「食」は人生を豊かにする大切な営み。そう理解していても、忙しい毎日の中では、どうしても料理とポジティブに向き合えず、面倒と思ってしまうことも……。どうしたら料理をもっと楽しめるようになれるのでしょう?
今回は、味の素社と「オレンジページ」が開催する「第11回ジュニア料理選手権」で入賞されたお二人の高校生と、精神科医として、日々心の声に耳を傾けている星野概念さんをお迎えし、 オンライン座談会を開催。瑞々しい感性で料理を楽しむお二人の高校生のお話を星野さんが聞きながら、自分と周りの人を笑顔にする “料理のちから”について語らいました。
インタビューした人
木戸 ひかりさん(北海道・藤女子高等学校)
個人部門・高校生の部でグランプリを受賞。
応募作品:カラフル「シト」(いももち)〜兄の健康とアイヌの食文化を守ろう!〜
インタビューした人
佐藤 玲奈さん(神奈川県・神奈川県立湘南高等学校)
個人部門・高校生の部で準グランプリを受賞。
応募作品:お肉なしでも大満足!地元野菜のダブルカレー
インタビューした人
星野 概念さん(精神科医など)
精神科医として病院に勤務しながら、ミュージシャン、文筆家として活躍。
第11回ジュニア料理選手権について
「ジュニア料理選手権」は「オレンジページ」と味の素社が協力して、中学・高校生を対象に行っている国内最大級の料理コンテスト。11回目の開催となった2023年度は、「想いを伝える、しあわせごはん」をテーマに合計14,204作品ものご応募をいただき、個人・団体合わせて12作品が入賞しました。
- 「想いを伝える、しあわせごはん」をテーマに作られた料理
- 料理は多面的なもの。そこに想いをのせることで彩り豊かに伝わる
- 「やりたくない」ときは無理せず、手抜きでもいい
- 日々の営みから切り離せない食。だからこそ日々を彩る要素になる
01
「想いを伝える、しあわせごはん」をテーマに作られた料理
──合計14,204作品もの応募が集まった「第11回ジュニア料理選手権」。オリジナル部門で入賞した2名にお越しいただきました。どのような想いを込めてレシピを作り、料理をしたのか教えていただけますか?まずはグランプリを受賞した木戸ひかりさんお願いします。
木戸さん:私は大学受験を控え、毎日遅くまで勉強している兄のために「カラフル『シト』」という、いももちを作りました。夜遅くにご飯を食べる兄が心配で、料理で応援するため思いついたのが、私が住む北海道の郷土料理であるいももちのアレンジです。
いももちを調べるとアイヌ民族の伝統的な料理であり、アイヌの食文化は食材への感謝の気持ちを大切にしている、ということがわかってきました。そこに私なりの想いを込めたオリジナルのレシピに仕上げていきました。
──料理を召し上がったお兄さんやご家族からの反応はどうでしたか?
木戸さん:「夜遅くに食べても胃がもたれなかった」、「いろんな味があり栄養も考えられていていいね」などの言葉をもらってとてもうれしかったです。私は将来、料理人になりたいのですが、今回の経験から、食べてもらう人の体調に合う食材を選び、作ることの大切さにも気がつきました。
星野さん:アイヌをルーツにした料理が出てくるとは思わず、驚きました。僕はアイヌについて詳しいわけではないのですが、自然のあらゆるものに対して感謝をしながら生活をしていた人々なのだろうというイメージがありました。それが料理のアイデアにつながっているというのは、とても興味深いです。
受験で大変なお兄さんを想って作られたお料理ということですが、他者への気持ちが込められた行動はとても尊いものですよね。いももち1個1個が木戸さんの気持ちなのだろうと感じました。
──佐藤玲奈さんは「お肉なしでも大満足地元野菜のWカレー」で準グランプリとなりました。どんな料理を作ったのか教えてください。
佐藤さん:私は毎日仕事をしながら朝ご飯、お弁当、夜ご飯を作ってくれる母へ感謝の想いを伝えるためのメニューを考えました。
野菜は全て地元の川崎で育った野菜を選び、中でもビタミンが豊富で、食感も特徴的なモロヘイヤを生かしたカレーが作れないだろうかと考えました。地元野菜に加えて、低脂肪・高たんぱくな高野豆腐を入れてキーマカレーに仕上げました。味は白だしをベースにしています。その他具材は、母はなすが大好きなので、普通のなすと白なすの2種類を使い、トマトベースのカレーとあいがけにして彩りも意識しています。
──召し上がったご家族の反応はいかがでしたか?
佐藤さん:「高野豆腐のカレーって面白いね」、「だしがしみていておいしい」、「栄養バランスも彩りもすごく良い」というような感想をもらいました。
作っているときはもちろん、食べてもらっているときもずっと幸せな気持ちで、料理には人を幸せにする力があるんだなということをすごく感じました。これからも作る自分も幸せに感じられて、食べた人が幸せになれるような、想いを込めた料理を作り続けたいと思っています。
星野さん:僕は、高野豆腐が好きでよく食べているんですよね。あとモロヘイヤも好きなので、お話をお聞きするだけでとてもおいしそうで、とにかく一度食べてみたい!と感じました。
木戸さんもそうでしたが、お母さんが好きななすを使うなど、他者との関係性が感じられる料理ですよね。お二人の料理はご両親の料理の哲学みたいなものも影響しているのかなとも感じましたがいかがでしょうか?
木戸さん:そうですね。父も料理が好きでよく料理をしていて。「どんなに疲れていても料理は楽しい」と言っているのを聞いたことがあるので、父からの影響は大きいかもしれないです。
もともとシェフになりたいと思ったのは、幼いときに家族で行ったフランスがきっかけなんです。そのときに食べたフランス料理に衝撃を受けました。シェフの夢も家族が応援してくれていて、家でもいろいろな料理の話をしています。
佐藤さん:私も料理することの楽しさを教えてくれたのは両親です。家族みんな食べることが好きで、「このお店の料理が食べたい」という話になったら、自宅で再現してみます。コロナ渦で旅行に行けないときには、今日は中華、次はエジプト、イタリア…と、家族みんなで世界の食を楽しみました。
私自身、料理することも好きですが、料理の楽しさを誰かに伝えたいという気持ちも大きいので、将来は作る工程や料理そのものの楽しさをいろんな人に知ってもらえるようなことができたらいいなと考えています。
星野さん:素晴らしいですね。僕は仕事柄、幅広い年代の人とお話しすることがあるのですが、何かを長く続けている人に話を聞くと、やらされているのではなく、「なんだか楽しくて続けていました」とおっしゃるんですよね。何かを続けていたり、やっていて楽しいと思えたりするということは、それ自体が才能なんじゃないかなって僕は思っています。
02
料理は多面的なもの。そこに想いをのせることで彩り豊かに伝わる
──選手権のテーマが「想いを伝える、しあわせごはん」でしたが、料理を介することで想いが伝わりやすいということは実際にあるものなのでしょうか?
星野さん:あると思います。想いというのは頭の中や胸の内などいろんなところにあるけれど、目に見えないものです。なので、何かの形にして届ける方が彩り豊かに想いを伝えることができると思います。
特に料理というのは、食べるだけじゃなくて、盛り付けで視覚的にも伝わることがあります。さらに、アイヌをルーツにしてみよう、肉を使わずに食べごたえを出そう、といった驚きや発見も届けられる。「こうしたら喜んでもらえるかな、面白いかな」と考えながら作るという時点で、もう既に想いが乗っているわけですから。
──いろいろな想いを乗せることができるんですね。
星野さん:僕は料理というものはすごく多面的なものだと思っていて、そこに想いを乗せることで、言葉以上に伝えたい想いを届けることができるのかなと思うんです。
そして料理を一緒に食べれば、会話が生まれ、相手の反応も感じられますし、「おいしい」という言葉だけでなく表情からわかることもありますから。料理を作って想いを伝えるというのは、とても豊かな感情表現ですよね。
03
「やりたくない」ときは無理せず、手抜きでもいい
──1人の人間の中でも、今日は料理をしたくないという日もあれば、今日は楽しいという日もあると思うんです。どうしても湧き出てしまう料理に対するネガティブな気持ちとの向き合い方があったら教えていただきたいです。
星野さん:「やりたくない」と思うときは無理せず、手抜きでもいいんじゃないかと思っています。
友人の自炊料理家・山口祐加さんが「手抜き料理も自炊の一つ」と言っていたのですが、自炊って誰かが判断するわけじゃないから、いくらでもハードルを下げていいと思うんです。お椀にかつお節とみそを入れて、お湯を注ぐだけのみそ汁だっていい。そういう手抜きも楽しめるといいですよね。
──木戸さんと佐藤さんは、「料理があんまり好きじゃない」という人が近くにいたら、どういうアドバイスをしてあげますか?
木戸さん:料理が苦手なら無理せずに、料理以外にも好きなものや得意なことがきっとあると思うので、得意なことを活かす方法を考えてみたらどうだろう?とアドバイスしたいと思いました。
佐藤さん:全部の工程を楽しむことは難しくても、料理を作る中に何か一つだけでもこれは楽しいということを見つけられたら、それがどんどん発展して楽しくなっていくかもしれないよ!と声をかけてみたいと思います。
星野さん:それはいいアドバイスですね。「面倒くさいときでも、とにかく少しやってみると気持ちが変わって乗れる」という考え方があるんです。勉強や仕事で気持ちが乗らないときに、とりあえず5分だけやってみると、意外に「もう少しやってみるか」とその気になったりもする。料理でも、やる気が出るか確認するくらいの気持ちでとりあえずお湯を沸かしてみる、野菜を切ってみるとかでも、気持ちが前向きに変わることはあるかもしれないですよ。
04
日々の営みから切り離せない食。だからこそ日々を彩る要素になる
──「料理でウェルビーイング」シリーズでは、ごきげんな毎日を送るために料理との向き合い方のコツを探ってきました。星野さんは料理や食事とウェルビーイングの関係についてどんなことを考えているか教えてください。
星野さん:衣食住って人が生きていくためには必須で、生活に密着しているものです。同時に食でいえば1人で食べるコンビニ飯も、グランメゾンでの贅沢な食事も、極論を言うと食べないという選択肢も含めて食事だと思うんです。人に見せられないような怠惰なものから気持ちや人間関係を豊かにしてくれるものまで、食の振れ幅は広い。
日々の営みから切り離せないからこそ、食というものに想いを馳せて意識的になることで、生活を豊かにしていけるきっかけになるのかなと僕は思います。