進学や就職、異動など環境の変化が多い春。そんな季節の変わり目でなんだか体調が優れない……なんてことはありませんか?
この時期に感じる不調を「五月病」と呼ぶこともしばしば。「五月病かも?」と思ったら、「まずは食習慣を見直しましょう」と、Xやnoteで「タクヤ先生」として健康情報を発信している漢方アドバイザーの杉山卓也さんに、五月病から抜け出すためのポイントを聞きました。
インタビューした人
薬剤師・漢方アドバイザー
杉山 卓也さん
「漢方のスギヤマ薬局」にて完全予約制の健康、漢方相談を行いながら年間100本を超える漢方セミナーを開催。モットーは「あらゆる人生相談に乗れる漢方薬剤師」。中医学界初のオンラインサロンを開設し、600人を超える参加者を集める。著書に『不調が消える食べもの事典』(あさ出版)、『タクヤ先生のメンタル不調相談室』(ぱる出版)など多数。
- 元気、気を遣う、気晴らし……ルーツは中医学にあった
- そもそも「五月病」って?
- 新生活には「気」を補うみそ汁から始めよう!
- 習慣を少しずつ改善することが、健康の維持につながる
01
元気、気を遣う、気晴らし……ルーツは中医学にあった
── 杉山さんが専門とする中医学の特徴を教えてください!
杉山さん:中医学は数千年以上の歴史を持つ中国の伝統医学です。
日本に中医学が伝来したのは6世紀頃といわれます。そして、伝来した中医学の考えを、日本の風土や日本人の体格に合わせて、独自に発展させたものが「漢方」です。ですから、中医学と漢方は、ルーツは同じですが異なるものなんです。
最大の違いは、中医学では「中医学理論」という考え方を用いて、病気の主な原因を理論に当てはめて特定していきます。
── どういった理論がありますか?
杉山さん:人の体は「気・血・水」で構成されている、という考え方があります。簡単に言うと、気はエネルギー、血は血液、水は血以外の体液を指しています。3つの要素のバランスが崩れると、体に不調が起きてしまうわけですね。
日常でもよく使う言葉で、「元気」や「気を遣う」、「気晴らし」といった「気」は、中医学に由来しています。
「気が詰まる」や「気が塞がる」という言葉もありますが、気の巡りが悪くなることを中医学では「気滞(きたい)」と呼んで、病態に繋がっていくと考えます。
そして、「気」の滞りを晴らすから「気晴らし」。住む場所によって気候も文化も異なりますが、「気晴らし」が大切なのは全世界共通なんですよね。私もお客様には「根を詰めすぎずに、ほどよく息抜きをして、気晴らしをしてください」とよくお伝えしています。
お茶を飲んだり、読書したり、散歩したり。方法は何でも構いませんが、気晴らしを入れてメリハリをつけて日常を過ごすことが、とても大切なんですよ。
02
そもそも「五月病」って?
── 五月病をどのようにとらえていらっしゃいますか?
杉山さん:適応障害、うつ、パニックといった精神疾患が、強く一気に出てくる時期を「五月病」と称しているだけで、医学用語ではありません。
一概に中医学理論だけで全て収まるとは言えませんが、五月病のように特定の時期に出やすい症状が「なぜ起きるのか、どう対処すべきか」を知っておけば、不安が減りますよね。その意味でも、中医学理論を生活の基盤に持っておくことを勧めたいですね。
── では、まず知っておくべき中医学理論は何でしょうか?
杉山さん:「五臓六腑に染み渡る」という言葉がありますね。「五臓六腑」が中医学でいう内臓で、「五臓」と「六腑」は互いに助け合っています。まずはそれを知っていただきたいですね。
五臓は、肝、心、脾(ひ)、肺、腎からなり、先ほど話した「気・血・水」や栄養素など、体に必要なものを生み出して貯蔵する役割があります。
それから、六腑は、胆、小腸、胃、大腸、膀胱(ぼうこう)、三焦(さんしょう)からなり、食べ物を消化吸収し、不要物の排泄を促す役割があります。
五月病に話を戻すと、「春は肝の時期」といわれるくらいに肝が刺激を受け、 調子が悪くなりやすいのです。肝は、いわゆる「新陳代謝」を担っています。エネルギーや血液を体中に淀みなく循環させる役割を持っていますから、それが不調になることで、自律神経に関する不具合が起きてしまうわけですね。
──先ほど聞いた「気滞」にもなりやすいと……。
杉山さん:そうですね。5月になったから、急に五月病になるのではない。五月病は、肝が刺激を受けやすい2月ごろからのストレスが蓄積して起こる、いわば「不調貯金の満期」と言ってもいいでしょう。
03
新生活には「気」を補うみそ汁から始めよう!
── 五月病から抜け出すためのポイントを教えてください!
杉山さん:やはり、着目すべきは「気」を充実させて、滞らせないことにあります。
そのために、まずは食生活を整えてみましょう。大豆、卵、肉、魚などからたんぱく質をしっかり摂ってください。こんなふうに話すと、みなさん「食べています」とおっしゃいますが、実は足りていない方が多いです。一日に必要なたんぱく質は、一般的には体重1kgあたり約0.8〜1gが目安です。
たんぱく質は体のエネルギーを作ります。中医学だと「補気(ほき)」と言って「気」を補う存在だとみなされています。この時期は、積極的に補気食材を取り入れていきましょう。
── オススメの料理はありますか?
杉山さん:僕はみそ汁が最強だと思っています。
みその大豆からたんぱく質も摂れますし、「トリプトファン」という必須アミノ酸が含まれているのもポイント。トリプトファンは、時間とともに脳内の神経伝達物質である「セロトニン」へ変わって、メンタルを安定させてくれます。夜になると快眠ホルモンにもなる優れもの。朝のみそ汁は元気につながるのでオススメです。
── みそ汁には、どういった食材を入れたら良いですか?
杉山さん:ここでも肝を良くして、補気につながる食材がいいですね。
「気」と「血」の巡りを良くして体を温め、肝や腎を元気にする「にら」はオススメですね。そして、春野菜は実はみんな「肝」を養ってくれるんですよ。菜の花やキャベツを入れるのもオススメです。その意味では春に限らず、旬の食材を取り入れることは理にかなっていますね。
他にも、体を温める効果のある根菜類で、ストレスから来るお通じの悪さを整えるごぼうもいいですね。さらに、お豆腐も加えると、トリプトファンの増強にもなります。絹ごし豆腐よりもたんぱく質が多い木綿豆腐だとなお良いでしょう。
お豆腐に加えて、お魚を入れても。たとえば、鮭の切り身を軽く湯通ししてから加えると臭みも出ません。朝ごはんの定番「焼き鮭」も、軽く炙ってからみそ汁に入れて食べるのもとてもおいしいです。
── さらに「気」を補うには何を食べ合わせたらいいでしょうか?
杉山さん:手軽なものだと「米」ですね。栄養価が高いのは玄米ですが、消化にエネルギーを使うので、補気という観点なら白米の方がいいです。あとは、いも類や根菜類も、体を温める優れた補気食材です。
消化のいいものをゆっくりと、よく噛んで食べる。これが基本です。一日中食べ続けたり、ながら食いをしたりするのは、消化吸収にもよくないので控えた方がいいです。
04
習慣を少しずつ改善することが、健康の維持につながる
── 食習慣以外では、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。
杉山さん:睡眠を最優先に考えたいですね。ストレスのリフレッシュに、何より一番効くのは睡眠なんですよ。
中医学の考え方に基づくと、22時から23時くらいまでには寝るとよいとされていますが、私たち現代人にとってなかなか厳しいと思います。日付が変わる前には寝ることを心がけましょう。中医学では0時以降は気と血が消耗される時間とされていますから。
あとは、意識的にカラダを伸ばしてみてください。ラジオ体操くらいの運動ができると一番良いのですが、姿勢を正すだけでも血行が良くなります。新陳代謝が上がると、気の流れも一緒に良くなるので、 これも「気晴らし」になるんです。
呼吸も大切です。ストレスにさらされると呼吸が浅くなってしまいがち。意識的に腹式呼吸で深呼吸をすると、自然と姿勢もよくなって体が伸びるので、ぜひやってみてください。