Introduction:
外出する機会が減り、家での過ごし方を考えさせられる今、「ウェルビーイング」という概念が注目され、そのなかでも食の果たす役割は大きいといわれている。「料理がもたらすウェルビーイングの価値」とは何なのか?医学博士であり「ウェルビーイング」についての著述も多い石川善樹さんに解説してもらった。
どんなことでも、
学びや発見に置き替えられる人は
ウェルビーイングな人。
ウェルビーイングの概念を石川さんに聞くと、「その時々の良い状態のこと」で、ひと言でいうと「いい感じ」ということだそうだ。
「それは極めて主観的なものなんです。客観的には同じように見えても、本人の捉え方によってウェルビーイングな人とそうじゃない人がいる。つまり同じ作業をしているのに、義務感でやっているか、楽しんでやっているか。どんな単調な作業でも、そこから学び、意味を見いだせる人がウェルビーイングな人なのです」
特に今の状況下では行動範囲も限られ、毎日が単調なうえに抑圧を感じることがあるかもしれない。どれだけウェルビーイングになれるかは、状況でも環境でもなく、自分次第であるということだ。
たとえば食事の時間など、
日々の暮らしのなかで「ハイライト」を決める。
では、ウェルビーイングな暮らしのために何から始めたらいいのだろうか。
「確かに何か新しいことを始めたくなるんですが、それをするとなかなか続かないものなんです。『したい』と思って始めたことも、いつの間にか義務のようになってしまうことはありませんか。だから新しい行動ではなく、すでにやっていることに対する主観を変えてみてはどうでしょう。たとえば、日々のTo
doリストの中でひとつ『ハイライト』を決める。決めたことをやれば達成感が得られるし、単調でもなくなります。今日は大福を食べる、今月はディズニーランドに行く、秋にはコンサートに行くなど、スパンはいろいろでよいけれど、自分の心が満たされることをすると決める。日常で取り入れやすいのは食事ですね。週末の家族との食事の時間や、自分が好きな店に行ける平日のランチ外食などで取り入れてみるのも手です」
それが自分だけの楽しみでも、もしかしたら手抜きかもしれなくても、大手を振って思い込めばいいのだそうだ。「だってこれが今日の私のハイライトなのだから」と。
予防医学的な観点からの
「ウェルビーイングな食」。
石川さんによると、「ウェルビーイングな食」には、欠かせない要素が3つあるという。それは、塩分を控える、なるべく料理をする、食材を自分で育ててみる、ということ。実際に自分で食材を育てて自炊している人は、ウェルビーイングな暮らしを実感している人が多いという調査結果があるという。
「自分で食材を育てることで自然とのつながりができ、自然のリズムと自分の生活のリズムが調和すると、日々の暮らしが充実するのではないでしょうか。部分的ではなく、最初から最後まで自分でやり遂げた達成感も得られます。そして予防医学の観点からも、自炊をする人は健康を維持しやすい。自分で健康にいい食材を選べるし、塩分も控えることができる。また、食材を自ら育ててその食材について知ることも、とても大切なこと。そして、これらを無理に頑張ってする必要はないのです」
自分の人生の時間を
どう使うのかを考える。
行動範囲が限られたなかでも、自分次第で動作は多様化できるし、充実感も得られることがわかった。特に食に関しては、料理は作るうえでも食べるうえでも五感を使い、さまざまな動作をするので、ウェルビーイングにつながりやすいのだ。
「さらには、自分の人生の時間をどう使うのかを考えてみましょう。昔に比べればいろいろなことが便利になって時間も増えたはずなのに、いつも時間に追われている人が多い。自分が時間をどう使っているのかわかっていないからなんです。この食事の時間が自分にとってどういう時間なのか、どういう質のものなのかを把握すると、捉え方も変わってくるはずです」
客観的に見れば時間だって同じように流れていて、どう使うかもどう捉えるかも自分次第なのだ。だからこそ自分なりのハイライトを、日々取り入れやすい食事などでつくって、自分でウェルビーイングな毎日にすればいいのである。
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Profile:
石川善樹 Yoshiki Ishikawa
予防医学研究者・医学博士
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)を取得。「人がよく生きる(ウェルビーイング)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行っている。公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。