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はがれない、パサつかない!「ピーマンの肉詰め」の困りごとを調理科学で解決

はがれない、パサつかない!「ピーマンの肉詰め」の困りごとを調理科学で解決

2025/04/03

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「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」…など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?

連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。

第3回は「ピーマンの肉詰め」です。前回の「ハンバーグ」づくりで学んだ科学的なコツを活かしながら、ジューシーなお肉とピーマンの風味の一体感を楽しめる、失敗知らずのつくり方をご紹介します。

今回もコツを解説してくれるのは、味の素社の研究者である川﨑さんです。

インタビューした人

味の素社 研究者

川﨑 寛也さん

博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。

  1. おさらい:肉汁たっぷり、ふんわりハンバーグの科学
  2. ポイント1:ヘタは残して器をつくる
  3. ポイント2:玉ねぎは生でもOK!
  4. ポイント3:塩は1%、練りは1分、そして分散
  5. ポイント4:小麦粉をシャカシャカ、お肉はギッシリ
  6. ポイント5:焼くのは肉だね側から

01
おさらい:肉汁たっぷり、ふんわりハンバーグの科学

はじめに、前回のパサつかない「ハンバーグ」づくりで学んだひき肉の塩練りと3つの大事な副材料についておさらいしましょう!

肉をジューシーに仕上げるためには「塩」が欠かせません。ひき肉に塩を加えて練ることで、肉のタンパク質が溶けて、肉の保水力が高まり、肉汁を中に閉じ込めることができるのです!

保水力を最大限に上げるためには、肉の量に対して1%〜1%強の塩、そして1分以上練ることがポイントです。

そして、ふんわり食感をつくる決め手となるのが「3つの副材料」です。「卵」はなめらかな食感、「牛乳に浸したパン粉」はやわらかさとパサつきの防止、「炒め玉ねぎ」は肉の臭み消しと味わいに甘みを足す、という役割があります。

副材料の配合はご自身やご家族の好みの食感に合わせてアレンジしてもOK!変更する際は、レシピの分量をもとに2倍量や½倍量など、わかりやすい倍数で調整するのがオススメ、とのことです。

より詳しい説明は、先日公開した【調理科学で解決!パサつかないハンバーグをつくる5つのコツ】をご覧ください。

では、早速ピーマンの肉詰めをつくっていきましょう。ピーマンの下ごしらえ、副材料の下ごしらえ、肉だねの下ごしらえ、つめ方、焼き方の5つのステップに分けて、川﨑さんに調理科学の視点からコツを教えていただきます!

02
ポイント1:ヘタは残して器をつくる

川﨑さん「ピーマンはへこんでいる部分に包丁をあてて縦に切り、2等分します。この切り方だと、中の仕切りが断面にくるため、取り除くのが簡単になります。種だけでなく仕切りも取るのは、ピーマンと肉を密着しやすくして、肉がはがれないようにするためです」

種を取るときは、種とヘタの間に切り込みを入れると手で取り除きやすい
ワタを取るときは、包丁の刃先を皮とワタの境目に入れ、そぎおとす

川﨑さん「種とワタは取り除きますが、ヘタは残しておきます。ヘタがあることでピーマンが器のようになり、肉や肉汁が漏れ出るのを防ぎます」

03
ポイント2:玉ねぎは生でもOK!

副材料の下ごしらえは、ハンバーグとほとんど同じです。ポイントとなるところを簡単におさらいしながらつくります。

まず、副材料の下ごしらえです。パン粉を牛乳でしめらせます。

パン粉は、パサつきや肉汁の流れを防いでくれます。パン粉だけだと肉汁を吸いすぎてしまうので、牛乳に浸し、適度な水分を含んだ状態にします。牛乳がなければ水でも代用可能です。

次に、玉ねぎをみじん切りにします。

玉ねぎは、だいたい5mmくらいに切りましょう。細かく刻むことで肉が割れてしまうのを防ぎます。

ここでハンバーグとはちょっとした違いが!ハンバーグには「炒め玉ねぎ」を使いましたが、今回は「生のまま」です。

川﨑さん「ピーマンの青々しい香りが肉の臭みを和らげてくれるため、生の玉ねぎでも大丈夫なんです。一方、ハンバーグは、肉の味がストレートにきますよね。そのため、玉ねぎを炒めて、できる限り甘さを引き出してから使っています。もちろん炒めた玉ねぎを入れても問題ありません」

04
ポイント3:塩は1%、練りは1分、そして分散

肉の量に対して塩を1〜1%強なのにも理由が。すべての動物の筋肉細胞は、0.9%が塩でできている。体にふくまれる塩分よりも少し濃い濃度にすることのよって、肉が塩を吸収しやすくなるそう

肉だねづくりでは、ひき肉には1%強の塩を加えて、練っていきます。このとき副材料は入れず、まずは肉と塩のみで1分以上練ります。肉の中に塩をできるかぎり含ませ、タンパク質を溶かすことが、保水力を高めて肉汁を閉じ込める秘訣です。

練る際は、力を入れて肉の粒を「にぎりつぶす」ようにします。肉の粒同士がまとまり、糸を引いているような跡が見え、弾力と粘り気が出てくるまで練り、副材料を加えます。

先ほど切った生玉ねぎのみじん切りと、溶き卵、牛乳で湿らせたパン粉を加えていきます。

ちなみに、ボウルの底に菜箸の先端をつけたままかき混ぜると、泡が立たず、なめらかになります。

卵を加えたらよく混ぜ、肉を「分散」させます。これにより、密着した肉と肉の間に副材料が入って隙間ができ、ふんわりとした食感が生まれます。

04
ポイント4:小麦粉をシャカシャカ、お肉はギッシリ

できた肉だねをピーマンにつめる前に、ピーマンにひと工夫加えます。

川﨑さん「ピーマンに小麦粉または片栗粉をまぶします。ピーマンから肉だねが剥がれるのを防ぐ“接着材”のような役割があります。どちらを使っても構いません。
小麦粉や片栗粉に含まれているデンプンは、水分を一緒に加熱すると糊化(こか)という反応が起こり、のり状になります。以前に記事化した水溶き片栗粉の回でも出てきましたよね。小麦粉や片栗粉をまぶす際は、ビニール袋にピーマンと一緒に入れ、空気を少し入れてから上下左右に振ると簡単です」

“のり”の役割をする小麦粉は、基本的には内側だけについていれば構いませんが、この方法なら手が汚れず、素早く、均一にまぶすことができるのでオススメだそうです。

それでは、肉だねをピーマンにつめていきます。

川﨑さん「焼いたときに肉がはがれないように、すき間なくつめていきます。特に端っこは空洞ができやすいので、丁寧に押し込みます。刃のついていないテーブルナイフを使うと、肉だねがすくいやすく、詰めやすいですよ。慣れるまで難しいかもしれませんが、ぜひ試してみてください」

ピーマンに肉だねがすき間なく、ぎっしりと詰まっている

05
ポイント5:焼くのは肉だね側から

ハンバーグの場合は、形崩れを防ぐため、肉だねをすぐに焼かずに一度「冷やすこと」がポイント。一方で、ピーマンの肉詰めはピーマンが形を保ってくれるので、冷やさずにすぐ焼き始めてOKです

まずは、肉側を下にして中火で2分焼きます。裏返し、さらに1分加熱します。

川﨑さん「肉の面から焼くのは、表面をカチッと焼き固め、はがれにくく、肉汁をしっかりキープするためです。ピーマン側から先に焼くと、肉だけがゆっくり縮んでいきます。すると、肉がピーマンからはがれやすくなり、ひっくり返したときに肉汁も流れてしまいます」

「焼くとピーマンがしなしなになってしまう」というお悩みも聞きますが、これは加熱時間や温度が高いことが一因だそう。適切な火加減で、加熱しすぎないように調理することがポイントになります。

肉だねが余った場合は、ミニハンバーグにしちゃいましょう

両面に火を入れたら、弱火に落として、水大さじ1を入れてフタをし、5分ほど蒸し焼きにします。その後、火を切って、コンロの上でそのまま2分置きます。

川﨑さん「ハンバーグと同じく、食中毒を防ぐため、中心温度を70度まであげます。蒸し焼きするだけでなく、フタをして置く時間をつくることで、中心部までしっかりと熱を通します」

冷凍保存する際は、焼いた後に粗熱をとり、一つずつラップで包んで、冷凍用保存袋に入れてから冷凍庫に。食べるときは、冷蔵庫内に入れ、自然解凍したあと、電子レンジやフライパンで再度加熱する

フタを開け、竹串をさして火の通りをチェックします。透明の汁が出てきたら、OK!にごっている汁が出てきたら生焼けの証拠。フタをして、もう一度弱火で蒸し焼きにしましょう。

完成です!

熱々のうちに、編集部が試食してみると…口に入れたとたん、じゅわっとした肉汁に、ピーマンから淡い苦味のあるうま味を感じます。思わず「白ご飯をください!」と川﨑さんにお願いしたくなるほど、食欲をそそられました。

実験的に、ピーマン側から焼いたものもつくって食べてみたのですが、流れ落ちてしまったのか、肉汁がほとんど出てこず。フライパンからお皿に移すときにピーマンもはがれやすくなっていました。やはり、「肉側から焼く」は鉄則ですね!

今回は、ハンバーグに続いて家庭料理の定番メニュー「ピーマンの肉詰め」を調理科学の視点からご紹介しました。いつも何気なく行っている一つひとつの工程に、実は大事な意味が隠れています。これまで「つくるのが難しい…」と思っていた方も、ぜひこの記事を参考に再チャレンジしてみてください。新しい発見があり、料理がもっと楽しくなるかもしれません。

ピーマンの肉詰め

材料&調理手順

材料(2人分)
ピーマン
4~6個
合いびき肉
200g
2.5g(ひき肉の重量の1%強)
玉ねぎのみじん切り
50g(約1/4個分)
乾燥パン粉
5g(約小さじ5)
牛乳
25g
溶き卵
25g(約1/2個分)
小麦粉
適量
「AJINOMOTO サラダ油」
大さじ1
  1. ピーマンを縦半分に切る。ヘタは残しておき、種とワタを除く。
  2. 小さめのボウルにパン粉を入れて牛乳を加え、湿らせる。
  3. 別のボウルにひき肉、塩を入れて粘りが出るまで1分以上よく練る。
  4. 玉ねぎのみじん切り、(2)、溶き卵を加えてさらにこねる。
  5. ビニール袋に(1)と小麦粉を入れ、袋ごと振ってピーマンに小麦粉をまぶす。
  6. 袋からピーマンを取り出し、(4)をすき間なく等分に詰める。余ったタネは小さいハンバーグにする。
  7. フライパンに油を熱し、(6)の肉側を下にして入れ、中火で2分焼く。しっかり焼き色がついたら裏返し、さらに1分焼く。弱火にして水大さじ1(分量外)を入れてフタをし、さらに5分ほど蒸し焼きにする。
  8. 火を切り、コンロの上でそのまま2分置く。
  9. フタを取り、ハンバーグの中心に竹串を刺し、透き通った肉汁が出てきたらできあがり。
  • 執筆/佐々木 まゆ 撮影/佐々木 孝憲 編集/長谷川 賢人
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