9月1日は「防災の日」です。しかし、災害は決まった日にやってくるわけではありません。たとえば、2019年10月25日の千葉県豪雨災害は、私たちにその教訓を痛感させました。
当時の体験をもとに、もしもの災害に備えて「何が必要なのか」を改めて考えてみようと、私たちは千葉県を中心に展開する食料品スーパーマーケット「せんどう」へ伺いました。お話しをしてくださったのは、災害発生時は茂原店(現在はちはら台店)で店長を務めていた東條功さん(写真左)と商品部の鈴木誠一さん(写真右)。
想定外の水害や停電、混乱する物流……私たちの日常を支えるスーパーマーケットの視点から、今からできること、そして「すべきこと」を教わります。
インタビューした人
株式会社せんどう ちはら台店
店長 東 條功さん
インタビューした人
株式会社せんどう 第二商品部
バイヤー 鈴木 誠一さん
- あっという間に雨水が逆流…あの日、店内で起きたこと
- みんなが必要とする時になってからでは、手に入らない
- 目にすること、想像することも、防災対策の一つ
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あっという間に雨水が逆流…あの日、店内で起きたこと
──2019年の豪雨災害で、せんどう茂原店はどのような状況だったのでしょうか?
東條さん:午前中からずっと雨が降り続いていました。私は地元出身で、店の近くに住んでいたのもあって、「どのくらい雨が降れば危険か」はなんとなくわかるんです。その日は「危ないかもな」と思うほどの雨量で、川の水位情報なども常にチェックしていました。
雨雲レーダーや天気予報を見ると14時頃がピークになると予想されていたので、せんどう本部とも情報をやり取りしていました。ところが、予想外だったのが13時からの降雨量です。13時台が35.5mm、14時台が25mmと一気に降りました。
──その雨で店舗はどうなったのでしょうか?
東條さん:あっという間に、店の中へ配管から水が逆流してきて……。最初は作業場あたりに溢れ始め、バックヤードに水が出てきました。使っていない配管の蓋が外れてしまったようで、汚れも混じった真っ暗な水です。納品口からも水が入り始め、もうどうすることもできませんでした。
東條さん:当時は「ここまで雨が降ったら閉店する」という決め手に欠けたのも現実です。自分が長年住んでいる土地なのもあって、「危ない」と言われてきても「意外と大丈夫だった」という経験を何度かしていました。それもまた、初動が遅れた理由かもしれません。
従業員とパートさん、それにお客様が1人残されていて、店内には15人ほどいました。当然、誰も帰れない状況でしたし、さらに停電も起きてしまって……。18時過ぎには消防へ連絡をし、消防からの指示で自治会の集会所みたいなところに避難しました。
私の自宅も床上浸水しました。初めての経験でしたね。雨は17時頃には止んだのですが、水が逃げ場を失って、なかなか引かなかったんです。店舗まで様子を見に行けるようになったのは、深夜1時くらいだったでしょうか。
──その災害によって、営業にはどういった影響がありましたか?
鈴木さん:茂原店に限らず、道路が冠水などで通行止めになって納品が遅れたり、不安定になったりする状況が続きました。店舗の営業再開は2週間後くらい。棚も全部出して、使えるものは洗って消毒して……と大変でした。全商品を入れ替えての再スタートでしたから
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みんなが必要とする時になってからでは、手に入らない
──営業を再開されてから、商品の売れ方に変化はありましたか?
鈴木さん:豪雨以前は日用品を買いだめする傾向もありましたが、実際に被害に遭うと、湯煎で食べられる食品や備蓄用の水など、想定以上に必要なものが出るようで、そういった商品は動きがあります。台風前に冷蔵品を買いだめしても、停電でダメにしてしまうケースも多いと聞きます。電気が使えなくなる、という前提はあったほうがいいですね。停電が地域で起こった際はガスコンロの売れ行きも上がりました。
東條さん:改めて実感しましたが、災害時に必要なものは、その時になってから買おうとしても手に入りません……。みんなが必要とする時は、私たちが多めに仕入れるようにしても想定を上回って、供給が追いつかない状態になってしまいます。平時からの備えが大切だと、私たち自身も感じています。
──災害時の経験から、売り場ではどのような対策を取られていますか?
東條さん:店舗側としては豪雨災害を経て、平常時であっても防災用品のコーナーを設けました。飲料水やレトルト食品、ガスボンベなどを目立つところに置いています。
──ご自身でも備蓄はされていますか?
東條さん:そうですね、10日分くらいの食料など、最低限の備蓄は常にしてあります。そういえば、当時は簡易トイレも非常に売れました。やはり、普段から意識がないと、そこまで備蓄しないですよね。地震以外の災害はある程度は予報が出ますから、早めの準備に越したことはないでしょう。
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目にすること、想像することも、防災対策の一つ
──災害時、地域を支えるスーパーマーケットとしての役割をどのようにお考えですか?
東條さん:店舗側も、可能な限りで商品を用意し続け、営業できる体制を整えていきたいと思っています。たとえば、長期保存水は価格も高く、回転率も低いとなれば、経営的な観点で言えば難しい商品です。それでも、売れ行きに関係なく、店舗として提供し続けることの必要性については考えたいですね。
──店頭で防災グッズを目にすることが一つの啓蒙活動にもなるかもしれません。
東條さん:店舗の設備面でも災害対策に力を入れました。たとえば、止水板を設けたり、配管に逆流弁を設置したりしたことで、店内に水が入りにくい構造に変えたんです。災害中でも来店されるお客様は実際いらっしゃいます。そのためにもお店を開けたいという思いと、従業員の命を守らなければいけないという責任の間で、バランスを取らなくてはなりませんね。
鈴木さん:せんどうでは「近隣出勤」という制度も導入しました。大雪や台風の時など、予測できる災害の場合に、自分の配属店舗ではなくとも近くの店舗へ出勤できる仕組みです。少しずつではありますが、各部門の担当者が近隣店舗で業務を済ませられるようになってきました。社員が誰かいれば、店を開けることはできますから。
──学びとしてお聞きしたいのですが、個人的なことも含め、災害時に一番困ったことは?
東條さん:一番困ったのはお風呂でした。10日ほど入浴できなかったんです。幸い、私は地元だったこともあり、知り合いの家に身を寄せたり、お風呂を借りたりすることができました。無料開放されていたプールのシャワーやお風呂にも助けられました。
──周りに頼れる人があまりいない方もいると思います。どういった被害が起こり得るのかを知った上で、備蓄はもちろんのこと、災害時の行動をシミュレーションしておくことが、自分や家族の安全を守るために重要ですね。暮らし方そのものを点検する意味でも、今日はよい学びをいただきました。ありがとうございます。