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ウェルビーイングの鍵は料理にあった!調査研究・参加者インタビュー

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ウェルビーイングの鍵は料理にあった! 調査研究・参加者インタビュー

Introduction:

味の素社は、日本や世界に向けて、皆さまの食卓を支える商品をお届けしながら、「Eat Well, Live Well.」をスローガンに、よりよく食べて、よりよく生きる社会への貢献を目指しています。近年、日本でも注目が集まっている「ウェルビーイング」という言葉。心身ともに満たされた状態を表す概念ですが、さまざまなアプローチがある中でも、味の素社は、「食・料理」を通じて、ウェルビーイングに向き合うプロジェクトを立ち上げました。取り組み第一弾は、調理技術の習得が、ウェルビーイングにつながる自己形成の一助になりうるかを検証することとし、2022年秋〜2023年春にかけて、慶應義塾大学との共同調査研究を行いました。本研究では、自炊料理家の山口祐加さんを講師に迎え、慶應義塾大学に通う学生14名を対象に、レシピに縛られない調理技術を習得するワークショップを実施。そして、参加前後での料理との向き合い方の変化や自身の変化、ウェルビーイング指標に対する影響などについてアンケート調査し、料理とウェルビーイングの関係性を明らかにすることを目指しました。

今回、本プロジェクトをともに担当した自炊料理家の山口祐加さんと瀧本有加さん(味の素社)、参加した学生4名が集まり、全8回が終了して約半年が経過したワークショップを振り返る座談会を開催。あれから料理との向き合い方がどう変わったのか?そして、生活や気持ちの変化はあったのか?などについてお話いただきました。

料理とウェルビーイングの関係性を明らかに

瀧本 有加さん(味の素株式会社 コミュニケーションデザイン部カスタマーサクセスグループ)

よりよく食べて、よりよく生きる社会への貢献を目指す味の素社。普段から、料理初心者を対象とした料理教室を開催する中で、料理とウェルビーイングには関係があるのでは?と考えるようになったという山口さん。両者の「料理とウェルビーイングの関係性・可能性を明らかにしたい」という思いが合致し、今回のプロジェクトがスタートしました。

―まず、このプロジェクトを始めようと思ったきっかけを教えてください。

瀧本さん

私たちは調味料メーカーとして生活者にさまざまな商品をお届けしていますが、それらを提供するだけではなく、「食にまつわる豊かな時間も提供したい」ということを常に考えています。そして、もっと料理にポジティブな感情で向き合ってもらうために、食や料理を通したウェルビーイングをもっと探求し、解像度の高い一人一人の声を知りたいという思いがありました。
そんな中、山口さんのお話を伺い、その思いに共感しまして、味の素社としてぜひご一緒したいと思ったのです。

山口 祐加さん(自炊料理家・慶應義塾大学SFC研究所研究員※研究実施当時)

山口さん

私のやっている初心者向けの料理教室で、参加者から「料理が楽しくなった」、「料理することで毎日がちょっと幸せになった気がする」というような感想を多くいただきました。そうした声を聞いているうちに料理とウェルビーイングはなにか関係がありそうだなと思うようになりました。そこで、食を通じてウェルビーイングな社会への貢献を目指して活動している味の素社に企画をお話しさせていただいたんです。

―そこから山口さんと味の素社でタッグを組み、慶應義塾大学の学生さんを対象に料理ワークショップを実施することになったのですね。

山口さん

はい。大学生というのは親元を離れて一人暮らしや自炊を始める人も多いタイミングです。学業だけでなくアルバイトや遊びも忙しい生活の中で、食生活が乱れやすい時期でもあるので、そういう人たちを対象に調査させてもらうことで見えてくるものがあるのでは?と思いました。

瀧本さん

料理ができなかったところから、料理ができるようになる過程の中で、料理とウェルビーイングの関係性が見えるのではという期待がありましたよね。

自分の気分や体調に合わせて料理ができる人が増えてほしい

料理というと、レシピを参考に完成形を目指すイメージがありますが、今回のワークショップで採用した学習法はそれとは一線を画す、レシピに縛られない料理への向き合い方でした。レシピがないので、それぞれのアイデアや工夫も必要となります。その先に、自分の気分や体調に合わせた料理ができるようになっていってほしいという狙いもあったようです。

―今回の「レシピのない料理ワークショップ」は、山口さんが提案している「料理の方程式」に基づく内容だったのですよね?

山口さん

はい。方程式というのは、「食材×調理法×味付け」のかけ合わせのことを指しています。この枠組みによって、レシピに縛られずに料理はもっと自由に考えられるんだということを提案しています。 たとえば「肉を何分焼く」と決めるのではなく、「色が変わったらひっくり返す」とか「調味料も割合で覚えてください」というふうに、ざっくりとした調理法を教えています。 それができるようになると、冷蔵庫に豚肉、玉ねぎ、しょうががあるというときに、しょうが焼きが作れるし、豚丼も作れるし、みそ汁だって作れる。その日の気分や体調に合わせて料理ができるって、すごくウェルビーイングだなと私は思いますし、そういうことができる人が増えてほしいという思いがありました。

まるで実験のような料理ワークショップでこれまでの料理観が覆された

ワークショップ参加学生
福井さん(左上)、磯野さん(右上)、安永さん(左下)、金城さん(右下)

今回の座談会には、ワークショップに参加した4名が来てくれました。山口さんが作ってくれた料理がおいしくて感動したという磯野さん。もともと山口さんのツイッターをフォローしていたという金城さん。洋服を着回すように、料理も工夫して作れるようになりたいと思っていたという安永さん。趣味で栄養学を学んでいた中で、山口さんの本に出会い興味を持ったという福井さん。
ワークショップに参加した時のことを振り返りながらお話いただきました。

―ワークショップは全8回に渡って開催されました。前半は「野菜を切る、ゆでる」、「鶏肉と豚肉を焼く」「サラダを作る」というようなテーマを設け、いろんな調理法を試しながら料理を作っていくというものでした。

レシピのない料理ワークショップ|プログラム

第1回 : 野菜を切る、ゆでる
第2回 : 鶏肉と豚肉を焼く
第3回 : サラダを作る
第4回 : 魚を煮る、焼く、ホイルで焼く
第5回 : 汁物を作る
第6回 : 炒めものを作る
第7回 : 料理を科学する
第8回 : 成果発表・料理実習

―第1回目のテーマは「野菜を切る、ゆでる」。どんな内容だったのでしょうか?

山口さん

第1回目は野菜のゆで時間を変えて、ゆでて、調味料をつけて食べるというものでした。

安永さん

30秒ゆで時間が変わるだけで、こんなに味や食感が違うんだと驚きましたね。実験みたいで楽しかったです。

磯野さん

最初はすごくシンプルで原始的だなと思いましたが、この体験があったからこそ、その後の内容もすんなりと受け入れることができた気がしています。

山口さん

楽しんでくれてよかったです。2回目は、肉を焼くがテーマでした。鶏肉の半分には塩で下味をつけてから焼き、残り半分は下味をつけずに焼き、焼いた後に塩をかけ、食べ比べをしてもらいました。
一般的には「下味をつけてから焼いたほうがおいしい」と教えることが多いのですが、それも人によるのかもしれないと思い、挑戦してみたワークショップです。塩を後からかけた方が「焼き鳥みたいで好き」と言う人もいて、なるほど!と思いました。

磯野さん

肉を焼くというだけでも奥が深いのだなと感じました。私は、このワークショップでいろいろと料理を作っていくうちに、これまで自分は火を通し過ぎて食材の大事な味を失っていたことに気づいて(笑)。

山口さん

料理を始めた頃って、加熱のちょうどいい加減をつかむまでが難しいんですよね。強火で焼き過ぎちゃう派と、慎重すぎて火を通し過ぎてしまう派がいますが、磯野さんはおそらく火を通し過ぎてしまう派の人で、うま味の抜けた肉を食べていたねという話をしましたね(笑)。

―第3回はサラダでしたね。

山口さん

塩もみした「カブのくたくたサラダ」と、「レタスのパリパリサラダ」の2種類、そしてドレッシングを作るという内容でした。

福井さん

ドレッシングを自分で作るというのが、目から鱗でした。これまでは、料理というと「凝ったものを作らなきゃ!」と思い込んでいたのですが、野菜を切って、調味料を混ぜて、ドレッシングを作るだけでも立派な料理なのだと気づいてから、キッチンに立つことへの抵抗がなくなっていきました。

自らの手でちゃんと作った!という達成感

4回目になる頃には、料理の感覚をつかめてきた学生も増え、調理や片付けにそれぞれの工夫やアイデアが見られるようになってきました。

山口さん

4回目は好きな魚の切り身を買ってきてもらい、煮魚、焼き魚、ホイル焼きの3種類を作ってもらいました。

福井さん

私はホイル焼きが一番好きでした。魚料理って時間がかかって、難しいイメージがありましたが、調理も簡単で10~15分くらいで完成することに驚きました。

山口さん

福井さんはその時に料理酒がなくて、家にあった焼酎を代用して作っていましたよね。自分でちゃんと工夫していたことに驚きました。最初から「この調味料を使わなければならない」というルールは設けていなかったので、 みんなもその自由さを感じてくれて、自分で考えて料理してくれたのが嬉しかったですね。

金城さん

リモートで各々の自宅からワークショップを受けていたので、使う調味料も人それぞれ違っていて、「その調味料を使っているんだ!」という発見もあり、おもしろかったです。「今度はその調味料で作ってみたい」など、楽しみも広がりました。

―第5回は汁物でした。サラダ、メイン、汁物と、これで定食が一通り作れるようになりますね。

山口さん

汁物の回では、かつお節から取っただし、味の素社の「ほんだし®」で作っただし、手羽先で取っただしを使って作りました。

福井さん

「だしだけでもおいしい!」ということにすごく感動しました。それを知ってからは、朝食の代わりにだしを飲んだり、「ほんだし®」をお湯に溶かして水筒に入れて持って行ったりしています。おいしくてホッとします。

―調理のワークショップの最後となる第6回は炒めものがテーマでした。「豚肉とキャベツの炒めもの」と「もやしの炒めもの」を作られたそうですね。

金城さん

キャベツを生のまま炒める方法と、事前に電子レンジで加熱してから炒める方法で調理しました。以前、キャベツと肉を一緒に炒めて焦げついた経験があり、なぜだろうと思っていたのですが、謎が解けました。火の通りにくい野菜は電子レンジを使って下処理するなど、先に加熱しておくテクニックがとても勉強になりました。

自分たちが作った料理をおいしいと食べてくれる喜び

6回に渡る調理ワークショップを体験してきましたが、第7回、第8回は特別編。第7回は、 味の素社員であり調理科学・食品化学スペシャリストの川崎寛也さんが登壇し、今まで料理してきた中で疑問に思ったことを科学の視点から解説するというものでした。

山口さん

6回目までは全てリモート開催だったのですが、7回目は初めての対面開催。当日は、私が調理をして、それを見ている学生が質問をして、味の素社の川崎さんが解説をしていくというものでした。

金城さん

川崎さんの解像度の高い解説がとてもおもしろかったです。今までなんとなくやっていた調理を、科学的な視点でひも解いてくれたので、より楽しく思えるようになりました。肉を焼くときに生じるフライパンの油や焦げはうま味なので肉に吸い取らせるなど、役立つテクニックも教えていただき、勉強になりました。

安永さん

肉を焼くとジューッという音をさせるべきだと思っていましたが、山口さんから教わったやり方ではフライパンが冷えた状態から肉を乗せて焼くので、全然音がしなくて(笑)。だけどちゃんとおいしくてびっくりしました。料理の先入観が覆ることが多かったですね。なんとなく常識だと思っていたことが、本質では無いことを知ることができました。

山口さん

最終回の第8回は、材料費2000円で、今まで学習したことを踏まえて各自自由に料理するというものでした。1人三品作り、そのうち一品は今までのワークショップで作った料理で気に入ったものを作ってもらいました。

第8回ワークショップの様子

磯野さん

私は同じ研究室の3人で作りましたが、とても盛り上がりました。 ワークショップで習った料理以外にグラタンやデザートなどたくさん作ったので、研究室の他のメンバーにも食べてもらいました。自分たちが作ったものを振る舞って、おいしいって言ってもらえることがすごくうれしかったです。

磯野さんが研究室の仲間と作った料理

他者の評価ではない、自分軸でおいしさを感じていい

8回に渡るワークショップを通して、料理の手順だけでなく、考え方や向き合い方も学んだ学生たち。料理ができる実感が芽生えるなかで、新しい発見もそれぞれあったようです。

―ワークショップを体験する中での気づきや、参加前後での変化はありましたか?

磯野さん

今までは外食が中心でしたが、自炊という選択が増えたことで、外食、自炊それぞれの役割がより際立つようになって生活にリズムが生まれました。 また、みんなで料理を分け合うなど、ともに食べる喜びを感じることができて、料理の楽しみが広がりました

福井さん

これまでは、「これを作りたい」というゴールやレシピありきで料理をしていましたが、ワークショップを通して、「今ある材料で何を作るか」を考えられるようになりました。レシピから少しでもずれると失敗だと思っていたけど、多少の味の違いもこれはこれでおいしいと受け入れられるようになりました。
また、料理だけでなく、自分のカラダに対しても意識が変わりました。料理との向き合い方が変わることで、自分が食べたいものに気づけるようになり、自分のカラダの声をちゃんと聞けるようになったんです。

山口さん

自分の食べたいものを自分で作れるようになることは、すごく大切なことですよね。料理は適当でもいいということ、そして、他者の評価ではない自分軸でおいしさを感じていいということを知ってもらえたのはうれしいです。

金城さん

このワークショップを通じて、料理をするハードルが下がりました。自炊を始めてから、こんなに安あがりで色々な料理を作れるんだということも実感でき、自炊を覚えたことで生きていく術の一つを身につけられたと感じています。

安永さん

僕は正直、ワークショップが終わってから少し料理と遠のきましたが、最近料理熱が復活し、パスタでいろいろと実験をしています。
大学の課題だと成果を上げるために長期間向き合う必要がありますが、料理だと数時間でちゃんと達成感を得られる。それがちょうどいいです。

山口さん

料理の自由さや楽しさ、自分で作る喜びを知っていただけたのが収穫です。また、「自分の体調に意識が向くようになった」「部屋をきれいにするようになった」というような声もありました。生活全般のウェルビーイングには食以外の要因も多く影響しますが、そこに料理がどう貢献できるのかを今後、明らかにしていきたいとも思っています。

うまくいかないことばかりの一日でも、ごはんはうまく作れた

自分のカラダの声に耳を傾ける様になった、目の前にあるものから創造する楽しさに気づけた、トライアンドエラーしながら探求していくおもしろさを見つけた、誰かと食事を共有する喜びを知ったーー。
参加者の声を聞き、あらためて料理とウェルビーイングの関係が見えてきました。

山口さん

前よりもうまく作れた、作れなかった料理が作れるようになった。そういうことが少しずつ増えていけば、幸せもどんどん増えていくのだと思います。「うまくいかないことばかりの一日でも、ごはんはうまく作れた」、そんな些細なことが自分を励ましてくれると思います。料理は五感を使って作るので、その工程で精神的にも満たされるし、物理的におなかもいっぱいになりますから。 自炊というのは、人の評価は関係なく、自分がおいしいかどうかが一番大事。自分軸でおいしかった、楽しかったということを感じられることが、ウェルビーイングにつながっていくのだろうなと思います。 そして、その食事を誰かと分け合うことによって、 お金では買えない幸せを育むことができる。それって持っていて損はしない技術なのではないかと思います。

瀧本さん

今回の取り組みを通じて、料理がウェルビーイング向上に貢献すると明らかにできたことが一番の成果でした。基礎的な調理技術や、調理による食材の変化を、科学的根拠とともに習得し、料理の応用力を身につける学習法によって、料理との向き合い方がポジティブに変化することが確認できたことも収穫です。
ワークショップの回を重ねながら、参加した学生一人ひとりの変化に伴走し、その声を聞けたことで、今後の取り組みへのヒントも多く得ることができました。
今回の学びをもとに、料理でウェルビーイングに貢献するための取り組みを今後も継続していきたいと思います。

Profile:
料理ワークショップ講師

山口祐加 Yuka Yamaguchi

自炊料理家・慶應義塾大学SFC研究所研究員※研究実施当時

1992年生まれ、東京出身。慶應義塾大学総合政策学部卒。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話 』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。好物はみそ汁。