秋から冬にかけての寒い季節は、食事で体を温めることも健康には大切です。
そこで、味の素社の研究員で、漢方専門家の曹(そう)さんに、漢方医学(東洋医学)による「食事を通じて体を整える」という「食養生」の考え方や、寒い季節に積極的にとりたい食材についてくわしく聞きました。
また、普段は研究者として食材の中の栄養素を最大限に活かすメニューを提案している、曹さんオススメレシピもあわせてお届けします!
インタビューした人
食品事業本部 食品研究所 健康価値開発センター 健康栄養情報開発グループ(医学博士)
曹 利麗さん
- 体の根本から治すための「漢方医学」
- 「食養生」の視点から考える、体を温めるということ
- 腎陽を温補&腎陰の滋養が大切
- 大事なのは食材だけじゃない!調理法にも工夫を
- 曹さんのオススメ「体を温める」レシピはコチラ!
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体の根本から治すための「漢方医学」
中国の大学で5年間、漢方医学を専門的に勉強された曹さん。漢方医学のベースとなる考え方に慣れることから始まり、先人が長い年月をかけて培ってきた知識を身につけたといいます。
そんな曹さんに、漢方医学の特徴をたずねると「漢方医学では体の不具合の“病因”を分析した上で、頭から足まで、全身を総合的に治していくことが重要とされます。西洋医学では頭痛が起きたら頭の部位にアプローチしますよね。そこが大きく異なるポイントです」。
漢方医学の考えのひとつに「養生」があります。その中でも食に焦点を当てたのが「食養生」です。漢方医学でいう「薬食同源」、日本では「医食同源」とも呼ばれますが、自分の体調に合わせた食材をとることで体の調子を整えられる、という考え方だそうです。
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「食養生」の視点から考える、体を温めるということ
食べ物によって体調を整える「食養生」の考え方について、「季節ごとの外的要因によって刺激を受けやすい臓器を、食材と調理法を選ぶことで補ってあげるというのが基本的なコンセプトとなります」と曹さん。
これからの寒くなる季節、最も気をつけたいのが、元気の源といわれている「腎(じん)」です。
「腎」と聞くと、「腎臓」が頭に浮かびますが……実は、漢方医学の「腎」は腎臓そのものという意味ではありません。成長、発育、生殖などに関わる泌尿器や生殖器、免疫系、中枢神経といった機能を広く指しています。ひいては、生まれながらにしてもっている生命力にもつながります。
ストレスや生活習慣の乱れ、過労などによって、腎の機能が低下したり不足したりした状態は「腎虚(じんきょ)」と呼ばれ、さまざまな不調が表れるのだそう。「たとえば、水分の代謝が悪くなって、足のむくみにつながりますし、冷え性、頭痛、足腰のだるさ、不眠といった症状も出やすくなります」と曹さん。
では、寒くなってくる季節に「腎」を良い状態に保つにはどのように過ごすとよいのでしょうか?
「冬はエネルギーを貯蓄する時期。次の春に向けて、体内の活気を放出できるよう準備をします。外部からの寒さの刺激をできるだけ少なくするために、体全体を温めて、末端まで行き渡るようにしてください。そのために必要なのは漢方医学でいう『温補(おんぽ)』です。温補をすることで、腎にエネルギーを補充して、腎虚に傾いた体を労ることができるのです」
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腎陽を温補&腎陰の滋養が大切
「腎」のエネルギーといわれる「腎気」は、体を温める力の元になる「腎陽(じんよう)」と体を潤わせて栄養を与える「腎陰(じんいん)」の2つに分けられます。
「腎陽を温補するためには『五性(ごせい)』を知りましょう」と曹さん。五性とは、それぞれの食材には体を冷やしたり、温めたりする働きがあるという考えです。
食材には、寒(かん)、涼(りょう)、平(へい)、温(おん)、熱(ねつ)という5つの性質があります。
体を温めるには「温」もしくは「熱」のカテゴリーに属する食材を選ぶことが大事。曹さんは「にらは特にオススメしたい食材です。腎陽を補う作用があり、体を温めてくれます。ほかには長ねぎや玉ねぎ、根菜類もよいですね」と言います。
先ほど「腎気」は腎陽と腎陰の2つに分かれると言いましたが、腎陽の温補だけではなく、腎陰のエネルギー補給も忘れてはなりません。
そこで、腎陰を労るために必要なのは、私たちがよく耳にする各種の栄養素です。特に鉄分、ビタミンC、ビタミンB群は寒い季節の腎陰には欠かせないので摂ることを心がけましょう。
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大事なのは食材だけじゃない!調理法にも工夫を
とはいえ、「寒」や「涼」の食材を全く食べないとなると、料理もつくりにくいですよね……。
ご心配なく!「寒や涼の材料を少なめにして、温の食材と一緒に食べることでカバーできますよ」と曹さん。
選ぶ食材とあわせて工夫したいのが調理法です。
「温か熱の性質を持っている食材を、炒める、煮る、蒸すといったように加熱して召し上がっていただくと生で食べるよりも効果があります。例えば、 トマトであれば、そのままサラダにして食べることもできますが、ソースにする、スープにするという手もありますね」
無理のない範囲で、できることから少しずつ始めましょう!
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曹さんのオススメ「体を温める」レシピはコチラ!
積極的に食べたい食材と、体を温めるための料理法。それらを掛けあわせたオススメレシピを、曹さんが教えてくれました。
まずは、曹さんご自身がよく作る「豚肉とにらの玉子炒め」から。
「我が家では豚肉の代わりにえびを使うこともあります。息子にはたんぱく質をしっかり摂ってもらいたいので、卵もピッタリです。調味料は『味の素KK中華あじ』だけでなく、『ほんだし®』でアレンジしてもいいですね。にら、にんじんは腎陽を温補します。豚肉、卵は腎陰を滋養します」
次に紹介するのは「しょうが鍋」。
「しょうがを使った料理でポピュラーなのはしょうが焼きですが、鍋も活用するとよいと思います。このしょうが鍋は辛すぎず、子どもでも食べられる味つけでオススメです。しょうが、にんじん、白菜は腎陽を温補します。豚肉、大根、しめじ、豆腐は腎陰を滋養してくれます」
最後は、同じくしょうがを使ったメニュー「山盛りキャベツの絶品豚汁<塩分控えめ>」です。
「体が温まるだけでなく、欲しい栄養素もしっかりとれる満足の一杯です。しょうが、にんじん、長ねぎは腎陽を温補します。豚肉、キャベツは腎陰を滋養します」
山盛りキャベツの絶品豚汁<塩分控えめ>
炒めることで際立つキャベツの香ばしさがたまらない☆しょうがとごま油の風味を効かせ、かつお節をたっぷり使って塩分カットしている「お塩控えめの・ほんだし」を活かせば、減塩でもおいしく満足感のある一杯に!
漢方医学に基づく「食養生」の考えを取り入れ、これから迎える寒い季節に備えて、ご家族や自分のカラダを労わってみてはいかがでしょうか?
寒い時期の「体を温める」オススメレシピ、ぜひ試してみませんか?