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不自由の中にこそ、自由がある。長谷川あかりさんのカレー粉で作る「おうちカレー」

不自由の中にこそ、自由がある。長谷川あかりさんのカレー粉で作る「おうちカレー」

2025/07/31

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「冷蔵庫に残った野菜や食材も、カレー粉を入れた瞬間、“名のある料理”に変わります」

そう語るのは、『水曜日はおうちカレー』(大和書房)の著者でもある料理家・長谷川あかりさん。「10分ぐらいでできるんです」という、サバ缶とトマト、そしてコチュジャンを使った韓国風カレーのレシピを教えていただきながら、長谷川さんの“おうちカレー”に対する想いや、日々の料理との向き合い方についてお話を伺いました。

カレーという枠の中で、“日常のカレー”を自由に楽しむ。長谷川さんのカレー哲学は、毎日の料理をちょっと前向きにしてくれるものでした。

インタビューした人

長谷川あかりさん

料理家・管理栄養士。1996年生まれ、埼玉県出身。10歳から芸能活動を始め、『天才てれびくんMAX』(NHK)などに出演。2018年に結婚を機に芸能界を引退し、大学で管理栄養士の資格を取得。2022年からSNSを中心に、作り手の気分が上がり、身体にも優しいレシピを発信。『つくりたくなる日々レシピ』(扶桑社)、『水曜日はおうちカレー』(大和書房)などの書籍を出版するほか、テレビなどでも活躍。

X(Twitter):@akari_hasegawa  Instagram:@akari_hasegawa0105

  1. “おうちカレー”は、お味噌汁くらい自由
  2. 「サバ缶とトマトの韓国風コチュジャンカレー」をつくってみよう!
  3. 「カレー」という枠組みがあるから、安心して自由になれる
  4. ワクワクやときめきをスパイスに。日々の料理の楽しみ方

01
“おうちカレー”は、お味噌汁くらい自由

──長谷川さんにとってカレーってどんな存在ですか?

長谷川さん:疲れて何を食べたらいいかわからないときでも、スパイスの香りをかぐと、一気にカレー気分になれるんですよね。まるで魔法みたいに。「今日何食べよう?」って迷ったら、カレー粉の香りをかいで元気を出して、「よし、今日はカレーにしよう!」って。気持ちが切り替わるし、不思議と食欲も湧いてきます。

特におうちカレーって、お味噌汁くらい自由だと思っていて。どんな具材でもカレー粉を入れた瞬間に、なんでもカレーになる懐の広さがある。冷蔵庫にある食材たちで謎の煮込み料理をよく作るんですが(笑)、それもカレー粉を入れたら「カレーだよ」と自信を持って言える。一瞬で「名のある料理」に変わるんです。その包容力には本当に助けられています。

毎日のごはんは、日常から遠すぎず、でもせっかく作るならちょっと楽しい料理にしたい。かといって、未知の組み合わせすぎると怖いし、疲れているときは思い切った挑戦もしたくない。そんな時、カレーはうってつけだなと思います。

02
「サバ缶とトマトの韓国風コチュジャンカレー」を
つくってみよう!

──今日つくっていただく「サバ缶とトマトの韓国風コチュジャンカレー」は、どうやって生まれたのですか?

長谷川さん:実は、レシピ提出の締め切りギリギリの状態で生み出したメニューなんです(笑)。サバとトマトの煮込みはよく目にするけど、冷蔵庫を見たらコチュジャンがあって。トマトとコチュジャンで「赤くなってかわいいかも」と、まるで絵の具の感覚で生まれた組み合わせです。

赤色ってそれだけで元気になりますよね。元気になるカレーを作りたいけど、トマト味が強すぎるとよくあるカレーになってしまう。でもコチュジャンを入れたことで、濃い赤色になり、甘みも辛みも加わって新しい味わいになりました。いつもとは違う、ちょっとしたときめく要素がないと私もつくりたくなくなっちゃうので、その発想で生まれました。

材料&調理手順

材料(2人分)
サバの水煮缶
1缶(190g)
トマト(ざく切り)
大2個(400g)
しょうがのすりおろし
1かけ分
にんにくのすりおろし
1かけ分
小さじ1
ひとつまみ
コチュジャン
大さじ1
カレー粉
大さじ1
ごま油(仕上げ用)
小さじ1
  1. 深めのフライパンに油を中火で熱し、ざく切りにしたトマトに塩をふり、形がなくなるまで炒めます。
  1. コチュジャンを加え、さらに1分炒めて軽く煮詰めます。
  1. しょうが、にんにく、サバの水煮缶(汁ごと)、カレー粉を加えます。
  1. よく混ぜ合わせたら、強めの中火で2分ほど煮詰めます。器にごはんをよそってカレーを盛り、仕上げにごま油をかけたら完成!
サバはほぐしすぎず、ごろっとした食感を楽しむのがオススメ。

──このカレーのときめきポイントはどこですか?

長谷川さん:個人的にはやっぱりコチュジャン。カレーにはあまり使わない調味料が入っているのがおもしろいかな、と思います。新しいレシピを作るときは、想像できる部分が8割、想像できない部分が2割くらいの塩梅が好きなんです。味の方向が想像できるようで想像できない絶妙なラインというか、つくってみないと味が分からないドキドキ感がある分、ときめきも満たされる。そんなラインにしているのがポイントです。

03
「カレー」という枠組みがあるから、安心して自由になれる

──長谷川さんのレシピを見ていると、カレーって本当に自由でいいんだなと思えますね。

長谷川さん:そうなんです。みんなカレーという安心感に乗って自由になれる。名前のない料理が家庭料理の本質だと思いながらも、料理名に助けられている自分がいます。カレーという枠組みがあるからこそ、安心して自由にできるんです。

長谷川さんが料理家として知られるきっかけとなったレシピのひとつが、2022年にXに投稿した「出汁カレー」。薬味をたっぷりのせた和風カレーは瞬く間に人気を呼んだが、「名もなき料理ではなく、カレーと名付けたからこそ、こんなに作っていただけたと思います」と長谷川さん。

──自由な中でも、押さえておくといいポイントはありますか?

長谷川さん:具材の組み合わせは、たんぱく質を1種類と野菜が1種類がベース。。野菜に塩を少し振ってから炒めると水分と甘みが引き出せるので、そのあとたんぱく質を合わせて水を注ぎ煮込みます。塩やしょうゆのほか、ナンプラーやオイスターソース、ケチャップなど、塩気のある調味料を入れて、最後にカレー粉を足せば立派なカレーの完成です。

最初に味の方向性を決めておくことも大事。イタリア風カレーとか韓国風カレーとか和風カレーとか。方向性が決まっていると調味料や油を選びやすくなります。「韓国風ならバターではなく、ごま油だよね」というふうに。

──なるほど、わかりやすいですね。どうしても味が決まらないなという時はどうすればいいですか?

長谷川さん:味が平坦で物足りないと感じたら、お酢やレモンなどの酸味をちょっと足すと、味の輪郭がはっきりすることが多いです。塩気はあるけど何か違うな、という時も酸味が助けてくれます。それでも足りなければ、塩昆布や鰹節、ナンプラー、ベーコン、「味の素®」など、うま味のある調味料を少し加えると味に深みが出ます。

ミニトマトや梅を入れて香りやうま味を足すのもオススメです。焦って醤油を足すと味が濃くなりすぎるので気をつけてくださいね。にんにくやしょうがも味に奥行きを出してくれる、いいアクセントになりますよ。

04
ワクワクやときめきをスパイスに。日々の料理の楽しみ方

──最近はスパイスを調合して作るカレーのレシピも多いですが、カレー粉を使えばいいという気軽さも嬉しいですね。

長谷川さん:スパイスを調合してテンパリングで香りを出すスパイスカレーも素敵ですが、日々の暮らしの中で作るおうちカレーは、食材を煮込んで最後にカレー粉を足すくらいの気軽さがいいんじゃないかなと思っています。お子さんのいる家庭でも、味を調整しやすいですし。

料理には「生活としての料理」と「趣味の料理」があると思うんです。私も昔は「料理が好き」と言っていましたが、それは「好きなときに好きなものを作っている」状態。いわゆる「趣味の料理」を楽しんでいたからこそ言えることであって、生活を営むために「作らなきゃいけない」となると話は違うなと感じています。

──料理って楽しさと義務の境界があいまいですよね。自炊へのモチベーションを保つ秘訣はありますか?

長谷川さん:今の時代は、外食もできるし、デリバリーも豊富だし、自炊しなくても選択肢はいろいろあります。でも、人間はやらなくていいことをやるのが一番楽しい。やってもやらなくてもいいけど、自分で作った料理はやっぱりおいしいし楽しい。
ワクワク感やときめきをうまく取り入れながら、自分をごまかして「作らされてる感」をいかに減らせるか。そんな時に、自分の「食べたい」というツボを刺激してくれる料理を作ることで、日々の料理もちょっと楽しくなるんじゃないかな、と思いながら、レシピを考えています。

今はレシピも本や雑誌、SNSで見ることができる一方で、選択肢が多すぎて迷って疲れてしまうことも。だから「選ばなくていい状態を自分で作る」ことが必要なときもある気がします。そのひとつとして「水曜日はカレー」と曜日で決めてしまうのもいいと思うんです。選ばないことが、逆に自由を生むと考えています。

  • 執筆/高野 瞳 撮影/川島 彩水 編集/花沢 亜衣
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