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世界の食卓をのぞいてみよう!自炊料理家 ・山口祐加さんに聞く、ポルトガルのごはんと暮らし

世界の食卓をのぞいてみよう!自炊料理家®・山口祐加さんに聞く、ポルトガルのごはんと暮らし

2024/08/22

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世界のあちこちで、自分や家族が食べるために、今日も料理をしています。「食」は人生を豊かにするとっても大事な営み。そうわかっていても、忙しい毎日の中で、「料理が面倒……」と感じることがあります。時短レシピ、作業を効率化する道具などを活用してみても拭えないこの気持ち。

この気持ちとの向き合い方について、日本から少し離れて、世界の国々の自炊事情を知ると何かヒントを得られるのでは?
「自炊は自分の食事を作る行為だけに留まらず、人生をより豊かにするための手段である」をモットーに、誰にも自炊を楽しんでもらうために発信している自炊料理家の山口祐加さんに、今回はポルトガルの自炊事情について聞きました。

ヨーロッパ南西部に位置するポルトガルは、スペインと接する国。実は「ヨーロッパの中でも、もっともお米と海産物を食べる国」といわれるほどで、日本とも共通点を感じる土地です。

山口さんは今、自分の料理の幅を広げるために、1年間をかけて様々な国に滞在中。現地で暮らす人が普段食べている食事を共にし、自炊という観点からみんなの「ふつうのごはん」を知り、その工夫や暮らしぶりを取材している真っ最中です。

私たちがお話を伺ったのは台湾、韓国に続いてポルトガルに滞在した後のこと。いったい、日本とはどんな違いが見えてきたのでしょうか。

インタビューした人

自炊料理家

山口 祐加さん

自炊する人を増やそうと、料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信など、幅広く活動中。著書は『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。

  1. おしゃべりしながら楽しく食事を!「時間上手」なポルトガルの自炊
  2. 料理に対するプレッシャーがみんな低い
  3. 味付けはほぼ不要!素材そのものが「だし」になっている
  4. 「食文化は安心感」。慣れた味がもたらしてくれるよさ

01
おしゃべりしながら楽しく食事を!「時間上手」なポルトガルの自炊

──ポルトガルと日本とでは、食文化にどういった違いを感じましたか?

まずは、ポルトガルは週末になると昼ごはんからみんなで集まって食事をするという文化を感じます。

ヨーロッパ全体に通ずることかもしれませんが、おしゃべり好きな人が多いんです。昼から話しながら、料理を作っていたら5時間くらい経っていたことも(笑)。おいしい手の込んだ料理を作ることよりも、人と楽しくおしゃべりすることの方が優先順位が高いのかなと感じました。

でも、料理にかける時間の使い方は上手です。オーブンをよく活用するのですが、お肉や野菜、魚介類に塩やオイルをかけて入れておき、焼いている間にフレッシュチーズなんかをつまんだり。

日本だとオーブンは使用頻度が低いように思いますが、オーブンであれば一瞬で焦げるようなこともないですし、意外に簡単。火を使う料理より時間はかかるけれど、できあがるまでに他の家事を進めることもできますから。

02
料理に対するプレッシャーがみんな低い

──ポルトガルでは現地で暮らす人と食事を共にされたそうですね。みなさん、どんなふうに夜ごはんの時間を過ごしていましたか。

お酒は毎日のように飲みますが、グラスワインやビールを嗜む程度ですね。そのお供にオリーブのオイル漬けや、 ケイジョ・フレシュコ(Queijo Fresco)と呼ばれるフレッシュチーズなどの前菜があれば十分みたいです

あとは、ポルトガルだと、日本人でいう「お惣菜屋さんのコロッケ」みたいな感覚で、チキンの炭火焼きを買って帰るんです。それにサラダとパンで夕食はおしまい、ということもあるみたいですよ。

これは今回旅したポルトガル、スペイン、フランスのどの国でも感じましたが「夜ご飯に温かいものを食べなきゃいけない」みたいなプレッシャーがあまりなさそうなんです。

今回の旅では現地で暮らす方を7人ほど取材させていただきましたが、みなさん料理に対してプレッシャーを感じていないようで、料理を楽しんでいる印象です。

──栄養や健康に対する考え方はどうでしたか?

食に対して、バランスを考えて色々なものを食べる、という考え方は特に感じなかったですね。小学校の先生をやっている人から聞いたところ、日本でいう家庭科に相当する科目はなく、料理や栄養について学校で教えることがないそうです。

もしかすると、栄養に関する知識に捉われていないから料理に対するプレッシャーが低い、とも言えるかもしれません。

あとは、これまで訪れた韓国、台湾、ポルトガル共通して、食事は「そのとき冷蔵庫にあるもので作る。」と、言っていました。書店でも「料理雑誌」のようなものはほぼ見られず、レシピを使うこともあまりないみたいです。他人と比べて「料理ができる・できない」という意識と、それを恥ずかしいと思う気持ちそのものがない、という感じ。

こちらで知り合ったある男性は、パンにイワシのトマト煮缶をのせて食べるだけ、という夕食になることもあるのだとか。これを自炊とカウントしていいかはわかりませんが、栄養面は炭水化物、たんぱく質、ビタミンが摂れ、洗い物いらずで合理的。そういう日があってもいいなと思うんです。

03
味付けはほぼ不要!素材そのものが「だし」になっている

──ポルトガル料理にはどんな特徴がありますか?

山が多くて海も近く、素材が新鮮で豊富です。素材を重視した料理が多いという意味では、日本とすごく似ていますね。

町の食堂にはたいていイワシの丸焼きとじゃがいも料理とサラダのセットがあります。素材がおいしいから、それを楽しめばいいよね、という感じを受けます。調味料もオリーブオイル、ビネガー、塩がメイン。ポルトガルの家庭料理は、日本の家庭料理のような、ある意味の過剰なレパートリーはなく、それがいいなと感じました。

──ポルトガルの伝統料理はどのような料理なんでしょう?

ポルトガル料理を語る上で欠かせないのは、大きなホッケの丸焼きのような見た目をした「バカリャウ」と呼ばれる干しダラです。多くの家庭にも乾燥のものや水で戻してすぐ使えるようにしてあるものなどが保存食として置いてあると思います。スープを作るときに使ったり、潰してポテトに混ぜてコロッケにしたり、それ自体を水で戻して焼いたりして食べます。

日本のようにスープを作るためにわざわざ「だしを取る」という文化はありませんが、だしの役割を担う素材をよく使う印象は受けました。たとえばスモークされた「チョリソ」。豚肉の腸詰ソーセージで、日本のものに比べてよく燻製されています。

ポルトガルで有名な「カルドベルデ」というスープは、玉ねぎとじゃがいものポタージュに、チョリソが入っていて、ペンカと呼ばれるポルトガル地方の伝統キャベツの千切りがのっています。

見た目は地味ですが、オイルと塩でポタージュにすることで、そのオイルが乳化してだしの役割を果たしてくれる。コクがあっておいしいですよ。

04
「食文化は安心感」。慣れた味がもたらしてくれるよさ

──山口さんが、ポルトガルで一番おいしく感じたものはなんですか?

海鮮雑炊ですね。すすったときに、なんだか日本で温泉に浸かったような気持ちになりました。やっぱり、日本の味に馴染みがあるからでしょう。だし感のあるうまみたっぷりの汁を飲むと、とってもおいしく感じます。

海外を巡ったり、ポルトガルを訪れたりして強く感じたのは、「食文化は安心感」であることです。幼いころから食べ慣れてきたものや、食べた回数が多いものを口にすると、とても安心しますよね。安心感のある食事でないと、どこまでも旅行気分が抜けないものです。

こちらでお世話になった日本人のご夫婦も、日々の食事は日本食がメインと話していました。慣れた味からは逃れられないとも言えるし、特に自分でコントロールできる自炊には、そういう安心感を得るためのよさもあるのでしょうね。

  • 執筆/Re!na 編集/長谷川 賢人
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