この時期、花粉症に悩まされている方も多いのでは?マスクなどの対策はもちろん、実は日々の食事も、花粉症と関係しているそう。
今回は小児科医・公衆衛生の専門医として、特に「子どもの食」を医学的な観点から研究し、食生活指導や講演も行う伊藤明子さんにお話を聞きました。花粉症のメカニズムにはじまり、症状を和らげるための食生活のポイントを教えてもらいます!
- そもそも花粉症って?実は「内側からの対策」も大事!
- まずは、腸内環境を整えることから
- 「何を、いつ、どう食べるのか」を意識して
- いますぐ実践できる!花粉症対策レシピ
インタビューした人
小児科医・公衆衛生の専門医
伊藤 明子(いとう みつこ)さん
二児をもうけたあと、40歳で医学部を受験し医師に。開院した赤坂ファミリークリニックで院長を務めるほか、東京大学医学部附属病院小児科の外来も担当。特に「子どもの食」を医学的な観点から研究している。近著は『医師が教える子どもの食事50の基本』(ダイヤモンド社)。わかりやすい説明と親しみやすい人柄で子どもをもつ親から厚い信頼を得ている。また、同時通訳者として医学系会議を中心に活動中。天皇陛下や歴代首相などの通訳を務めた。
01
そもそも花粉症って?実は「内側からの対策」も大事!
──どうして花粉症にかかるのでしょうか。原因と発症のメカニズムを教えてください!
伊藤さん:花粉症は「即時型アレルギー」です。アレルギー反応を起こす原因となる抗原(アレルゲン)は多岐にわたり、一般的なスギ花粉やヒノキ花粉だけでなく、PM2.5のように特定できないものもあります。それらが目や鼻の粘膜に付着して体内に入ることで、アレルギー反応が起こります。
──花粉症対策は何をしたらいいでしょうか?
伊藤さん:外側と内側、両方からの花粉症対策を心がけてほしいです。
「外側から」は、マスクやゴーグルを使ってアレルゲンを寄せ付けない方法のこと、また、顔を清潔にして外へ出る前に、鼻のまわり(鼻腔周囲)にワセリンを塗布すると花粉をキャッチして鼻の中に入ることを防ぐことができます。
「内側から」の対策は食事に気をつけましょう。なぜなら、私たちが口にするものすべてが腸内環境に大きく影響し、花粉症とも関係してくるからです。
02
まずは、腸内環境を整えることから
──花粉症と腸内環境。どう関係しているのでしょうか?
伊藤さん:体内にアレルゲンなどの異物が入ると、免疫細胞が反応して、アレルゲンと闘うための抗体(IgE)を作ります。そして、免疫細胞の約7割が「腸」にいることが、これまでの研究からわかっています。(※1)
つまり、免疫力を高めるには腸内環境を整えることがカギになります。腸は心身の健康にとっても大切なパートナーともいえますね。
──健康的な腸内環境とは、どういった状態なのでしょうか?
伊藤さん:私たちの健康状態に影響を与える「腸内微生物叢(ちょうないびせいぶつそう)」に、細菌やウイルスなど、多種多様な微生物が混在していることが大事です。
でも、食事のとり方によっては微生物に偏りが出てしまうんですね。たとえば、ヨーグルトのパッケージなどで「善玉菌」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
「善玉菌」は、カラダの炎症を引き起こす物質をつくってしまう「悪玉菌」の増殖を抑える働きがあります。そのため、善玉菌が減り、悪玉菌が増えると、花粉症の症状も出やすくなってしまうわけです。そして、腸内環境を整えるために不可欠な「短鎖脂肪酸」も作られにくくなってしまいます。そうなると他の様々な臓器や脳にも影響してしまうので、当然心身の健康に望ましくありません。
──善玉菌を増やすためにできることはありますか?
伊藤さん:食習慣が大切です。まずは、善玉菌そのものを増やすことです。善玉菌を持つ生きた微生物や食品を「プロバイオティクス」と呼びますが、それらをしっかり摂りましょう。また、すでに腸内にいる善玉菌食物繊維「プレバイオティクス」も摂取するといいですね。
さらに、これら両方を一度に摂取できる食品を「シンバイオティクス」と呼びます。たとえば、お漬物ですね。中でも、京の伝統野菜である「すぐき」の漬物には乳酸菌や食物繊維が含まれ、とても体によいことが研究で示されています。他にも、ぬか漬けやキムチも有用ですが、特に「ゴボウのぬか漬け」は水溶性食物繊維が豊富な発酵食品としてもオススメです。
03
「何を、いつ、どう食べるのか」を意識して
──花粉症対策のために食生活で気をつけるべきことはありますか?
伊藤さん:アレルギー反応と体内時間は密接に関係しています。まずは、1日3食しっかり食べてください。
ここ数十年で研究が進んでいる「時間栄養学」の観点からいえば、朝、たとえば7時ごろに朝食を摂ることがものすごく大事なんですね(※2)。
多数の研究において、体内時計を整えることが免疫能を保ち、強化することにつながると示されています。時間栄養学の研究からすると、特に朝食に取り入れてほしいのはたんぱく質で、全身免疫の強化につながります。わたしたちの細胞には「時計遺伝子」が働いているので、「いつ、何を食べるか」が心身の健康や免疫にも関与しているのです(※3)。
今回の花粉症対策と直接的な関係はないのですが、朝食を食べる時間が1時間遅くなるごとに、心血管疾患で亡くなるリスクが6%も上がるという研究結果も出ているくらいです(※4)。
また、夕食も遅くなればなるほど脂肪の蓄積と、たんぱく質や脂質と余分な糖が結びつくことで老化物質を作る「糖化」という現象が進むので、できれば20時までに済ませましょう。糖化現象は老化を促すだけでなく、疾患リスクの上昇にもつながります。
糖化によって生まれた物質でアレルギーが起きやすくなる機序(仕組み)は解明されてきています。それらが自然免疫にも、獲得免疫にも作用することも示されています(※5)。
──オススメの栄養素や食材を教えてください!
伊藤さん:たんぱく質、ビタミン、ミネラル、脂肪酸、食物繊維。要は五大栄養素すべてですね。
中でも意識していただきたいのは、1食ごとに、手のひら1杯分のたんぱく質を摂ること。それから、腸の健康に欠かせないビタミンDもお忘れなく。当院で患者さんの血液検査をしていますが、8割くらいの方が「ビタミンD欠乏症」という結果が出ています。つい最近の東京慈恵会医科大学からの研究でも98%の日本人成人がビタミンD欠乏だと示されました(※6)。
なぜかというと、普段の食生活では十分な量を摂れないですし、太陽を浴びることで作られるビタミンですが、冬は外にいても十分に作られませんし、夏は日焼けによるシミやしわの害もあるので、日光に肌を曝してしまうのもあまりオススメできません。
食事だけで1日に必要な栄養摂取量を満たすことは難しいですが、ビタミンDを含むさけ(サーモン)やイワシをしっかり摂ることはオススメです。
──逆に、控えた方がいい食材はありますか?
伊藤さん:「高脂肪食」や、ホットケーキやドーナツといった「こんがりと焦げた褐色の部分」が多いような「糖化食品」の摂りすぎは、確実に腸内細菌にダメージを与えてしまうので多少なら良いですが、食べ過ぎないよう注意しましょう。
それから、子どもも大人も、1口30回は噛みましょう。早食いや飲み込み食いは消化が不十分になります。
04
いますぐ実践できる!花粉症対策レシピ
花粉症に負けない体をつくるために、積極的にとりたい栄養素を補うレシピを「AJINOMOTO PARK」からご紹介します。食物繊維やビタミンD、たんぱく質を、意識的に取り入れていきましょう!
下準備ができたら、あとは混ぜ合わせるだけ!野菜と魚を一緒に摂れますよ。
「オイスターソース」と「丸鶏がらスープ™」でマンネリ解消!たんぱく質を摂取しましょう。
最後に、「腸の健康を保つためには、十分な睡眠や適度な運動、ストレス管理も必要です」と伊藤さん。できることから少しずつ始めていきましょう!
<出典>
※2:The Big Breakfast Study: Chrono‐nutrition influence on energy expenditure and bodyweight
※3:Circadian Influences of Diet on the Microbiome and Immunity
※4:Dietary circadian rhythms and cardiovascular disease risk in the prospective NutriNet-Santé cohort