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調理科学で解決!パサつかないハンバーグをつくる5つのコツ

調理科学で解決!パサつかないハンバーグをつくる5つのコツ

2025/03/13

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「水気を切る」「浅めのフライパンで」「しょうゆを回しいれる」「ほどよく煮込む」…など、レシピには当たり前のように書かれている言葉の数々。でも、実際にどうすればいいの?

連載シリーズ「レシピのスキマ」では、そんなレシピからこぼれ落ちてしまう「大切なコツ」を調理科学で解き明かしていきます。

【第1回「レシピのスキマ」はこちら】調理科学で解決!「水溶き片栗粉」で失敗しないための5つのポイント

第2回は、家庭料理でも定番の「ハンバーグ」です。お馴染みのメニューではありますが、「パサつく」「かたい」「くずれる」と失敗も多いこの料理。味の素社の研究者である川﨑さんに調理科学の視点から、ハンバーグづくりのコツを解説していただきました。

インタビューした人

味の素社 研究者

川﨑 寛也さん

博士(農学)、味の素(株)Executive Specialist、NPO法人日本料理アカデミー理事 調理科学者、感覚科学者。生家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(北海道・根室で創業。現在は廃業)。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。専門は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明など。主な著書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』(以上、柴田書店)、『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(NPO法人日本料理アカデミー)ほか。研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。

  1. 「塩」で解き明かす!肉汁たっぷりハンバーグのメカニズム
  2. ふんわりハンバーグの秘密は「3つの材料」にあり
  3. ポイント1:パン粉には水分を含ませ、玉ねぎは潰すようにみじん切りに
  4. ポイント2:「1」を合言葉にしっかりとひき肉を練る
  5. ポイント3:表面をきれいに整える
  6. ポイント4:動かさず、焼き固める
  7. ポイント5:しっかり中に火を通すために「蒸らす」

01
「塩」で解き明かす!肉汁たっぷりハンバーグのメカニズム

そもそも“理想のハンバーグ”とは、どういう仕上がりなのでしょうか。

川﨑さん「好みもあるので一概には言えませんが、外はこんがり香ばしく焼けていて、中はふんわりとやわらかでジューシー。カットすると肉汁がじわりとあふれ出す、というのが理想形の一つですね。肉汁は、ただの水分ではありません。熱を加えると、筋線維(筋肉を構成している細胞)に存在しているうま味成分を含んだ水分が外に出てきます。それが溶け出した脂肪が混ざり合って肉汁となり、ハンバーグのうま味のもとになるのです」

箸を入れた瞬間にあふれだす肉汁は、ハンバーグの醍醐味。しかし、肉汁が逃げ出してしまった……なんてこともありますよね。おいしい肉汁を逃さないためには、どうしたらよいのでしょうか。

川﨑さん「大事なのは、塩練りです。肉だねをつくる際に、肉の重さに対して1%の量の塩をひき肉と混ぜ合わせ、1分以上はこねてください。肉汁が逃げてしまうのは、筋線維の性質によるもの。筋線維に含まれるタンパク質が加熱によって縮み、中の水分を押し出してしまうのです。その結果、肉汁が流れ出し、パサパサな食感になります。ところが、塩を入れるだけで、それを防げるんです」

塩の効果をたしかめるために、シンプルにひき肉と塩のみをこねた肉だねを焼いて比べてみます。高さは2cmに統一しました。

焼く前。左側が塩あり、右側が塩なし
焼いた後。左側が塩あり、右側が塩なし

塩以外の工程はどちらも同じなのに、右側の塩なしの方が中心部が少し膨らんでいます。一見、こちらの方がおいしそうに見えますが、実は肉汁が出てしまっている証拠なのだそう。

川﨑さん「膨らみの正体は、肉の『収縮』なんです。肉は火が入ると、筋線維が収縮していきます。ハンバーグは焼ける過程で外側から縮まっていき、加熱の進んでいない中心部はやわらかいまま。この外側と中心部の収縮力の差で、中心部が押し上げられ、肉汁が流れ出てしまうんです。

これを防ぐのが、塩の力です。塩を加えると、筋線維の中のタンパク質(塩溶性タンパク質)が溶け出してゲル状になり、網目のような構造をつくります。網目ができたことで保水性が高まり、肉汁を中に閉じ込めてくれるんです」

焼き上がったハンバーグを割り、軽く押してみると、塩あり(写真左)の方からは肉汁がじわじわっとあふれて、バットに流れ落ちました。一方、塩なし(写真右)の方はうっすら肉汁が見えるくらいで、したたるほどではありません。

食べ比べてみても、塩ありの方はしっとりとした食感で、パサつきがなくジューシー!「ひき肉に塩を加え、粘りが出るまでよく混ぜる」という表現をレシピで見かけますが、そういうことだったのか!と、塩練りの効果を実感しました。

02
ふんわりハンバーグの秘密は「3つの材料」にあり

ハンバーグづくりで意外と手間がかかるのが、材料をそろえること。卵、パン粉、玉ねぎなどそろえる材料が多いですよね。

川﨑さん、これらの副材料は本当に必要なものなのでしょうか?

川﨑さん「はい、入れたほうが失敗しにくいと思います。というのも、ふんわりなめらかなハンバーグをつくるには、卵、牛乳に浸したパン粉、玉ねぎが実は大きなカギを握っています。これらの副材料には、それぞれハンバーグをおいしくする役割があるんです」

そこで、再び実験してみました。すべての副材料を入れた基本のハンバーグから、卵、パン粉、玉ねぎをそれぞれ抜いてつくってみます。でき上がりを比べてみると、以下のような結果になりました。

川﨑さん「卵は肉同士をつなぎあわせ、なめらかな食感を生み出す役割です。パン粉は肉と肉の間に入りこみ、隙間をつくってくれるので、ふんわりとしたやわらかさを保ち、パサつきも防いでくれます。玉ねぎは肉のくさみを抑えながら、全体に甘みを加えます」

記事の最後でハンバーグのレシピを紹介していますが、あくまでも基本となるもので「お好みに変えてもちろんOKです」と川﨑さん。ただ、配合を変更する際は、2倍量、2分の1量など、わかりやすく増減すると違いが分かりやすいのでオススメとのことです。

では、いよいよ調理のポイントを教わっていきましょう。下ごしらえ、塩練り、成形、焼き、仕上げの5段階に分けて解説します。

03
ポイント1:パン粉には水分を含ませ、玉ねぎは潰すようにみじん切りに

下ごしらえの最初は牛乳でパン粉をしめらせておくことから。パン粉だけを加えると、肉汁を吸いすぎてパサつきの原因に。牛乳で適度な水分を含んだ状態にしておきます。牛乳を使うのはコクを出すためなので、水でも代用できますよ。

玉ねぎは粗みじん切りではなく、細かいみじん切りに

川﨑さん「玉ねぎはだいたい5mm角くらいに切るのがポイント。思っているよりも細かくすることで、細胞が壊れ、酵素によって辛み成分が生成されます。この辛み成分は加熱をすることで成分が変化し、甘い香り成分になるんです。」

火加減を調節するために、炒めている音をよく聞くといいそう。フライパンから音が聞こえないのは水分が蒸発していない証拠。その場合は少し火を強める

川﨑さん「炒めるときは、弱火でじっくりと 水分をしみ出させ、蒸すように炒めていきます。ここでの目的は焼き色をつけることではなく、野菜の甘みを引き出すことです」

ある程度炒めると、玉ねぎの表面で「メイラード反応」が起こりはじめます。これは糖とアミノ酸が反応して、香りや味わいを生み出す化学反応のこと。この反応は連鎖的に進むので、一度始まると一気に焦げやすくなります。とくにフライパンの手前側は、焦げるのを見逃しがち。全体を大きくかき混ぜながら丁寧に炒めることが大切です。

メイラード反応については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

玉ねぎを炒めずに、生で加える場合は、シャキシャキとした食感と辛味が残ります。電子レンジで玉ねぎを加熱するレシピもありますが、メイラード反応が進まないため、生玉ねぎに近い仕上がりになるそう
炒めた玉ねぎは、常温になるまで冷ましてから冷蔵庫に入れて冷やして使います。高温のままひき肉と混ぜると、肉の温度が上がり、脂肪が溶け出してしまうからです

04
ポイント2:「1」を合言葉にしっかりとひき肉を練る

玉ねぎが冷めてきたら、先ほどの実験と同じように、塩を加えて練っていきます。

川﨑さん「加える塩は肉の量に対して1〜1%強です。すべての動物の筋線維は、0.9%の塩が含まれていいます。体にふくまれる塩分より少し濃い濃度にすることで、肉から水分が引き出された後、肉の中に塩が入りやすくなり、タンパク質も溶けやすくなります。十分な効果を出すためにも、まずは肉と塩だけをしっかり練ってください」

ひき肉は、牛肉と豚肉を1対1で使うのがオススメ。この配合だと風味と脂肪分のバランスがよいハンバーグに仕上がる。好みに応じて、牛肉を多めにすれば肉のうま味が強く、豚肉を多めにすればあっさりとした味わいになる

川﨑さん「多くのレシピに『よく練る』と書かれていますが、実は肉の粒を『にぎりつぶす』ように混ぜると言った方が近いです。この作業を1分以上かけて行います。体感的にはかなり長く感じるので大変な工程ですが、肉汁を閉じ込めるためには外せないポイント。肉の粒同士がまとまり、筋線維が糸を引いているような跡がボウルに残るくらいを目指し、弾力と粘り気が出るまで続けます」

塩練りが終わったら、溶き卵・牛乳で湿らせたパン粉・粗熱を取った玉ねぎのみじん切りを加え、さらに混ぜます。

卵は泡立たないように、ボウルの底に菜箸をつけながらかきまぜると泡が出にくい

川﨑さん「ここでの目的は肉を『分散させること』です。副材料を混ぜることで、塩練りによって結着した肉同士に適度な隙間が生まれ、ふんわりした食感に仕上がります」

川﨑さん「混ぜる際は手の指を広げ、力強く円を描くように動かします。よく混ざると色が白くなってきます。これは材料が均一に混ざり合って『乳化』し、分散している状態です。ここでしっかり混ぜないと、ハンバーグが割れる原因になります」

副材料を混ぜる前。右:副材料を混ぜた後。右は肉の赤みが薄れ白っぽい

05
ポイント3:表面をきれいに整える

次は成形です。

肉だねがつかないように手に分量外の油を塗ってから、人数分に等分にします。その後、空気を抜きながら小判形に丸めていきます。

空気抜きの方法として、川﨑さんのように両手を使って、交互にたねを受け渡しながら行う方法が一般的ですが、実はこれにはコツがあり、意外とテクニックがいるそう。そのためバットやボウルなどに向かって、勢いよくたねを叩きつけて、空気抜きする方法もオススメなのだとか

空気抜きを終えたら、もう一度手に油をうすくつけ、表面をやさしくなでてなめらかに整えます。

川﨑さん「ひび割れがあれば、ひとつずつ丁寧にとじていきましょう。ハンバーグの割れの原因は大きく3つ。『肉だねのこね不足』『成形時の空気の混入』『成形後の表面の割れ』です」

川﨑さん「肉だねの厚さは2cmが適切です。厚みのある焼き上がりを期待して厚くしがちですが、それだと火が通りにくくなります。『思ったより平べったいな』と感じても、焼けば肉の収縮力で厚みが出てきますよ」

成形後もポイントが。川﨑さんは、すぐに焼かずに、一度「冷やすこと」をオススメするといいます。

川﨑さん「練ったり、形を整えたりする作業で肉の温度が上がり、形がくずれやすくなります。時間に余裕があれば冷蔵庫で冷やしておくと、きれいな形を保てます。もし大量に調理する場合や焼くまでに時間があく場合も、衛生上、必ず冷やしましょう」

06
ポイント4:動かさず、焼き固める

焼きはじめは特にくずれやすいので、動かさない

肉だねは、まず片面を中火で2分程度焼きます。焼き色がしっかりついたら裏返して、さらに1分加熱します。

くずれずに裏返すコツは、フライ返しでフライパンのヘリまでハンバーグを移動させ、カーブを使って返すこと

川﨑さん「焼き色がつくくらい、両面をしっかり焼き固めます。こうすることで肉汁が流れ出てしまうのを防ぎます」

07
ポイント5:しっかり中に火を通すために「蒸らす」

焼き色が両面についたら、弱火にして水大さじ1を入れてフタをし、5分ほど蒸し焼きにします。その後、火を止め、フタを取らずにコンロの上で2分待ちます。

成形時に中央を軽くへこませるレシピもあるが、あの工程は焼いたときの膨らみを防ぎ、均一に火を通すため。今回は塩練りや厚さの工夫があるため省いている

川﨑さん「食中毒を防ぐため、ハンバーグは中心温度を70度まで上げることが大事です。そのため、蒸し焼きに加えて、フタをしたまま少し時間をおきます。こうすることで熱伝導(温度が高い方から低い方へと熱が移動する現象)が起こり、中心部まで確実に熱が通ります」

中の様子が気になるのをぐっとこらえて、2分経つまではフタはそのまま。開けてしまうと、中の温度が下がってしまいます。

2分が経ちました。フタを開けてみましょう!

冷凍保存する場合は焼いた後、冷ましてから1個ずつラップで包み、急速冷凍するためアルミトレイに並べて冷凍庫へ

香ばしい香りとともにふっくらとしたハンバーグが!

川﨑さん「火の通りを確認するため、竹串を刺します。このとき、透明の汁が出てきたらOKです。逆に、にごっている汁が出てきた場合は、変性していないたんぱく質が汁に混ざっているので生焼け状態です。フタをしてもう一度弱火で蒸し焼きにしましょう」

しっかり火が通っていることを確認できたら完成です!今回は、ハンバーグに合う簡単ソースの作り方とそのコツについても教えていただきました。

ハンバーグを焼いた後のフライパン。油が残っているが、この油は拭き取る

川﨑さん「フライパンに残った油はくさみの原因にもなるため拭き取りますが、茶色い部分はメイラード反応によって生まれたうま味ですから残します」

赤ワインを入れて中火で加熱し、半量程度になるまで煮詰めます。そこへトマトケチャップ、中濃ソース、ウスターソースを加えて仕上げます。

川﨑さん「水分を飛ばすことで、うま味が凝縮し、とろみのある仕上がりになります。煮詰めすぎると焦げてしまうので注意してくださいね」

定番のハンバーグのレシピにはシンプルな材料や作り方が並びます。その工程それぞれに、科学的な根拠がたくさん隠れていました。

「塩を加えて練る」「卵や炒め玉ねぎを入れる」など、工程ごとの意味を理解できれば、アレンジもしやすくなりますね!

次回は、ハンバーグの理論を踏まえてつくる「ピーマンの肉詰め」レシピの“スキマ”をご紹介します。お楽しみに!

ハンバーグ

材料&調理手順

材料(2人分)
合いびき肉
200g
2g(肉の重量の1%)
粗びき黒こしょう
少々
玉ねぎ
100g(1/2個分)
パン粉
10g
牛乳(水でもよい)
50g
溶き卵
25g(1/2個分)
サラダ油
大さじ1
  1. 小さめのボウルにパン粉を入れ、牛乳を加えておく。玉ねぎを細かくみじん切りにする。
  2. フライパンに油を弱火で熱し、(1)の玉ねぎを薄く色づくまで炒める。全体的に色づいたらバットなどに取り出し、冷ます(粗熱が取れたら冷蔵庫で冷ましてもよい)。
  3. ボウルにひき肉、塩を入れ、粘りが出るまで1分以上よく練る。溶き卵、(1)のパン粉、(2)の冷ました玉ねぎ、粗びき黒こしょうを加え、ムラがなくなってとろっとするまで混ぜ合わせ、2等分にする。
  4. 手に油少々(分量外)をつけて、空気を抜きながら丸めて小判形に整える。さらに手に油(分量外)をつけて表面をやさしくなでてなめらかにする。残りも同様にする。(成型したら冷蔵庫に入れて10分程度休ませるとくずれにくくなるのでオススメ)
  5. フライパンに油を中火で熱し、(4)を2分程度焼く。しっかり焼き色がついたら裏返し、さらに1分焼く。弱火にして水大さじ1を入れてフタをし、5分ほど蒸し焼きにする。
  6. 火を切り、コンロの上でそのまま2分置く。
  7. フタを取り、ハンバーグの中心に竹串を刺し、透き通った肉汁が出てきたら完成。

ハンバーグソース

材料&調理手順

材料(2人分)
赤ワイン
100cc
A:トマトケチャップ
大さじ4
A:中濃ソース
大さじ2
A:ウスターソース
小さじ2
  1. ハンバーグを皿に取り出した後、フライパンに残った油だけを軽く取り除く。
  2. 赤ワインを入れて中火で加熱し、半量になるくらいまで煮詰める。
  3. Aを加えて混ぜながら加熱し、沸騰させる。とろみがついたら完成。
  • 執筆/佐々木 まゆ 撮影/佐々木 孝憲 編集/長谷川 賢人
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