私たちの暮らしの中で身近な牛乳。みなさんは、どのくらいの頻度で牛乳を飲んでいますか?
味の素グループでは食材をおいしく使い切るための取り組みを進めていますが、そこでわかったのが牛乳の「とある傾向」でした。どうも「冷やして飲む」というイメージがあるからか、寒くなるほどに牛乳を飲む量が少なくなるのだそう……。
でも、「冬こそ」牛乳に含まれる乳脂肪やたんぱく質などの成分が増して、実は「おいしくなる」シーズンなんです!
近くにあるのが当たり前すぎて、知っているようで知らなかった。牛乳には、そういうことがまだまだありそう。そこで、牛乳にまつわることを教わりに、愛媛県の山あいにある酪農家さんのもとを訪ねました。

「牛乳はあたためたときに、風味がいちばん出るからね」と、酪農家の岩田さん。注いでもらったその一杯は、確かにほどけるほどにコクを感じ、伸びやかに香りが抜けていくよう……お話を聞いて、牛乳の見方がすっかり変わってしまいました!

インタビューした人
岩田耕司さん・真実さん
- 仕事は朝5時から。1日2回の乳しぼりのために
- 「普通のもの」をずっと作り続けるのが、むずかしい
- 殺菌方法で風味が変わる!牛乳を選ぶときのポイント
- 使い切りにもぴったり!「牛乳豆腐」が重宝します
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仕事は朝5時から。1日2回の乳しぼりのために

松山空港から、車で1時間ほど。ぐんぐんと山を登っていった先に、岩田耕司さん・真実さん夫妻が酪農を営む牛舎がありました。
酪農は耕司さんの家業です。祖父から数えて80年ほど、この場所で牛たちと向き合ってきました。耕司さんの酪農家歴は23年、現在は約70頭の乳牛を飼育しています。
牛の搾乳(生乳をしぼること)は朝夕の2回。牛乳のもとになる生乳は、牛1頭あたり1日平均30〜40リットル取れるそう。1リットルの牛乳パックに換算したら……毎日だいたい1500本分!


仕事が始まるのは朝5時から。えさやりなどをしてから、6時には「朝の搾乳」に入ります。片付けなどを済ませて、8時半から9時には朝の作業はおしまい。そこから、昼間は農作業など別の仕事や休憩をはさんで、15時から19時すぎくらいまでには「夕方の搾乳」も済ませます。

耕司さん「えさ作りも、掃除もあるし、事務作業もあるし。手伝ってくれる『酪農ヘルパー』さんにお願いすることもあるけれど、基本は毎日が仕事です。ヘルパーさんは廃業した元酪農家だったり、牛舎は持っていないけれど牛が好きな人が多いですね」
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「普通のもの」をずっと作り続けるのが、むずかしい

見学をさせてもらっているときも、乳牛たちはめいめいにえさを食べていました。
岩田さんの牛舎ではイネ科の「スーダングラス」を乾燥させた牧草を基本に、自前の畑で育てたとうもろこしを発酵させた「サイレージ」をブレンド。それから、筋トレが趣味で栄養学にも詳しい耕司さんらしく、ビタミンなどが摂れる牛用サプリメントもメーカーに独自配合で作ってもらい、体調管理のために与えているのだとか。
耕司さん「やっぱり食べるもので風味は変わってくるね。愛媛のこのあたりだと、みかんジュースを作ったあとの搾りかすを混ぜるところもあったり。たとえば、『北海道の牛乳は味が違う』なんていうのも、あちらは乾草の自給率も高いし、放牧している所では『青刈り』もえさにするでしょう。だから、どこか青々しい風味が出てくるんですよ」

食べたものでカラダができあがるのは、人間も乳牛も一緒。その恵みをいただく牛乳ですから、違いが出るのも納得です。
耕司さん「農家にとっては『普通のもの』をずっと作るっていうのが一番難しい。『変わったもの』は特殊な牛の品種にするとか、特殊なものを食べさせるとか、そうすれば作れる。でも、みんなが『これはおいしいね』と思えるような『普通のもの』って大変なんですよね。気候や牛の体調にも左右されるもんやけん。それを考えながら、『普通のもの』を作るっていうのは、すごい観察力と努力がいること」

耕司さん「うちは自由採食なんで、基本的にはえさを食べるタイミングも牛任せ。だから、なにかあって食べてないようだと乳量が減ってくるんです。搾乳して、毎日様子を見て、おかしいところがあれば気にかけてあげる。顔を見れば一頭ずつわかるよ。ここの牛はだいたい人工授精で、僕が種付けして産んでくれた子ばかりなんでね」
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殺菌方法で風味が変わる!牛乳を選ぶときのポイント

酪農家さんの毎日の仕事が結集して、私たちがお店で手に取る「牛乳」ができあがっています。乳業メーカーは酪農家から生乳を集め、受け入れ検査などの品質を毎日チェック。その後に、目に見えないゴミを取り除く「清浄」や、安全性を高める殺菌過程などを経て、商品としての牛乳は作られていきます。
パッケージだけを見ると、どれも同じ牛乳に思えますが、実は味わいが変わるポイントが一つ。より「生乳らしさ」を感じたいなら、殺菌方法に注目してみましょう。
耕司さん「味にいちばん影響が出るのは殺菌方法ですね。生乳を薄いプレートの間を通し130℃ほどで2秒間加熱する方法です。市販の生乳のほとんどがこの方法で処理されています。この方法は、日持ちしやすくなるし低コストっていう良さはあるけど、牛乳がどうしてもこげて、それが市販の牛乳特有の風味として感じられてしまうんですよ」
一方でパッケージに「パスチャライズド牛乳」や「低温殺菌牛乳」と書かれたものは、より低い温度で時間をかけて殺菌しているため、生乳としてのコクや風味が残りやすいのです。
また、「ノンホモ牛乳」と書かれたものも、「ホモジナイズ」という脂肪分を均質にする処理をしていない商品で、生乳により近い味わいです。その分、脂肪分が分離しやすいので、飲む前に軽く振るなどするとよいでしょう。


そして、オススメの飲み方は、あたためること!
耕司さん「人肌程度にあたためると甘みがいちばん出るから、鍋に入れて火にかけて、湯気がふわっと出たくらいが飲み頃。火にかけすぎると、泡が立って溢れてしまうので気をつけて。電子レンジに『牛乳モード』があれば、それを使ってみるとより簡単ですね」
もし、いろいろな牛乳を試してみようかなと思ったときは、産地にも注目してみてください。生乳は鮮度が命だからこそ、岩田さんたちのような酪農家も、生乳を預かる乳業メーカーも、製法やスピードにはこだわっています。「農作物と一緒で、牛乳も地産地消がいちばんおいしくて間違いはないと思うんです」と耕司さんは言います。
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使い切りにもぴったり!「牛乳豆腐」が重宝します

飲んでおいしい牛乳ですが、時には使い切れずに余ってしまったり、買い置きを忘れてまた買ってしまったりすることも。そこで「料理で使う方法」を聞いてみると、よく作るという「牛乳豆腐」を教えてくれました。
作り方は簡単。牛乳を鍋に入れて泡が出る直前くらいまで温めたら、火を止めて、そこへ酢を一回しほど入れます。あとは、自然と出てきた塊を、ざるでこすだけ。こしたときに出る水分は「ホエー(乳清)」と呼ばれて栄養素が含まれていますから、そのまま他の料理や飲みものに加えると、無駄なくいただけます!
真実さん「私たちは『牛乳豆腐』と呼んでいたんですが、カッテージチーズに近い作り方みたいですね。わが家では、それこそ豆腐みたいにおみそ汁へわかめと入れます。あとはカレーもおすすめ。少し酢を多めにして固めに作ったら、仕上げのときにトッピングとして加えてみてください。ホエーもカレーに加えれば使い切れますよ」

快活に働かれ、インタビューにも快く応えてくれた岩田ご夫妻。元気の秘訣も牛乳にアリでした。耕司さんは「牛乳は毎日600mlくらい、1リットル飲むこともある」とのこと。ただ、その牛乳は買い求めてきたものにするのがこだわりです。「自分たちは生産者だけれど、消費者でもあるから、消費して社会へ貢献しよう」という家訓を守っているのです。

真実さん「私は子どもの頃、牛乳って飲まなかったんですよ。やっぱりジュースとか好きじゃないですか。でも、酪農の仕事をしてから飲むことが多くなって、気づいたんです。『買って飲むなら、牛乳がいいなぁ』って。健康にもつながって、栄養もありますからね」
朝ごはん、給食、お風呂上がり。いろんなシーンで牛乳は飲まれてきました。そんな当たり前すぎるものだからこそ、ぜんぜん「当たり前」には思えない酪農家さんの日々を垣間見て、すっかり牛乳への思いも新たになった時間でした。
味の素グループでは「捨てたもんじゃない!」を合言葉に、「食資源をおいしく使い切る」ことを推進しています。酪農家さんの想いが詰まった牛乳をおいしく使い切ってもらうためのレシピも、こちらにまとめています。ご活用ください!