大分県の中津市という地域は、ある課題を抱えていました。それは、耕作放棄地や放置された竹林が荒廃してしまうというもの。
竹は繁殖力が強いため、手入れをせずに放置してしまうと、あっという間に竹林となってしまうのです。竹林の拡大は山を荒らします。しかし、中津市では過疎化の影響もあり、地元の人間だけで整備を続けるのには限界がありました。
そんな中津市の実情を知った味の素社のZ世代事業創造グループは、「学生と一緒にタケノコを掘り、加工・販売までつなげることで、世の中の人たちとおいしく消費できるサイクルを作る」ことを提案し、1つのプロジェクトを立ち上げました。
それが、大分県中津市と協力して実施する「MIRAINOMOTO」プロジェクト。2022年に試験的に実施した第1回の成功を受け、2023年は規模を拡大し、なんと5週間にわたって行われることになりました!
今回、味の素パーク編集部も、このプロジェクトに同行することに! 当日は大分大学、立命館アジア太平洋大学、九州大学の学生が参加し、タケノコ掘りからタケノコの調理、加工までを体験。その後、学生たちはタケノコの販売までを行うことになります。
この記事では、プロジェクトを主催したメンバーや参加した学生の声とともに、プロジェクトの様子をお伝えします!
- 隠れフードロス・未収穫のタケノコを活用して地域課題に応えたい
- 来てくれた人をもてなすのは「ウェルカム」の精神から
- タケノコ掘りは楽しく学びにもつながった
- 小さな接点から中津との関係性を作っていく
01
隠れフードロス・未収穫のタケノコを活用して地域課題に応えたい
この「MIRAINOMOTO」プロジェクトが始まったきっかけは、中津耶馬渓観光協会が主催した「中津市の未利用資源の活用」について考えるワークショップに、玉置さん含む味の素社Z世代事業創造グループメンバーが参加したことでした。
そこで「MIRAINOMOTO」プロジェクトにおける中津市のキーマン 中津耶馬渓観光協会・三雲浩嗣さんと、プロジェクトのリーダーを務めたZ世代事業創造グループ・玉置翔さんに、プロジェクトへの想いについて伺いました。
インタビューした人
中津耶馬渓観光協会
三雲 浩嗣さん
20代は住宅会社のホテル開発担当として国内外のホテル勤務。30代で大分県にUターン。現在は地域課題と観光をMixした「サステナブルツーリズム」に取り組んでいる。休日は家業の林業や山を使った新しい事業に挑戦中。
インタビューした人
マーケティングデザインセンターマーケティング開発部 Z世代事業創造グループ
玉置 翔さん
Z世代向けの製品・サービス開発を担当。世界中においしい体験を届け、健康面で後悔する人をなくす為に日々邁進中。趣味は旅行、ゲーム、アニメ。
――玉置さんは、中津市のワークショップのどんなところに興味を持ったんですか?
玉置:一般的なフードロスは収穫されたうえで余ってしまっている、無駄になってしまっている食糧のことを指しています。一方で、中津市のタケノコは、掘る人がいなくて収穫すらされていないという状況。フードロスの文脈では、多くの企業が収穫したものをどう活用するかに取り組んでいるなかで、「収穫すらされていないものがあるんだ!」というのが僕のなかで新しい発見だったんですよね。「隠れフードロス」だなと思いました。
また、タケノコにはタンパク質が多く含まれています。タケノコは自然に生えてくるものなので、掘る人さえ確保できれば自給率が上がるのではないかと興味を持ちました。
――たしかに、「未収穫のまま放置されてしまう食糧の活用」というのは新しい発想です! しかし、ワークショップで出たアイデアは、なかなか実際のビジネスと結びつかないことも多いと思いますが……
玉置:「Z世代が収穫」と僕が付箋に書いたアイデアからはじまりましたね(笑)。アイデアの実現にあたっては、三雲さんのワークショップの設計もすごくよかったんです。
三雲:ワークショップに参加してくれた人のなかから、希望者を募って実際に現地の様子を見ていただくツアーを設計していました。玉置さんはそのツアーよりも前に「現地を見てみたい」と来てくれて。「すごい熱意だ!」と思いましたね。その熱意を推進力に、昨年から試験的にプロジェクトをスタートさせたんです。
取り組みが決まってからは、玉置さんが立命館アジア太平洋大学出身ということで、そこの学生に声をかけてくれました。学生がタケノコ掘りを「価値ある楽しい体験」と捉えていて、前のめりに参加してくれたことには、驚きましたね。
――「MIRAINOMOTO」プロジェクトを通じて、学生になにを感じ取ってほしいですか?
三雲:学生たちに日本の地方の現状を知ってほしいです。「移住促進」をしている地域はたくさんありますが、家があってもそこで生きていくためには「産業」が必要ですよね。学生にタケノコ掘りを体験してもらって、将来的に地域の未利用資源を活用した事業をやりたいという人が出てきたら、応援したいと思います。
玉置:タケノコを掘るだけではなくて、このプロジェクトではタケノコを使った料理を一緒に食べたり、みんなで泊まったりします。新型コロナウイルスの影響もあり、今の学生はリアルで何かを体験する機会が少ないなかで、このプロジェクトは実りあるものになると思っています。
また、普段スーパーでタケノコを買っていると思いますが、そのタケノコを掘って、ゆでて、店頭に立って販売するという体験を通して、「農家さんがどれだけ大変か」や「食資源の大切さ」を学んでほしいですね。そのストーリーも含めて、「おいしい」と思ってもらえるプロジェクトにしたいです。
02
来てくれた人をもてなすのは「ウェルカム」の精神から
学生たちと味の素社員によるタケノコ掘りがスタートしました。協力・指導してくださったのは、WELCOMEやまくに合同会社の方たち。
目の前で実践しながらタケノコ掘りのやり方をレクチャーする様子を学生たちは真剣に聞いていました。
前日に雨が降っていたこともあり、かなり歩きにくい……しかし土が柔らかくなっているのはタケノコ掘りには好条件なんだとか。
まずはタケノコの頭の部分が出ていないか、目を凝らしてよーく探します。地上に出ているタケノコよりも、土の中に埋まっているタケノコのほうが柔らかくておいしいそう。土に埋まっているタケノコはお刺身でも食べられるんだとか!
タケノコを見つけたら周りをクワで掘って、タケノコを掘り起こします。学生たちは「思ったより難しい」と苦戦していましたが、数を重ねるごとに上達しているようでした。はじめて自分で掘ったタケノコに笑顔が溢れます。
タケノコ掘りには大人たちも夢中。「こんなに大きなの掘ったよ!」と嬉しそうな声があちらこちらから聞こえてきます。
そんな楽しいタケノコ掘りの合間に、プロジェクトと連携して学生たちにタケノコの収穫や加工の指導を行うWELCOMEやまくに代表の水谷文博さんにもお話を伺いました。
インタビューした人
WELCOMEやまくに合同会社
水谷 文博さん
商品や野菜の企画・製造・販売を担当。30数年関東で営業職に従事後、第二の人生に向け地元山国町の農業公社へ転職。2年半前に会社を立上げ、未利用資源=もったいない=宝の山を活かした元気な町づくりに挑戦中。
――このプロジェクトに参画した理由を教えてください。
水谷:私は中津市でもう何年も前から、タケノコを掘り、水煮にして販売することをしています。地域の人は、竹林を持っていても、自分たちで食べるぶんの2、3本のタケノコだけを収穫して、あとは採らないんですよね。そうすると、竹がどんどん生えて密集してしまい、タケノコができなくなってしまう。竹は15年ほどで倒れるので、荒廃も進んでしまいます。
このプロジェクトによって、タケノコを掘る人がいて、竹林も整備されるし、販売して利益も出るという好循環ができればいいなと思いました。
――取り組みは昨年から始まっていますが、前回の手応えはありましたか?
水谷さん:ありました。実際に、結果を数字で見ることができたのは嬉しかったですね。去年はタケノコを1000パック納めて、6~9月の期間で販売しました。当初の予想では、6月は売れないんじゃないかと言われていたのですが、400パックも売れたんです。味の素社の売り上げもアップしたとか。
それに、学生たちがタケノコ掘りや宿泊など、一連の体験がすごく楽しかったと、感想を伝えてくれて。関わった人、みんなにとって良いプロジェクトだったんだなと。なので今年もやりたいと思いましたね。
――先ほど学生の方にお話を聞いたら、昨日泊めてもらった方が優しくて、すごく楽しかったと言っていました。
水谷さん:そうでしょう(笑)。田舎の人はみんなそうなんです。一見、無愛想に見えるかも知れませんが、一度受け入れたら、やさしく、もてなしますよ。
水谷さん:私の背中にも書いてある「WELCOME」という言葉。「WELCOME」には「ありがとう」という意味もありますが、「どういたしまして」という意味もあるんです。来た人にお茶を出したり、お菓子を出したり、おもてなしするのも「どういたしまして」の心なんです。
03
タケノコ掘りは楽しく学びにもつながった
山から軽トラックの荷台に乗せて運んできたタケノコを調理場に運びます。学生たちももうすっかり慣れた手つきです。
調理場に運んだタケノコは、皮を剥いてから水煮にします。
皮を剥くとびっくり! あんなに大きなタケノコがとてもちっちゃくなってしまいました。頑張って収穫しても、食べられる部分は思ったより少ないんですね。
初めての経験に、学生からは「どこまで剥けばいいんだろう……?」なんていう声も。
普段から自炊をしているという、学生側の取りまとめ役を担った若林さんも慣れた手つきでタケノコをさばきます。タケノコを処理しながら、「将来はシェフになりたい」という話を聞かせてくれました。
作業をしながら「普段はこういうプロジェクトをやっているんだ」「将来は◯◯になりたい」など学生同士の話にも花が咲きます。
皮を剥き終わったら、水煮にして、タケノコの下処理は完了です。休憩を挟みゆっくりと休んでから、学生たちが宿泊している民家へ移動。ご自宅を貸し出してくれている宇曽谷さんと一緒にタケノコを調理し、青椒肉絲を作ります。
宇曽谷さんと学生たちが並んで調理する姿は、まるで帰省した孫とおばあちゃんのようでした。途中、「今日はイチゴもあるよ!」「えー本当ですか!」と嬉しそうな会話も聞こえてきます。
みんなで食べる分を作るだけあって食材も大量!ボールいっぱいに入ったピーマンを細切りにしていきます。
みんなで収穫して下処理を終えたタケノコも到着。
先ほどのピーマンと同じように、タケノコを細切りにしたら、フライパンに入れて炒めていきます。新鮮なタケノコは、炒めるとさらに香りが広がってお腹が空いてきますね。
ピーマンとタケノコに火が通ったら、一度お皿に移す。続いて、薄く切った豚肉をフライパンで熱し、火が通ったら「Cook Do®」<青椒肉絲用>を加えて炒めます。
最後に、炒めたピーマンとタケノコを加えて混ぜ合わせたら……
完成です!
04
小さな接点から中津との関係性を作っていく
料理ができたら、今度はテーブルに並べていきます。
青椒肉絲の他にも、ごちそうがずらり。「早く食べたい!」と逸る気持ちを押さえながら、まずは先ほどの青椒肉絲を取り分けます。
自分たちで収穫したタケノコを使って、自分たちで作った料理が並ぶ食卓。テーブルに並ぶみなさんの表情は、料理を取り分けるときからすでに笑顔で溢れていました。「おいしそう〜」「今日はいっぱい飲んで食べるぞ!」とみなさん楽しそう。
肝心の味は「タケノコが柔らかくておいしい!」と大絶賛。みなさん箸が止まらずに、あっという間にお皿から減っていく青椒肉絲が印象的でした。
三雲さんも「(学生が切った)不揃いなタケノコも、またいいんだよなあ」と嬉しそうです。
最後に、プロジェクトリーダーの玉置さんに「MIRAINOMOTO」プロジェクトの目指すところを伺ったところ、「若い人が農業や中津と接点ができて、それが少しずつ増えていくこと」とまっすぐ答えてくれました。
「『僕がタケノコ農家やります』という人が出てきてくれたら一番嬉しいですが、いきなりそうはならないですよね。例えば、ふるさと納税ってあるじゃないですか。僕は今まで、あまり深く考えずに寄付をしていたのですが、中津と接点ができたことによって、『ここにお金を出したい』『ここのものが欲しい』というように中津が愛着がある地域に変わったんです。同じように、年に一度『行ってみようかな』と思う人が増えたり、中津との関係が深くなっていったら、このプロジェクトは成功だと思っています」
もともと未収穫農作物を収穫することにフォーカスして始まった「MIRAINOMOTO」プロジェクト。
しかし、現在ではその意味をもう少し広く捉え「Z世代・若者を起点に、人と人との絆を大切にしながら、ウェルビーイングを推進するプロジェクト」として進化していくそう。「MIRAINOMOTO」プロジェクトは、これからZ世代を起点に地域の困りごとを解決していくようなプロジェクトを目指していきます。