそ、食べたい味に救われると思うんです。だから、なるべく日々食べたいものを選んで自分に食べさせています。

──小さい頃から料理をされていたそうですね。

馬田さん:母の巧みな誘いに乗るかたちで、小学3年生くらいから土曜のお昼ごはんを作りはじめました。市販の袋麺に野菜炒めをのっけたり、簡単なチャーハンを作ったり。中学生からは土曜の夕ご飯が私の担当。その頃はかぼちゃにハマっていて、かぼちゃと手羽先の甘辛い煮物ばかり作っていました。料理が好きというよりは、小さい頃から好きな食べ物がはっきりしていたんです。嫌がらずに作っていた理由は、好きなものを食べたいのと、嫌いな煮魚を食べないため。自分で作れば煮魚を食べる危険性を排除できますから(笑)。

──馬田さんのInstagramで投稿されている#JK弁当も、面倒に思われがちなことを楽しんでいる印象です。

馬田さん:どうせ毎朝作るなら、いっそおもしろがりたい。いかに自分が機嫌よく作れるか、考えを巡らせるのは嫌いじゃないんです。最近はお弁当作りに便利な市販品も探していて、チューブ入りの明太マヨネーズを愛用中。切り身魚に塗って焼いたり、ゆで野菜を和えたりしています。

あと、ヒットだったのがスープジャーの茶碗蒸し弁当。娘の高校入学と同時にスープジャーを買ったのですが、考えてみると、これって要は保温がきく筒状のお弁当箱。だからスープじゃなくてもいけるなと思い、娘の大好物の茶碗蒸しを入れてみたんです。当然ですが、ジャーに入れる時点で形は崩れるし、持ち運ぶ間に揺れるので、食べる頃にはもはやドリンク状になっているらしいのですが、娘が「それもありだと思った」とすごく喜んでくれて(笑)。そうか、この場合、別に形状なんて関係なくて、食べる時においしいってことが大事なんだと気づいた瞬間でした。

02
ルールにとらわれず自由に。
ままならない生活から生まれるレシピ

──手軽にできるのにおいしい。でもどこか新鮮で新しい発見がある馬田さんの料理。どんな時にレシピが生まれるのですか?

馬田さん:時間がない、疲れていて頑張れない、材料がない。切羽詰まり気味の方が、思いもよらないレシピが生まれやすいかもしれません(笑)。

たとえば、新刊『ホルモン大航海時代』の中に出てくる「納豆蕎麦炒め」はその最たるもの。ひきわり納豆と豚バラ肉、冷凍したゆで蕎麦を日本酒と柚子胡椒で調味し、炒めた料理なのですが、保育園児だった娘が熱を出し、買い物時間がなかったときに冷蔵庫のあり合わせで作ったものが始まりです。

このレシピで一番驚かれるのは蕎麦の冷凍。あるときスーパーで冷凍うどんを見て、「あ、うどんがいいなら蕎麦もありだな」って気づいて。以来、余裕があるときに蕎麦やそうめんをまとめてゆでて冷凍ストックしています。この場合、炒める前提なので、麺にごま油をまぶしておきます。そうすると、炒めたときにほぐれやすくなるんです。

冷凍庫にストックしているそうめんと蕎麦。「麺をおいしく食べるコツは、ゆでたあとに必ず冷水で締めること。コシが違います。冷たく食べる時も温かく食べる時も冷凍する時も同じです。こうあるべき!という固定観念にとらわれない方が、意図せずおもしろいものに出会えたり、名前もないオリジナルの料理が生まれたりすると思います」

03
食卓を囲んで会話を楽しむ。ポルトガルの食文化の魅力に触れて

──ポルトガルに関する著書も多く出している馬田さんですが、ポルトガルでの経験や出会いに影響を受けていることはありますか?

馬田さん:ポルトガルでは、食事中に会話を楽しむ人が圧倒的に多い。レストランではみんながしゃべっていてうるさいくらい(笑)。家族や友人たちと一緒が多いけれど、1人で食べるときもカウンターでお店のスタッフとしゃべったりとコミュニケーションに積極的。私も食事中は会話を楽しみたいので、そんなところにも魅力を感じました。

──レシピのアイデアにも影響を受けていますか?

馬田さん:ポルトガルはヨーロッパで一番お米を食べる国なんです。例えば汁っ気たっぷりの魚介のリゾット的なものもあれば、鶏ご飯みたいな炊き込みご飯的なものもあって、さらにそれらにワインを合わせます。米で呑む国なんです。だから、酒に合う米料理のバリエーションを考える時にはとても重宝しますし、米料理でワインを飲むというスタイルは、私の生活にすっかり馴染んでいます。

さらにポルトガルの食文化を歴史の面から紐解くと、日本の食文化にも大きな影響を与えています。天ぷらの語源は、ポルトガル語のテンペラール(味付けする)やテンポラシュ(カトリックの四旬節という単語の一部分)と考えられ、カステラや金平糖などもポルトガル由来の菓子。鎖国前の100年間はポルトガル由来の南蛮文化に大きな影響を受けていた事実もあるので、歴史的にも深掘りしがいがあります。

毎日を機嫌よく過ごすためのエッセイと、ほぼ一人前レシピ23品をまとめた1冊 『ホルモン大航海時代  ポルトガルと日本で見つけた自分のための鱈腹レシピ23』(TAC出版)

04
小さな“おもしろいこと”を集めて、自分を飽きさせない

──今日お話を伺っていると、「おもしろがる・自分を飽きさせない」というのがキーワードになっているような気がしました。

馬田さん:そうかもしれません。自分で自分の機嫌をとりながら、小さなことでもおもしろい!と感じることを集めてみる。結局はそれが積み重なって暮らしになり、人生になるんだと思います。

料理に限らず、映画やドラマ、音楽でも、植物や動物を育てるでもいい。自分で自分の機嫌をとれるように、普段から自分のお気に入りを把握して、いくつも確保しておくといいと思います。

馬田さんの著書。いつもの食材があっという間にポルトガルの味になるレシピをまとめた『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房)、JKこと女子高校生の娘さんと囲む気ままな食卓の風景をまとめたエッセイとレシピ『塾前じゃないごはん』(オレンジページ)。

──馬田さんにとっては、そのひとつが料理なのですね。

馬田さん:そうですね。単純だけど、食べることで元気になるって、一番わかりやすい生き物の本能だと思うんです。自分好みの料理が作れると、何かに頼らずとも、自分の機嫌や体や生活をコントロールできる。それって強い。

とはいえ、やる気ゼロのときも多々あるので、そんなときは無理に料理を作らず潔く冷凍ストックに頼ったり、デリバリーを頼んだりもします。でもストックやデリバリーを選ぶにせよ、選択肢は多い方がいい。「これしかない」よりも、いくつかの候補から自分で選べることは、楽しみになり得るから。

私の場合、冷凍庫にはいつも好きな店の肉まんや餃子、だし汁ごと冷凍したうどんなど、頼れる食材を複数ストックしていて、ほかにも海苔や納豆、梅干しやチーズ、缶詰類や漬物など、すぐ食べられる好きな食材は切らさないようにしています。

人生で最も多い食事は、圧倒的に家でする日常の食事。大勢が集まるにぎやかなハレの食事なんて、月に数回あるかないか。だからこそ、普段の食事は、自分好みだなと実感できる料理を食卓で楽しみたいと思っています。

  • 執筆/高野 瞳 撮影/須古 恵 編集/花沢 亜衣
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